ACT5.0[きみはほほえんだ] 15


 パーティ会場の片隅。そこに、壁の花にもなりきれていない二人の男の姿があった。

 タンとブルーである。
 

タン:「ぼ、ぼくが言うのも何だけどさ、オ、オタクって……暗いよね……」

ブルー:「………………」

タン:「でも仕事とかちゃんとやってて、偉いよね。ぼくはああいう共同作業っていうの? ダメなんだよね。みんなとは感性とか違うみたいでさ」

ブルー:「………………」

タン:「ぼくはね、みんなと仲良くしたっていいと思ってるんだよ? でも……なんか、なんかみんなが避けてるような気がしてさ……。イヤなかんじだよね」

ブルー:「………………」

タン:「あ、あのさ、オタク、女の子とか興味ある……?」

ブルー:「…………おんな……?」

タン:「ぼ、ぼくはね、スノウとか、いいなあって思うんだ。カワイイし、元気だし……胸も小さい方だしね。ぼく、胸が大きい女ってキライなんだ。バカっぽくてさ」

ブルー:「……胸が小さい……」

タン:「あ、やっぱりオタクも小さい方が好み? でさ、スノウっていいと思うんだ。あ、足もキレイだし……ときどき、ぼくに話しかけてくれるしね。……彼女、ぼくのこと好きだったりしたらどうしよう……」

ブルー:「…………だ……」

タン:「え?」

ブルー:「……ボクは……こんなところで……何をしてるんだ……?」

タン:「ね、ねえ……?」

ブルー:「……こんなところで……」

タン:「オ、オタク、ちょっとおかしいんじゃない? ぼ、ぼくはいくから。そ、それじゃあね」
 

 逃げるように去っていくタン。ブルーは自分の手の平を見つめ、空を見上げ……目を閉じた。

ヤオ:「ね、ね、踊ってくれなぁい?」

オーキッド:「……俺とか?」

ヤオ:「うん」

オーキッド:「お相手なら、他にいるだろ?」

ヤオ:「ヤオはね、子供は相手にしないの。オトナの男が好みなの」

オーキッド:「ほおぅ。それでも、他にいい男がいるだろ?」

ヤオ:「おじちゃんとがいいの」

オーキッド:「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。……それじゃ、一回だけな」

ヤオ:「うん!」

シルヴァ:「……ロリコン……」

オーキッド:「うっせえババアッッ! てめーこそいい年してコンテストとか出てんじゃねーよッ!」

シルヴァ:「じゃかましい、このハナタレが!」

ヤオ:「お祭りなのにケンカしちゃヤだ〜!」
 

 泣き出すヤオと慌てるふたり。そんな3人におかまいなしで、音楽は続く。

 気が付けば、にぎやかだった音楽はテンポの遅いムードのあるものへと変わっていた。

 スカートの裾をひるがえし優雅に踊る女たち。

 それを巧みにエスコートしていく男たち。

 武器屋の息子キャデットは――意外にも――流れるような動きで相手の女性をリードしていた。
 

アズーレ:「意外だったわ」

キャデット:「そう?」

アズーレ:「とっても意外。……こんなんなら、去年誘っておけばよかった」

キャデット:「1年損した?」

アズーレ:「そんな気分。――……今夜からでも、間に合う?」

キャデット:「間に合うよ」

アズーレ:「よかった……」

キャデット:「これから始まったって……時間はきっと、たくさんあるよおれたち」
 

 チークタイムを待たず……ふたりは唇を重ねた。

イーテ:「予感って信じるか?」

スリーアイ:「予感?」

イーテ:「ああ、戦いの予感と――」

プリテンプス:「――別れの予感」

スリーアイ:「……この街が?」

イーテ:「いや、戦いも別れも……あるのはきっと、遠い遠い場所さ」

スリーアイ:「いくつもりなのか?」

イーテ:「そのときが来れば、の話だ」

プリテンプス:「あたしたちは、やっぱり『神族』だから。“彼ら”はそれを忘れて生きるようにってここに連れてきてくれたけど、あたしたちはやっぱり……『神』のために戦う者たちだから」

スリーアイ:「そうか……さみしくなるな」

イーテ:「予感、だけどな」

プリテンプス:「そして彼の予感はよくはずれるけどね」

スリーアイ:「そうあってほしいものだ」
 

 魔族の血を引く彼らはスリーアイにとってよき理解者であり……よき話し相手であった。
 

プリテンプス:「あ、そろそろクライマックスみたいよ」

スリーアイ:「もうそんな時間か。……今年も、キレイなのだろうな」

プリテンプス:「今年こそは、ステキな彼と見たかったなー……」

イーテ:「うんうん、全くだ」

プリテンプス:(バカ……)

GM:さて。レイチェルは、ダンスパーティの会場から少し離れた祭壇に連れて来られる。

レイチェル:……なぜ?

GM:選ばれたからだよ。──んで、『Harvest Rainの乙女』がやるべきことは、ちょっとした演出だ。

シュリ:そんなもんでしょーね。一般投票で選ばれたぐらいだし。

GM:古の民の長とトパーズが、今年採れた小麦に魔法をかけて『光の雪』に変えて降らす、っていういいかんじの演出だよ。それに合わせて、パーティの方もチークタイムっぽくなる。

古の民の長:(魔法をかけた小麦を差し出し)「さ、頼んだぞ」

トパーズ:(紙を見せて)「これが、お祈りの言葉ね」

レイチェル:「………………」
 

  レイチェルは躊躇した。

  今まで街の人々に頼まれた仕事の中では、今回のものは至極簡単であるはずなのに。
 

古の民の長:「どうした?」

レイチェル:「いや…………」

トパーズ:(少し笑って)「大丈夫だよ。さ」
 

 レイチェルはキラキラと輝く小麦をひとつかみすると、天に向かって撒いた。

  そして祈りの言葉を読み上げる。
 

レイチェル:「どうか……今年もこの地に『豊饒の雨』を。大地に、大いなる恵みを」

 光の粒が天に昇っていき……やがて黄金の雪となって降り注ぐ。

  街の人々に、しずかな感嘆の声と表情が広がっていく。
 

レイチェル:(大丈夫――だろうか…………)

GM:さて、見回りをしているヴァイス君。

ヴァイス:はい。

ユリア:背後からナイフを持った男が体当たりを。

シュリ:なんじゃこりゃー!

ヴァイス:死にたくねえ、死にたくねえよぉ……。

GM:……ホントかなぁ。俺の人生なんてこんなもん、とか思ってそうだけど。

シュリ:ひょっとして、スノウが追ってきたとか?

GM:んーん、全然違うよ。

シュリ:なーんだ、ホントにあのままフウゲツと踊ってるんだ。

GM:「追ってきてくれると思ってたのに〜」って?(一同苦笑)

ヴァイス:さすがに、それは期待してないから。

GM:では、どんどん人気がない方に足を運んでいって……『魔王の森』の入り口付近に来たところで、気配チェーック!

ヴァイス:(コロコロ)02で成功。

GM:クリティカルか。茂みの奥に、白い人影が見えた。

ヴァイス:(明かりをかざして)「誰だ!」
 

 それは……銀髪の少女だった。

 白いワンピースに身を包んだその少女が──ヴァイスに向かって微笑む。

 金色の雪を照り返すその瞳は、深い深い蒼──
 

ヴァイス:「……誰……?」
 

 くるり、と背を向ける少女。『森』の奥へと歩いていく。
 

ヴァイス:「ち、ちょっと待って!」
 

 しばらくためらったあと──ヴァイスは『森』へ足を踏み込んだ。

 だが、少女の姿は、もうない。

 躊躇していたとはいえ……見失うワケがないのに。
 

ヴァイス:「……誰だったんだろう……」
 

 『森』を後にし、ヴァイスは歩いていく。

 金色の雪が降る中を、ひとり、歩いていく──

.be.Continue...
死んだら、どこへいくのだろう?
魂は、今もそこにあるのだろうか?
廃屋が、僕たちの家になる。
僕たちは知らない。
この廃屋の暗がりの正体を。
じっと見つめる、猫の瞳を。
いつも見ている、彼女の瞳を……



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