パーティ会場の片隅。そこに、壁の花にもなりきれていない二人の男の姿があった。
タンとブルーである。
タン:「ぼ、ぼくが言うのも何だけどさ、オ、オタクって……暗いよね……」
ブルー:「………………」
タン:「でも仕事とかちゃんとやってて、偉いよね。ぼくはああいう共同作業っていうの? ダメなんだよね。みんなとは感性とか違うみたいでさ」
ブルー:「………………」
タン:「ぼくはね、みんなと仲良くしたっていいと思ってるんだよ? でも……なんか、なんかみんなが避けてるような気がしてさ……。イヤなかんじだよね」
ブルー:「………………」
タン:「あ、あのさ、オタク、女の子とか興味ある……?」
ブルー:「…………おんな……?」
タン:「ぼ、ぼくはね、スノウとか、いいなあって思うんだ。カワイイし、元気だし……胸も小さい方だしね。ぼく、胸が大きい女ってキライなんだ。バカっぽくてさ」
ブルー:「……胸が小さい……」
タン:「あ、やっぱりオタクも小さい方が好み? でさ、スノウっていいと思うんだ。あ、足もキレイだし……ときどき、ぼくに話しかけてくれるしね。……彼女、ぼくのこと好きだったりしたらどうしよう……」
ブルー:「…………だ……」
タン:「え?」
ブルー:「……ボクは……こんなところで……何をしてるんだ……?」
タン:「ね、ねえ……?」
ブルー:「……こんなところで……」
タン:「オ、オタク、ちょっとおかしいんじゃない? ぼ、ぼくはいくから。そ、それじゃあね」
逃げるように去っていくタン。ブルーは自分の手の平を見つめ、空を見上げ……目を閉じた。
オーキッド:「……俺とか?」
ヤオ:「うん」
オーキッド:「お相手なら、他にいるだろ?」
ヤオ:「ヤオはね、子供は相手にしないの。オトナの男が好みなの」
オーキッド:「ほおぅ。それでも、他にいい男がいるだろ?」
ヤオ:「おじちゃんとがいいの」
オーキッド:「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。……それじゃ、一回だけな」
ヤオ:「うん!」
シルヴァ:「……ロリコン……」
オーキッド:「うっせえババアッッ! てめーこそいい年してコンテストとか出てんじゃねーよッ!」
シルヴァ:「じゃかましい、このハナタレが!」
ヤオ:「お祭りなのにケンカしちゃヤだ〜!」
泣き出すヤオと慌てるふたり。そんな3人におかまいなしで、音楽は続く。
気が付けば、にぎやかだった音楽はテンポの遅いムードのあるものへと変わっていた。
スカートの裾をひるがえし優雅に踊る女たち。
それを巧みにエスコートしていく男たち。
武器屋の息子キャデットは――意外にも――流れるような動きで相手の女性をリードしていた。
アズーレ:「意外だったわ」
キャデット:「そう?」
アズーレ:「とっても意外。……こんなんなら、去年誘っておけばよかった」
キャデット:「1年損した?」
アズーレ:「そんな気分。――……今夜からでも、間に合う?」
キャデット:「間に合うよ」
アズーレ:「よかった……」
キャデット:「これから始まったって……時間はきっと、たくさんあるよおれたち」
チークタイムを待たず……ふたりは唇を重ねた。
スリーアイ:「予感?」
イーテ:「ああ、戦いの予感と――」
プリテンプス:「――別れの予感」
スリーアイ:「……この街が?」
イーテ:「いや、戦いも別れも……あるのはきっと、遠い遠い場所さ」
スリーアイ:「いくつもりなのか?」
イーテ:「そのときが来れば、の話だ」
プリテンプス:「あたしたちは、やっぱり『神族』だから。“彼ら”はそれを忘れて生きるようにってここに連れてきてくれたけど、あたしたちはやっぱり……『神』のために戦う者たちだから」
スリーアイ:「そうか……さみしくなるな」
イーテ:「予感、だけどな」
プリテンプス:「そして彼の予感はよくはずれるけどね」
スリーアイ:「そうあってほしいものだ」
魔族の血を引く彼らはスリーアイにとってよき理解者であり……よき話し相手であった。
プリテンプス:「あ、そろそろクライマックスみたいよ」
スリーアイ:「もうそんな時間か。……今年も、キレイなのだろうな」
プリテンプス:「今年こそは、ステキな彼と見たかったなー……」
イーテ:「うんうん、全くだ」
プリテンプス:(バカ……)
レイチェル:……なぜ?
GM:選ばれたからだよ。──んで、『Harvest Rainの乙女』がやるべきことは、ちょっとした演出だ。
シュリ:そんなもんでしょーね。一般投票で選ばれたぐらいだし。
GM:古の民の長とトパーズが、今年採れた小麦に魔法をかけて『光の雪』に変えて降らす、っていういいかんじの演出だよ。それに合わせて、パーティの方もチークタイムっぽくなる。
古の民の長:(魔法をかけた小麦を差し出し)「さ、頼んだぞ」
トパーズ:(紙を見せて)「これが、お祈りの言葉ね」
レイチェル:「………………」
レイチェルは躊躇した。
今まで街の人々に頼まれた仕事の中では、今回のものは至極簡単であるはずなのに。
古の民の長:「どうした?」
レイチェル:「いや…………」
トパーズ:(少し笑って)「大丈夫だよ。さ」
レイチェルはキラキラと輝く小麦をひとつかみすると、天に向かって撒いた。
そして祈りの言葉を読み上げる。
レイチェル:「どうか……今年もこの地に『豊饒の雨』を。大地に、大いなる恵みを」
光の粒が天に昇っていき……やがて黄金の雪となって降り注ぐ。
街の人々に、しずかな感嘆の声と表情が広がっていく。
レイチェル:(大丈夫――だろうか…………)
ヴァイス:はい。
ユリア:背後からナイフを持った男が体当たりを。
シュリ:なんじゃこりゃー!
ヴァイス:死にたくねえ、死にたくねえよぉ……。
GM:……ホントかなぁ。俺の人生なんてこんなもん、とか思ってそうだけど。
シュリ:ひょっとして、スノウが追ってきたとか?
GM:んーん、全然違うよ。
シュリ:なーんだ、ホントにあのままフウゲツと踊ってるんだ。
GM:「追ってきてくれると思ってたのに〜」って?(一同苦笑)
ヴァイス:さすがに、それは期待してないから。
GM:では、どんどん人気がない方に足を運んでいって……『魔王の森』の入り口付近に来たところで、気配チェーック!
ヴァイス:(コロコロ)02で成功。
GM:クリティカルか。茂みの奥に、白い人影が見えた。
ヴァイス:(明かりをかざして)「誰だ!」
それは……銀髪の少女だった。
白いワンピースに身を包んだその少女が──ヴァイスに向かって微笑む。
金色の雪を照り返すその瞳は、深い深い蒼──
ヴァイス:「……誰……?」
くるり、と背を向ける少女。『森』の奥へと歩いていく。
ヴァイス:「ち、ちょっと待って!」
しばらくためらったあと──ヴァイスは『森』へ足を踏み込んだ。
だが、少女の姿は、もうない。
躊躇していたとはいえ……見失うワケがないのに。
ヴァイス:「……誰だったんだろう……」
『森』を後にし、ヴァイスは歩いていく。
金色の雪が降る中を、ひとり、歩いていく──
死んだら、どこへいくのだろう?
魂は、今もそこにあるのだろうか? 廃屋が、僕たちの家になる。 僕たちは知らない。 この廃屋の暗がりの正体を。 じっと見つめる、猫の瞳を。 いつも見ている、彼女の瞳を…… |