ACT11.0[コドクのはて] 09

ヴァイス:……サリースの父親の思いって……そんなに強かったのかな?

GM:強かったんだろうね。妄念。妄執。もちろん本人が悪いんだけど……どうしようもなく孤独だったんだよね。

ヴァイス:そっか……。──……サリースは、あらがったんだと思う。
 

 『ならば、それが真実だ』
 

 『あらがったんだよ。それでもダメで、限界で……戦って戦って負けて……』
 

 『あるいは止めてほしくてここに来たのかも』
 

 『数分間しか表層意識に出てこれなくても、それにしがみついて……。止めて、ほしくて……』
 

 『彼女は今、ほっとしてるの? それとも、諦めてるの?』
 

 『諦観』
 

 『こういう人生だったかという諦めなのか、やっと誰かが止めてくれると思っているのか』
 

ヴァイス:やっと止めてもらえる、だと思う。抵抗して、疲れ果てて……。
 

 『やっと、死ねる……』
 

 『このまま許される、とは思えないんですが』
 

 『許されないだろう』
 

 『でも取り憑いてる精神体を祓う方法があるかもしれない。救う手立てがあるかもしれない』
 

 『君がその方法をあると信じ、それを探すというなら、そこから新しい物語が生まれるだろう。そんな方法はないと諦めるなら……物語はそこで終わりだ』
 

 『さあ、どうする……?』
 

 長い、刹那の思考。たくさんの声。そして……ヴァイスは決断した。

ヴァイス:「確か……覚悟を行動で示せって言いましたよね?」

サリース:「言った、わね……」

ヴァイス:右手の『オーラ・ブレード』を一回消して……ゆっくり、サリースの方に近づく。

サリース:「………………」
 

 ヴァイスは……左手で、そっとサリースを抱き寄せた。
 

ヴァイス:「僕がもっと修行して、アナタを救えればよかったんですが……。すみません、こんなことしかできなくて」

 右手に握ったワンドを、サリースの背中に添える。

 そして……光の剣がサリースの胸部を貫いた──ヴァイスごと、貫いた。
 

エミリー:アホかぁ……。
 

 あの言葉はただの挑発。

 でも、あたしの本心。

 ひとりで死んでいくことが……怖くてたまらなかったんだ。

 一緒に死のうとしてくれたのはうれしかったけど……やっぱり勝手だね、あたしって。

 ──……どうか……アナタは死なないで。
 

GM:サリースの重みがヴァイスに、そして『剣』にのしかかる。『剣』を消すとサリースの身体はずるずると崩れ落ち……ヴァイスのローブを縦に赤く染める。

フウゲツ:ヴァイスは……このことを忘れちゃダメなんだぞ。

ヴァイス:……はい……。

GM:主を失った『できそこない』たちは、あるいは溶け、あるいは飛散した。

フウゲツ:うーん、後始末が大変だ。

シュリ:ケガ人の治療もしないといけないし。疲れ果ててるけど、ここからまた不眠不休ね。

GM:そうしてるうちに時間が過ぎて、『結界石』もできあがるだろ。……直しちゃっていい?

フウゲツ:いいのでは。

GM:『門』は開ける?

シュリ:今はいいんじゃないかな。必要物資を買い出しにいかないといけなくなったときで。

GM:では、『結界』は修復され、ぴたっと閉じた。──『二重結界』は?

レイチェル:閉じる必要はないのでは。……私、ずっと『古の民』のところにいたような。

フウゲツ:そういえば、一番の戦力のはずがほとんど戦ってないな。

GM:じゃ、死傷者の数を決めようか。サイコロ、気合入れて振ってよ?

フウゲツ:ドキドキ。

GM:んじゃ、まずはNPCの死亡判定から。
 

 サイコロを降るプレイヤーたち。その結果……
 

GM:次、『魔族ハーフ』のリーダー。出番はなかったけど。

レイチェル:いきます。(コロコロ)……1。

一同:………………。

レイチェル:あ、あのっ、あのっ……。

エミリー:まあまあ。サイコロの目は、本人のせいではないから。

GM:……気を取り直して、次はその他の人たちの死亡判定。

フウゲツ:ドキドキだぜ……。(コロコロ)『月の民』は9人死亡。

ユリア:(コロコロ)『魔族ハーフ』は、1人だけれす。

GM:それ以外でリーダーが死んだけどね。

エミリー:中央広場の96人以外での、一般人は……(コロコロ)84人死亡。

一同:おいーッッ!!!

エミリー:まあまあ。サイコロの目は、本人のせいではないから(笑)。

GM:合計で……800人中191名死亡、負傷者はたぶんその倍以上。

フウゲツ:4分の1が死んだ……スゴイことだ、これは。守り切れなかった自分に腹が立つ。

GM:埋める場所もないような気が……。

ヴァイス:あ。

GM:ん?

ヴァイス:『結界』のヒビが直る前に、サリースの死体を『結界』の外に埋めてきていい?

GM:いいよ。ヒビが直るのは3時間ぐらい後だし。

 アーケイン郊外 15:30

 サリースの亡骸を木の根元に埋め、ヴァイスは痛む腹部に手を当てた。

 エミリーに(呆れた顔をされつつ)応急処置してもらったものの、包帯には血がにじみ、ズキズキとうずく。

 大きな傷だ。完治しても傷痕は残るだろう。
 

ヴァイス:(あのとき……僕は死んでもいいと思って自分ごと刺しました。アナタはひとりじゃ死なないって、伝えたくて。……結局死にはしませんでしたけど、この傷痕を見る度、僕はアナタを思い出します。アナタのことは忘れません)
 

 ヴァイスは、顔を上げた。

 わずかに傾いた太陽が、空を青と金に染めようとしている──
 

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例えば僕が落ち込んだら。
例えば僕が傷ついたら。
例えば僕が死んだら。
誰か、泣いてくれるだろうか。
開かぬ門。閉ざされた空間。
来たるべき未来を、僕はまだ知らない……。



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