prologue[降臨]02

 始まりは戦いだった。戦争ばかりのこの世界では、いつものことだった。
 

傭兵1:「おい、あれ<連合国軍>じゃないか?」

傭兵2:「正規軍か?」

傭兵1:「いや、向こうも傭兵のようだ」

傭兵3:「まともな正規軍なんてほとんど残っちゃいないさ。……さ、いこうぜ」

傭兵1:「砦の守りを固めろー! あと、黒炎隊長に報告を!」

ビオ:「いきなり戦闘か。……ま、いつものことだが」
 

 トカゲ種のビオ・サバール・ローレンラウシェンはしっぽを一振りすると、大型のアックスハルバートを手に取った。

 2.5メートルはある巨体が、のそりと立ち上がる。
 

リトナ:「さてどうしよう。(パーティを見渡して)回復役が欲しいとこだね。前で戦うヤツばっかりみたいだし」
 

 まるまって眠っていた猫――リトナ・A・Iが顔を上げる。白い毛並みの猫だが、先っぽの方だけ紫色をしている。
 

ヴァンダイク:「そうだな」
 

 ヴァンダイク公爵――元公爵が尖った顎鬚(ヴァン=ダイク)をしごきつつ相づちをうった。彼の背中には黒い翼がある。
 

リトナ:「よし、回復魔法使えるヤツを求めて敵の本陣に突撃だ! 回復役はきっと後方にいるに違いない」

ドモ・ルール:「それは体を乗っ取れってことか?」

リトナ:「もちろん」
 

 リトナの返事に、ドモ・ルールはちょっと顔をしかめた。正確には『宿主』が、だが。

 ドモ・ルールは指輪だ。他人に寄生することで生きていける。
 

ドモ・ルール:「この乱戦の中で、取り憑くのは危険だぞ。時間かかるし」

リトナ:「いい死体を確保したら、物陰に運ぶんだ。そこでやれ」

ビオ:「本当は戦いが終わった後でゆっくりやるべきなんだろうが、今回は仕方がないな」

ヴァンダイク:「では、レプス04小隊、出撃だ」

GM(ゲームマスター):物語の舞台は魔界<アルカディア>。そこにある<帝国>の96番目の姫、フェルチアイアが私的につくった傭兵集団レプス隊――人数は100人ぐらいかな――君たちはその一員である。

ヴァンダイク:ふむ。

GM:レプス隊の隊長は黒炎という刀使いの長身の男だ。殺人鬼のような目付きをした冷酷な人。

ビオ:クロヌシだろ?

GM:いや、見た目はそっくりだけど、彼は黒炎だよ(笑)。で、君らはその第04小隊

リトナ:レプス04小隊、だね。

GM:今、フェルチアイア姫とレプス隊は<帝都>の西にある砦にいる。で、そこに敵が攻め込んできているのだな。

ビオ:なるほど。

GM:あ、そだ。魔族は血が流れてないって設定にしちゃったから(第二部第八話参照)

ヴァンダイク:小さい子供を配慮してのことだな。

GM:その代わり、生体エネルギーみたいなものが傷口から出ていくんだろうね。だからケガをそのままにしておくと死んでしまうから気をつけるように。

ビオ:ふむ。

GM:トカゲ族は緑の体液とか流れてそうだけどね。
 

 砦での戦いはすぐに乱戦になった。04小隊は『回復役』を求めて敵本陣へ向かう。
 

ビオ:うおおおおおおおおお!!!

リトナ:人型になって戦ってもいいけど……オレは高いところに上って、下のヤツらに指示を出そう──しっぽで。

GM:お前はそんなに偉くないだろ。それに、他の人たちは突撃していくみたいだぞ。

リトナ:しょーがない、オレもついていこう。

GM:敵の本陣は、砦からやや離れたところで様子をうかがっているようだ。

ビオ:よしいこう。巨大ハルバートを振り回して。

リトナ:『できれば迂回して、側面から攻めた方がいいんじゃない?』……というのを、人型のままどうやってみんなに伝えたらいいと思う?

ヴァンダイク:いきなり不便ではないか(笑)。

ドモ・ルール:猫型になればいいだろうが。そうすれば話せるんだろ?

リトナ:ネコになったら噛み付くとか引っ掻くとかしかできないんだけどな……。──まあいいや、ネコになって足元を走り抜けよう。
 

 ハルバートを振り回すビオ。攻撃をよけつつ、時々人型になって剣で攻撃するリトナ。

 そして刃の鞭を舞わせるヴァンダイク。
 

リトナ:──で、本陣に横から突っ込むってことでいいの?

ヴァンダイク:「兵隊さん、靴を磨かせておくれよぅ」と言いながら、爆弾をかかえて突っ込む。子供の格好をして。

ビオ:(頭をかかえて)……まずい、馬鹿だコイツ。

ヴァンダイク:だが、こういう乱戦状態では鞭系の武器は使いづらいと思うが。

GM:剣にして攻撃するしかないね。

リトナ:ビオの懐に飛び込んで、安全確保〜!

ビオ:おい(笑)。

ドモ・ルール:『凍結』の魔法で攻撃しつつ、回復役を探すぞ。

GM:りょーかい。
 

 そのとき。

 空が──堕ちてきた。

 厚く雲が立ち込める赤い空。

 雲間から光が降りてくる。

 羽が。

 無数の羽が見える。

 揺れる大地。遠い雷鳴。

 降り注ぐ無数の光球。

 光は『種』となり、『種』は芽生える。

 光が焼き尽くし、触手が貫く。

 轟音と悲鳴と破壊と殺戮と死。

 それはまるで……『神』の降臨。
 

ビオ:「一体何事だよ、こりゃあ……」

リトナ:「……姫が心配だ。戻った方がいいよな?」

ヴァンダイク:「皆が同じことを思っとるかもしれんぞ」

ドモ・ルール:「それに隊長だっているだろうし」

ビオ:「そうでなくても親衛隊代わりの傭兵ぐらいはいるだろう」

リトナ:「でも……やっぱりオレ、戻る。みんなはドモの身体を探しにいってくれ」

ドモ・ルール:というか、我々は姫と直接口を聞けるような身分なのか?

リトナ:オレ、猫だから。

GM:姫からエサとかもらってたんだな、きっと。

リトナ:(GMを見ながら)うちの上官はどうもケチだからな。モンプチスペシャルもダメってヒドイと思わない?

GM:お得用キャットフードで十分。

リトナ:そういうワケだから、大丈夫だと思うよ。話しかけるのは初めてだけど。

ビオ:普通の猫のフリをしてたんだな。

GM:姫様、猫だと思っていろいろ恥ずかしいことを話しかけてたらどうしよう。

ドモ・ルール:「実は私、黒炎のことが好きなの」とか。

ヴァンダイク:「もう気づいてると思うけど、私オトコなの」とか。

リトナ:なんと! あの胸は偽物か!

ドモ・ルール:触ったことあるんかい。

リトナ:いつかあそこに潜り込もうかと。猫だし。

ビオ:「話がまとまったところで二手に分かれるか」

リトナ:「あとから追いかけてきてくれよ」

ビオ:「ドモの身体でいいのが見つかったらな」

ヴァンダイク:コイツは白衣を着てるから医者に違いないと思ってさらってきたら、実は飯炊きのおばさんだったということもあるかもしれんが。

ドモ・ルール:頼むぜ〜。できれば生け捕りで。

リトナ:できれば美人のお姉さんを。

ビオ:俺に美人とブスの見分けがつけばな。

GM:そのへんは判定して決めようか。



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