ACT15.0[やわらかなきずあと] 06

GM:話は、タンが話した内容とほとんど一緒だ。

フウゲツ:「……なぜ殺した」

チンピラ3:「ンなこと、本人に聞けよ」

チンピラ1:「知らねえよ!」

レイチェル:「知らないということはないだろう」

ヴァイス:「お前は理由もなく人を殺すのか?」

チンピラ1:「俺にだって! ……俺にだって、分からねぇんだ。ただ、怖くて。スゲー……怖くて……」

シュリ:理由もなく怖い……?

GM:生理的に、本能的に、恐怖を感じて……思わず、刺したらしい。

ヴァイス:そんな理由で……納得しろと……?

GM:と言われても。彼にとっては、そうだったらしいから。

シュリ:(ため息をついて)「ここまでみたいね。──レイチェル、今までの会話、プリントアウトして。調書にするから。ヴァイス、ここにサインして。(チンピラたちに)アンタたちはここにサインと捺印ね」

GM:よく分からんまま、サインしよう(笑)。

シュリ:裁判権とかあるかどうか分かんないけど、これが調書になると思うから。

ユリア:自警団って私刑とかできるの?

エミリー:リンチ?

ヴァイス:僕にある程度権限はあるけど……やっぱりきちんとした裁きは、帝都に送検してからだろうね。

チンピラ1:(ぼそっと)「くそ……そもそも5年前のアレが、ケチのつきはじめだ……」

フウゲツ:「なに……?」(ピクッッ)

ヴァイス:「げ……」

レイチェル:最悪だ。

ヴァイス:フウゲツさんは……5年前のこと、知ってるんだっけ。

フウゲツ:さっき、レイチェルから聞いた。──どうやらこの男は、もう少し歌いたいらしいな。

エミリー:余罪の追及は、帝国の方に任せたら?

シュリ:………………。そうね。その方が……いいかもね。

フウゲツ:その……スノウを刺したってヤツに歩み寄る。

エミリー:ち、ちょっと……!
 

 バキィッ!
 

 鈍い音とともに、椅子ごと男が床に転がった。

 宙に、血が舞う。

 ぽたぽたと、フウゲツの拳から血がしたたり落ちる。

 何度も何度も強く握り締めたその手のひらは……裂けて血まみれだった。

ヴァイス:僕は、調書とか書類をまとめるために、一度寮に戻る。

GM:他のみんなは、教会へいくのかな?

エミリー:その前にチンピラどもをどうにかしないと。

シュリ:村長を閉じ込めておいた地下牢に入れておけばいいんじゃない?

ヴァイス:地下牢なんてあったんだ。

GM:初耳ですなー。それに、村長を地下牢に閉じ込めたという事実もない……はず。

レイチェル:軟禁はしたが。

GM:オーキッドとブルーは食糧庫の見張りか見回りにいった方がいいのかな?

エミリー:そうね。タンもいるから、コイツらの見張りをさせるのはちょっとね……。

シュリ:レイチェルは『古の民』のところに戻らないといけないだろうから……見張りは、あたしとユリアでいいんじゃないかな。

ヴァイス:じゃあ、僕、いくから。

シュリ:そーね。あたしは……とりあえず、フウゲツの手の治療かな。

 ヴァイスはひとり、寮へと続く道を歩いていた。いつの間にか、すっかり夜が明けてしまっている。
 

ヴァイス:スノウの事件は一段落したけど……食料ももうないんだよなぁ……。

GM:さてヴァイス──突然、君の視界が二重、三重にぶれ、狭まっていく。

ここにいないフウゲツ:貧血のときみたいなかんじか?

GM:近いかも。──オマケに、耳鳴りもする。そして……記憶のフラッシュバック。
 

 鋼がぶつかり合う音。炎の熱さ。血の匂い。

 ──幼い頃の記憶。

 『月影の民』と『地の民』の紛争。

 傷を負った自分。両親とともに『アーケイン』へ来たとき……そう、そのときスノウに出逢ったのだ。
 

GM:幻覚とは思えない圧倒的なリアリティ。時間軸を無視した完全な追体験。

ヴァイス:目を強くつぶって、首を振って、それから目を開けてみるけど?

GM:幻は消える。──でも、まだ幻の中にいるような感覚がある。『現実感』が減った、とでも言うのかな。フィルタを通してモノを見ているような。

ここにいないシュリ:眠りに落ちる直前の光景みたいなかんじ? 風景も音もはっきりしてるのに、自分がそこにいないみたいな。

フウゲツ:あー、分かる分かる。客観的に自分のことを見てるんだよな。

ここにいないレイチェル:それは、脳が情報の選別をしなくなるからだ。

ヴァイス:うーん……。そのへんの壁を触ってみるけど?

GM:触れられるよ。間違いなく壁である。

フウゲツ:またヴァイスが怪しい行動を……。

シュリ:怪しまれないように、ノートに材質をメモしてるフリをすればいいよ。

フウゲツ:材質、石。

エミリー:それでも十分怪しいって。

ヴァイス:自分の体も触ってみる。

GM:問題なく触れる。

フウゲツ:……またヴァイスが怪しい行動を。

ヴァイス:何がどうなってるんだ……?

GM:異変が起きてるのはヴァイスだけじゃない。──シュリは暗闇の中で過ごした頃の記憶が。ユリアは「強くなりたい」と思っていた記憶が。エミリーはお金を持ち逃げした姉と義兄を追っていた記憶が。それぞれ蘇る。

シュリ:ちょっと気が抜けたときにふっと思い出すのかな? 白昼夢みたいに。

GM:そんなかんじかな。

ユリア:「強くなりたい」と思っていたのは今の記憶ではないね。今は、そうは思っていないから。

エミリー:わたし……あんまりカッコイイ記憶ぢゃないんだけど……。

GM:んなこと言われても。こういう設定にしたのは君だ。

シュリ:そうそう。教会のお金を持ち逃げした姉と義兄を追って、なぜかアーケインに住み着いたエミリー。ちなみに妹の名前はウェンディ。

ヴァイス:ウェンディって、あのウェンディ?

GM:そう、第三部に出てきたあのウェンディ。

フウゲツ:へー、そうだったのか……。

GM:実はみんないろいろ過去があるんだよね。

レイチェル:……GM、その幻覚は私には見えないのか?

GM:レイチェルには見えない。だからホフヌング時代を思い出すこともない。

エミリー:そう言いながらチラリと過去を明かすあたりが。

GM:ふふ、やはり日本人はチラリズムでしょう(?)。

ヴァイス:あのさ、僕の症状はどうなったの?

GM:しばらくすると治るよ。

ヴァイス:何だったんだろう……。

シュリ:あたしたちも同じようなかんじになるの?

GM:いや。耳鳴りとか目眩とか現実感が薄れたりというのはヴァイスだけ。

ヴァイス:僕だけなの!?

GM:はいな。他の人はリアルな幻覚を見るだけ。

ヴァイス:ますますワケが分からない……。

GM:仮面のもの、銀髪の少女、猫、ノエル、過去の追体験、薄れる現実感……。

ヴァイス:そうか。考えてみたら、幻覚とか幻とかそういう現象が多いな……。……原因を調べてみるべきなのかもしれない。

 自分の手のひらに巻かれていく白い包帯を、フウゲツはぼんやりと眺めていた。
 

 これが……現実なのか……

 こんな事実を知るために、俺は帰ってきたわけじゃない……
 

 別の自分が問いかける。
 

 俺は……どんな真実が待ってると思ってたんだ……?

 納得がいくような、自分の悲しみが少しでも薄れるような、そんな真実を夢見ていたのか……?
 

シュリ:「はい、これでいいわ」
 

 包帯を巻いたところを、ぽんと軽くたたいて、シュリは言った。
 

フウゲツ:「ああ、かたじけない」
 

 でも……でもよ。

 こんな真実……かなしすぎるだろ……?

GM:さて。今、自警団の砦にいるのはフウゲツ・シュリ・ユリアか。

シュリ:そうね。

GM:そこへ、シルヴァばーちゃんが走り込んでくる。

シュリ:ばーちゃん、無理したらダメだって。

シルヴァ:「ぜー、ぜー、ぜー……」

フウゲツ:「ばーちゃん、何事だ?」

シルヴァ:「ス、スノウが……」

フウゲツ:「スノウがどうした?!」(立ち上がる)

シルヴァ:「スノウの遺体が……消えてしもうたんじゃ……」

一同:「はあぁ!?」

 オゴーレ教会──

ヴァイス:僕もそこにいっていい?

GM:んー、まあ、誰か連絡にきたことにしよう。

フウゲツ:「詳しいことを聞かせてくれ」

シア:「私、眠ってしまってて……それで……」

セツ:「代わりに私が起きてはいたんですけど……」

ヴァイス:目が見えない人に見張りをさせたの?

GM:見張りというか……まさか誰も遺体が消えるなんて思ってなかったしねえ。

フウゲツ:それもそうか。

シュリ:遺体の周りに足跡とか残ってない? 歩いて移動したような。

エミリー:床が石だから足跡は期待できないのでは? ……いくら掃除が行き届いていないとはいえ。

GM:そうだね。スノウを安置していた台の周りに、不審な足跡はないよ。

ヴァイス:突然、消えてしまったと……?

GM:スノウにかけられていた白い布も乱れていない。忽然と消えてしまったようだ。

ユリア:種は落ちてないれすか?(←懐かしの第一部ネタ)

GM:ないよ(笑)。

シュリ:キョンシーになったりしたわけでもないのね。

GM:ないだろうね。

ヴァイス:誰かがこっそり運び出したというのも、今のところ考えられない……。

フウゲツ:他のところも探そう!
 

 教会内は隈無く調べた。

 教会周辺も、オルドレース家も調べた。

 しかし……ついにスノウの遺体が見つかることはなかった。
 

.be.Continue...
仲間を信じること。人を愛すること。
自分を犠牲にしてでも、何かを守ること。
それは素晴らしいことなのだと、人は言う。
だけど……僕には何もない。
僕はただ、待つだけ。
僕の世界が終わるときを、待つだけ。
無限に続く螺旋の果てを……望むだけ。



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