ACT13.5[わたしがふしぎ] 02

GM:では、また別の日のこと。

レイチェル:はい。

エイドシック:「こんにちは、レイチェル」

レイチェル:「…………」(うなずく)

エイドシック:(じっと見て)「顔色もいいようだ」

レイチェル:「…………」(じっと見返す)

GM:ふむ。

レイチェル:今レイチェルはどういう状態なのかな。機械につながってるとか?

GM:どうなのだろう。鎧を外して、イスに座って、背中の端子がイスのプラグと接続中、とか?

レイチェル:そんな感じかな?

GM:てことはまたハダカですか(笑)。

レイチェル:困ったなぁ(笑)。

GM:黒のアンダースーツだけ着ておく?

レイチェル:長の趣味による(爆)。

GM:アンダースーツ、着ておくか……最初は。

レイチェル:最初は。――この定期チェックって、以前からずっとやってるの? それとも最近になってから?

GM:『結界』が閉じてしまってから、だろうね。それと、別に定期検診というワケではないです。

レイチェル:分かった。あれからどれくらい経っている?

GM:えーとね、閉じてから1週間〜2週間は過ぎてるのではないかと。

レイチェル:閉じてしまってからそんなに時間が経つのか。

エイドシック:「あれから、心について考えてみましたか?」

レイチェル:「……私は、長のようなかたちで心について考えたことはありません。『心」』という『考え方』がある、と理解していました」

エイドシック:「なるほど……。ではレイチェル、今日は違う話をしましょう」

レイチェル:……カウンセラーか?(笑)

GM:そんなかんじだねえ。

レイチェル:「…………」(長のほうを見る)

エイドシック:「レイチェルは……『魂』についてどう考えますか」

レイチェル:「宗教において、万物の本質とされる超次元的存在。『心』は『魂』の活動のあらわれでしょうか……」(なんとなくうつむき加減に)

エイドシック:「では……『完全なる魂』とは……どのようなものだと思いますか?」

レイチェル:「『心』を持つ人間が不完全だというのならば、『完全なる魂』とは、活動をしない魂、ということになるでしょう」

エイドシック:「『活動しない魂』……いい答えです。――レイチェル、あなたは素晴らしい……」

レイチェル:「しかし……、活動をしない魂を持つ、完全なる存在とは……」

エイドシック:「そんなモノ、存在しないと?」

レイチェル:「……分かりません。ただ、仮に存在したとして……人が心を捨て、そうなれたとして、はたしてそれに意味があるのかどうか……」

エイドシック:「意味? ……いらないんですよ、そんなものは。ただ、そこにあればいい……」

レイチェル:「………………」(自信もなく、何も言えないが、確かにその目には否定の色が)

エイドシック:「……今日はここまでにしましょう。――今日も、『門』は開かなかったようです」

GM:では今日もカウセリングを始めましょう。

レイチェル:なんだか(笑)。

GM:てことで、前回から、またいくらか時間が過ぎた。

レイチェル:はい。

エイドシック:「レイチェル、あなたは知っていますか?」

レイチェル:「はい……?」

エイドシック:「この世界に、『神』は実在することを」

レイチェル:「……神……」

エイドシック:「私は、一度だけお会いしたことがあります」

レイチェル:「神……。神に、会うのですか……?」

エイドシック:「いえ、あれは偶然……奇跡のような、偶然の結果でした。私は『神』を目の当たりにした……素晴らしい体験でした。――レイチェル、あなたは神の存在を信じますか?」

レイチェル:MOND世界において、『神』というのが実在するのはいいのだけど、一般人からして『神』の存在というのは、我々の世界と比べて、どうなの?

GM:『神』が実在している、というのは一般常識として知ってていい。ただ、実はちゃらんぽらん……人間くさい存在であることを知る者は少ないし、そうそう逢えるものでもない。

レイチェル:「私にとって、信じる信じないという議論は無意味です。私は『神』に会ったことがないので、私にとって『神』の実在は仮定でしかありません。ただ、様々な推論の上で、『神が実在する』という仮定を前提として使うことは多々あります。しかし……、人々が神に祈りをささげたり、畏れをなしたり、という感情を、理解しているわけではありません。理解しているのは、『神を信じる』ということが、人々にとってとても重要なことである、ということだけです」

エイドシック:「『心』を、判りたいとは思いますか?」

レイチェル:「…………はい……」

エイドシック:「では、なぜあなたには『心』が理解できないのでしょう? あなたの中には、確かに『魂』も『心』もあるはずなのに」

レイチェル:「原因は……私が、他の人々とは違う存在だから……」

エイドシック:「違う? ……何が、違うのです?」

レイチェル:「私は、生まれたときに、既にこの身体で、言葉も、一般常識も、その他にもいろいろなことを知っていました。他の人々のように……子供であった時期が、ないのです。だから、私には、他の人々と共有できていないものが多くあるのです。……それに……」(言葉が続かず、口を閉ざしてしまう)

エイドシック:「『心』は……時間をかけて、少しずつ、構築していくものだと?」

レイチェル:「……はい。そう……考えます」

エイドシック:「では……あなたの『心』はきっと、無垢で、汚れを知らないのでしょうね……」

レイチェル:「……いえ……違う…きっと……私の『心』は……」(目を閉じてうつむく。体が震えている)

エイドシック:「恐れも、猜疑も、後悔も、嫉妬も、迷いも、あなたが感じる必要はないのですよ。……今日は、ここまでにしましょう」

レイチェル:なんだかもう、レイチェルはしばらく動けないです。
 

 そんなレイチェルを――全裸のレイチェルをそっと抱きしめ……エイドシックは、笑みを浮かべた。



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