GM:強かったんだろうね。妄念。妄執。もちろん本人が悪いんだけど……どうしようもなく孤独だったんだよね。
ヴァイス:そっか……。──……サリースは、あらがったんだと思う。
『ならば、それが真実だ』
『あらがったんだよ。それでもダメで、限界で……戦って戦って負けて……』
『あるいは止めてほしくてここに来たのかも』
『数分間しか表層意識に出てこれなくても、それにしがみついて……。止めて、ほしくて……』
『彼女は今、ほっとしてるの? それとも、諦めてるの?』
『諦観』
『こういう人生だったかという諦めなのか、やっと誰かが止めてくれると思っているのか』
ヴァイス:やっと止めてもらえる、だと思う。抵抗して、疲れ果てて……。
『やっと、死ねる……』
『このまま許される、とは思えないんですが』
『許されないだろう』
『でも取り憑いてる精神体を祓う方法があるかもしれない。救う手立てがあるかもしれない』
『君がその方法をあると信じ、それを探すというなら、そこから新しい物語が生まれるだろう。そんな方法はないと諦めるなら……物語はそこで終わりだ』
『さあ、どうする……?』
長い、刹那の思考。たくさんの声。そして……ヴァイスは決断した。
サリース:「言った、わね……」
ヴァイス:右手の『オーラ・ブレード』を一回消して……ゆっくり、サリースの方に近づく。
サリース:「………………」
ヴァイスは……左手で、そっとサリースを抱き寄せた。
ヴァイス:「僕がもっと修行して、アナタを救えればよかったんですが……。すみません、こんなことしかできなくて」
右手に握ったワンドを、サリースの背中に添える。
そして……光の剣がサリースの胸部を貫いた──ヴァイスごと、貫いた。
エミリー:アホかぁ……。
あの言葉はただの挑発。
でも、あたしの本心。
ひとりで死んでいくことが……怖くてたまらなかったんだ。
一緒に死のうとしてくれたのはうれしかったけど……やっぱり勝手だね、あたしって。
──……どうか……アナタは死なないで。
GM:サリースの重みがヴァイスに、そして『剣』にのしかかる。『剣』を消すとサリースの身体はずるずると崩れ落ち……ヴァイスのローブを縦に赤く染める。
フウゲツ:ヴァイスは……このことを忘れちゃダメなんだぞ。
ヴァイス:……はい……。
フウゲツ:うーん、後始末が大変だ。
シュリ:ケガ人の治療もしないといけないし。疲れ果ててるけど、ここからまた不眠不休ね。
GM:そうしてるうちに時間が過ぎて、『結界石』もできあがるだろ。……直しちゃっていい?
フウゲツ:いいのでは。
GM:『門』は開ける?
シュリ:今はいいんじゃないかな。必要物資を買い出しにいかないといけなくなったときで。
GM:では、『結界』は修復され、ぴたっと閉じた。──『二重結界』は?
レイチェル:閉じる必要はないのでは。……私、ずっと『古の民』のところにいたような。
フウゲツ:そういえば、一番の戦力のはずがほとんど戦ってないな。
GM:じゃ、死傷者の数を決めようか。サイコロ、気合入れて振ってよ?
フウゲツ:ドキドキ。
GM:んじゃ、まずはNPCの死亡判定から。
サイコロを降るプレイヤーたち。その結果……
GM:次、『魔族ハーフ』のリーダー。出番はなかったけど。
レイチェル:いきます。(コロコロ)……1。
一同:………………。
レイチェル:あ、あのっ、あのっ……。
エミリー:まあまあ。サイコロの目は、本人のせいではないから。
GM:……気を取り直して、次はその他の人たちの死亡判定。
フウゲツ:ドキドキだぜ……。(コロコロ)『月の民』は9人死亡。
ユリア:(コロコロ)『魔族ハーフ』は、1人だけれす。
GM:それ以外でリーダーが死んだけどね。
エミリー:中央広場の96人以外での、一般人は……(コロコロ)84人死亡。
一同:おいーッッ!!!
エミリー:まあまあ。サイコロの目は、本人のせいではないから(笑)。
GM:合計で……800人中191名死亡、負傷者はたぶんその倍以上。
フウゲツ:4分の1が死んだ……スゴイことだ、これは。守り切れなかった自分に腹が立つ。
GM:埋める場所もないような気が……。
ヴァイス:あ。
GM:ん?
ヴァイス:『結界』のヒビが直る前に、サリースの死体を『結界』の外に埋めてきていい?
GM:いいよ。ヒビが直るのは3時間ぐらい後だし。
サリースの亡骸を木の根元に埋め、ヴァイスは痛む腹部に手を当てた。
エミリーに(呆れた顔をされつつ)応急処置してもらったものの、包帯には血がにじみ、ズキズキとうずく。
大きな傷だ。完治しても傷痕は残るだろう。
ヴァイス:(あのとき……僕は死んでもいいと思って自分ごと刺しました。アナタはひとりじゃ死なないって、伝えたくて。……結局死にはしませんでしたけど、この傷痕を見る度、僕はアナタを思い出します。アナタのことは忘れません)
ヴァイスは、顔を上げた。
わずかに傾いた太陽が、空を青と金に染めようとしている──
例えば僕が落ち込んだら。
例えば僕が傷ついたら。 例えば僕が死んだら。 誰か、泣いてくれるだろうか。 開かぬ門。閉ざされた空間。 来たるべき未来を、僕はまだ知らない……。 |