ヴァイス:うん……ワンド(短い杖のような魔法の発動体)を握り締めて──
ユリア:自分の腹を刺す?
ヴァイス:………………。
GM:横槍入れたらダメだって。
ヴァイス:『覚醒』──『潜在能力』発動させていい?
GM:いいよ。
一定の条件下で発動する『潜在能力』(特殊な必殺技のようなもの)──ヴァイスの場合は、『月影の民』(ただし高レベル者)の能力である『オーラ・ブレード』を一時的に使えるようになる。
ヴァイス:「……止める。僕の全存在を懸けてでもアナタを止める」
ヴァイスのワンドに緑色のオーラが生じ……『剣』の形を成す。
サリース:「全存在、ね。……じゃあ、あたしと死んでくれる?」
ヴァイス:「それしかないなら……それも辞さない」
サリース:「じゃあ……その覚悟を見せてよ。言葉だけじゃないってところを」
これは挑発だ。
そして……きっと、あたしの願いそのものだ。
ヴァイス:………………。
GM:今、何を悩んでる?
ヴァイス:自分で自分のPC(プレイヤーキャラクター)を殺していいかどうか。
GM:そこかよ……。
『何をためらう? どんな理由があるにしろ、身体を乗っ取られているなら諸共に斬ればいい』
『斬る。信念を見せつけるために。彼は──彼女は、少なくとも人を泣かせた』
『斬るっていうか、刺す』
『たくさんの人につらい想いをさせたのは、許せない』
『自己満足と言われようと、許せないものは許せない』
『一撃で、首をはねる』
『悪いことやってる人間に、ゴチャゴチャゴチャゴチャ言われたら、もう……。だいたい、知り合ってそんなに長くもない相手に、そこまで考えてあげる義理はない』
『乗っ取られてるという状況を考えれば、また答えは変わってくるかもしれない』
『彼女は……乗っ取られてるとはいえ、自分がやってきたことはイヤなのか?』
『乗っ取られてるという状況は……妄想だよ』
『意識が残ってて目の前で殺戮されるのは、イヤだな』
『俺が、楽にしてやる』
『殺されるのはイヤかもしれないけど、そんなのは知ったことじゃないから』
『たすけて、って言わないところが彼女らしいね』
ヴァイス:「僕がアナタを殺すとして……アナタはその滅びを受け入れるのですか?」
GM:その問いに対してヴァイス……サリースのプレイヤーとして、どう答える?
ヴァイス:え……(絶句)。
『結局お前は何も分かっていない。自分のことも。他人のことも。考えようとすらしていない』
GM:(どうでもいいが、ふたりとも瞬殺できるという根拠のない自信はどこから来るんだエミリー)
フウゲツ:スリーアイと一緒に、今のうちに動きを止めてる魔物たちを倒していったらどうだ?
シュリ:話を長引かせて動きを止める作戦なんだ、と。
ユリア:さすがリーダー、と。
GM:スリーアイだけはヴァイスがすごいヤツだと思ってるんだね(笑)。
ヴァイス:うーん、まさか自分で答えることになるとは思わなかった……。
フウゲツ:ホント、かわいそうだ。
GM:サリースの一種の『死にたい病』がどうなったのか、俺には分かんないんだもん。
ヴァイス:だったら出すなーッッ!
シュリ:は? GMは君に、プレイヤーとして結論を出せと言ってるんだよ。
GM:前にクレリア殺して恨まれてるから、今回は考えるチャンスをあげようかと。
レイチェル:また死の淵に立ってるシチュエーションだけど。
GM:死ぬ、殺す、しか選択肢がないとは思えないんだけどな。
フウゲツ:難しいよ……。
GM:(確かに。でも、俺の中で構築された、俺が知ってるサリースの気持ちは分かっても、『オリジナル』の気持ちはプレイヤーにしか分からないからね。つーか、「ちゃんと自分のキャラのこと考えてる?」っていういじわるな問いかけなんだけど)
ユリア:ひょっとしてプレイヤーは、サリースの決着をうやむやにするつもりだったんぢゃ。
シュリ:それはかなり直球勝負な質問ね(笑)。
ヴァイス:………………。
『彼女は……結果的に何百人も殺してしまった。そういうのは自分の中で……許せなくない?』
『逆に楽しくて仕方がないというものアリだけどね』
ヴァイス:そこまでいってたら、もう……。
『操られていたから仕方ないよね、という考え方もある』
ヴァイス:そこまでは、言いたくないな。
『あたしがどうこうできるもんでもないし』
『何とかしたいとは思うけど、操られているからどうしようもない。あらがえるかどうか試す前に、無理だと決めつけてあきらめる』
『操られてる〜と思っていたら、実は全然そうではなかった』
『殺戮という名の派手なショーを一番の観客席で見ることができる。そういう考え方もアリだよ』
『撃たれたら痛いけどね』
『現に死にかけているし。それもしょーがないかな、と思ってるし』
ヴァイス:………………。
『やっぱり……イヤなんだろ?』
ヴァイス:そういう風に人を殺してきたなら……イヤだろうね。
『そういう風にならないように、がんばってはみたんだ?』
『どうだろう。あたしにはどうしようもないって判断するかもしれない。状況に流されるという傾向が随分昔からあったから。それが、この何年かの旅の間でどう変わったのか』
『短絡的に無理だと結論づけて、そこで思考が止まってしまっている』
『旅に出て、そんな自分じゃいけない、強くならなくちゃいけないと思えたなら……変わってくるだろうし、もしそうなら、止めようと必死に努力したけどダメだったってことになる』
『そうだったと自信を持って言い切れるなら……それはそれで仕方のないことなんだよ、本当に』
『逆の変わり方としては……むしろこういう楽しみ方もアリ。弱者は所詮踏みにじられるものだ』
ヴァイス:それはまた……極端だな。
『精一杯、あらがったのか?』
『そう言い切れるだけの自信がないんだよね?』
『今現在あらがってなくても、これからあらがえるかもしれない』
『闘う意志』
『これで、もし全力で抵抗しないで、仕方ないかぁって死んでいくなら……彼女はほんっっとうにかわいそうだと思う』
『追い詰められるとまた動けなくなるのよね』
『だが今は動くべき時。決めるべき時だ』