アイン:「…………おい! 恥ずかしいじゃねーか!」
ユリア: 「じゃあ普通におどるのれす」
アイン:「オ、オレはあんまうまくねーからな」
ユリア: 「だいじょうぶれす」
アイン:「わーったよ。やるよ。……こ、こうか……?」
ユリア:「こうれす」
ユリアが手をひくと……流れるように自然にステップを踏めてしまった。
ユリア: 「ルフト(ユリアが使う格闘技)の応用なのれす。人の筋肉の『動き』――流れを自在に操ることができるのれす」
アイン:「おお、オレも、踊れてる……?
スゲー! オレスゲー! なんか、コツつかめてきたぞ。こう、こう、こうだな?」
アインは自分が「女役」をやらされていることに気づいていなかった。
アイン:「や、やたらクルクル回る踊りだな……」
ユリア: 「しょうがないのれす。ルフトは円運動なのれす」
アイン:「そっか。ならしょーがねーな」
ユリアの腕の下でクルクル回るアイン。
最後の決めポーズも男女逆に。
アイン:「……なんでユリアに支えられてんだ……?」
ユリア: 「まあ気にしないのれす」
アイン:「ん、そーだな。……なあ、腹へらねーか?」
ユリア: 「食べるのれす。動いたら腹が減るのは自然の摂理なのれす」
アイン:「おう。(料理の並べてあるテーブルへ移動して)――ユリアが作ったのはどれだ?」
ユリア: 「鶏をしめたのは全部ユリアれす」
アイン:「へー……」(←よく分かってない)
ユリア: 「牛さんをバラしたのもユリアなのれす」
アイン:「ほー」(←よく分かってない)
ユリア: 「で、分解するまでがユリアの仕事でそのあとはみなさんにお任せなのれす」
アイン:(ひとつつまんで)「お、うめえな、これ。さすがユリアだぜ」(←やっぱりよく分かってない)
ユリア: 「ふふふ。本当は一番いいところをこっそり取っていたのれす。――こちらに来るのれす」
言われるまま、ユリアについていくアイン。
ユリア: (台所の片隅においてあった包みを拾い)「これは一頭の牛から二人分しか取れない肉なのれす」
アイン:「へー……。どこの肉なんだ?」
ユリア: 「左右のほほなのれす」
アイン:「ほほぉ? うめーのかぁ、ホッペなんかがよぅ。うちのオヤジは、『やっぱ牛はバラがうめぇ』とかって言ってるぜ?」
ユリア: 「クリムソンのレストランでは一噛み100バール(一万円相当の金額)といわれているのれす」
アイン:「マジ……? ……100バールって……いくらだ? 見たことねーぞ?」
ユリア: (もっしゃもっしゃ)「ふう。食べたら暑くなってきたのれす」
アイン:「あ、れ……? オレのぶんは?」
ユリア: 「あれ」
アイン:「どれ」
ユリア: 「てへへこっそり隠していたのれす」(胸元から肉を引きずり出す)
アイン:(相変わらず薄い胸だなー)「よっしゃ、いただきまーす!」
ユリア:「おいしいれすか?」
アイン:「うめーな、これ。――ユリアはよ、もっと肉とか食えよな。乳でかくなんねーぞ」
ユリア: 「胸筋をつけろというのれすね」
アイン:「ハトみてーのをな」
ユリア: 「不要な筋肉なのれす。引く筋肉はいらないのれす。――アイちゃんはもっと背筋をつけるのれす」
アイン:「ぐ……。い、いくらこの間オレに勝ったからってナマ言ってんじゃね〜!」
ユリア: 「何度でもやってもいいれすよ」
アイン:「おお、今度こそ負けねーからな!!!」
ユリア: 「ほいっ」
アイン:「よし、じゃあ今から特訓だ!」
と言った刹那――ユリアがアインをくるりと投げた。
ユリア: 「はい。寝ていてはだめれす」(そのまま腕を極める)
アイン:「………………。……ユ、リ、アー!! ギブギブ!」
ユリア: 「ふむ」
アイン:(立ち上がって)「ったくよー……。祭りのときぐらいかわいくできねーのかよ……」
ユリア: 「武道家なるものは四六時中常に臨戦体制でなくてはいけないのれす」
アイン:「オヤジみてーなこと言うな!」
ユリア: 「てへてへ。――ミフネさんが寝ているときに顔の上にかえるを置いたら思いっきり飛び上がったのれす。あの人もまだまだなのれす」
アイン:「……まあな。それは認めるよ。でもオレの方がクソオヤジよりぜってー強いからな!」
ユリア: 「まあ子は親をいつかは越えなければならないのれす」
アイン:「……小難しいこと言うなよ……。……で、これからどーすんだ?」
ユリア: 「動いたのであつくなったのれす。夜風にあたりにいくのれす」
アイン:「そうだな」
月の民エリアにある神社へ移動するふたり。境内では、出店が開かれていて、なかなかにぎやかである。そのままふたりは神社の裏の方――ちょっと暗い、静かな場所へと移動した。
ユリア: 「外は少し涼しいれすね。やっぱり」
アイン:「そーだなー」
ユリア: 「星が出ているのれす。この季節だとあの方角に『月の船』が見えたのれすけどね、落ちちゃったのれす。てへてへ」
アイン:「お前、よくそんなこと知ってるよな……」
ユリア: 「あれ?」
アイン:「オレたちが生まれる前の話なんてよ」
ユリア: 「おかしいれすね」
アイン:「トキオさんにでも聞いたのか?」
ユリア: 「ああ。やっぱり偽装結婚はよくないと思うのれす。……あれ?」
アイン:「……なんか、おかしくないお前?」
ユリア: 「なんだか昔のこととか言われると頭が頭痛で痛いのれす」
アイン:「頭使いすぎたんじゃねーか?」
ユリア: 「てへてへ。――ひゃ?!」
アイン:「どうした!?」
ユリア: 「……いや、気のせいれす。なんか手が爪が伸びてて、なんか濡れていた気がしただけなのれす。幻覚までみているのれす。ちょっと飲みすぎれすかね」
アイン:「…………(ちょっと心配)。……そろそろ、みんなのとこ戻るか?」
ユリア: 「ん。もうちょっとあるいて酔いを覚ますのれす」
アイン:「へいへい、つきあってやるよ」
ユリア: 「あれ」
アイン:「ん?」
ユリア: 「ここにも石があるのれす」
アイン:「お、なんだこりゃ」
ユリア: 「畑にも同じようなのがあったのれす。結界のための石らしいのれす」
アイン:「へー……」
ユリア: 「てへてへ。上に座っちゃうのれす」
アイン:「すべり落ちるなよー」
ユリア: 「じゃあアイちゃんが座って、その上に座るのれす。てへてへ」
アイン:「……ったく、しょーがねーなー」(←まんざらでもない?)
ユリア: 「支えていてくらさいね」
アイン:「おう。……いつだって、支えてやるよ」
ユリア: (ユリアの本当を知っても支えていてくれるのかな)
アイン:(やわらけー……)(←アホ)
ユリア: (ん。なんか思ったよかやわらかい……)
アイン:(……けど、やっぱ胸ねーよなー……)
ユリア: (ああ。貧弱すぎる。この筋肉と脂肪比じゃまるでおん、……???)
アイン:(……もちっと、太った方がいいのか、コイツ……意外と筋肉質……)
ユリア: (まさか。骨盤の幅を何気なく触って……)
アイン:「きゃっ!」
ユリア: 「へ?」
アイン:「あ? ………………どーした?」
ユリア: 「もうなんれすか。変な声ださないれくらさい」
アイン:「お、おめーこそ、男のケツ触ろうとすんなよ」
ユリア: 「支えようとしただけれす。――んー、じゃ降りるのれす」
とんっ、と立ち上がるユリア。アインも立ち上がる。
ユリア: 「へへ」
アイン:「はは」
ユリア: (身長はあるのにこれはいけないれす)
アイン:「……どした?」
ユリア: 「うん。(もしアインが女の子だったとしたら? そしたら――)てへへへ」
アイン:(なんだぁ……?)
ユリア: 「ん」
――と、伸び上がってアインに口付けるユリア。アイン、しばし呆然。
ユリア: (そんなんどうだったって。自分の好きって気持ち、変わらないよ!)
アイン:「あ……ば……お……お前なー!」(赤面)
ユリア: 「てへへ……。戻ろっか」
アイン:「お……おう」(い、今のが……今のが接吻ってやつか……?
接吻……しちまった……)
どちらともなく手を握り……ふたりは、ゆっくりと歩いていく。