レイチェル:最初からそういうことにしておけばよかったのに。
GM:(確かに……)
シュリ:で? 牛でも襲われた?
ユリア:──というような話をステーキ食べながら話すんだね。
シュリ:で、ぜーんぶゴブリンのせいにしてしまう(笑)。
エミリー:そうやって自警団を正当化するんですね。
ユリア:現場に毛を残しておけばいいんだよ──短ーい毛を。
シュリ:で、『五分厘』の毛に違いない、と。
ユリア:あ、きっと羊の毛が五分刈りにされてたんだ!(笑)
GM:それは確かに被害ではあるが……。
シュリ:てゆーか……五分刈り五厘刈りだから『五分厘』とかって、そーゆーオチでいいの?
GM:うーん……。
シュリ:MONDでは一味違ったゴブリンにしたいところではあるけどね。たかがゴブリン。されどゴブリン。
エミリー:でも羊の毛って……今季節いつでしたっけ?
GM:夏の終わりだよ。これからだんだん寒くなる。
エミリー:なんで今まで被害なかったんですか?
GM:暑かったからでしょ。
シュリ:ちょっと待って、じゃあ羊の被害は毎年のことなの?
GM:いや……たぶん、流れ流れてこの地にたどり着いたんだろう。夏真っ盛りの頃に。
ユリア:それで暑くて頭を五分刈りにしたんだね。
シュリ:GMに最後の確認をしておきたいんだけど──ってあたしが言うのも何だけど──ホントに、ほんと〜に五分刈りの『五分厘』でいいの?
GM:むうううう……。
GMは悩んだ。
ノーマルのゴブリンである必要性はない。『五分厘』の方がそりゃーおかしい&楽しいだろう。
でもこれは第1話である。最初である。これでキャンペーンの方向性が決まってしまうのである。
第三部のときもいきなりとんでもない方向に話が流れてあせったじゃーないか。
でもアレで第三部はナイスなパーティができたのだし……
うーん……ゴブリンか……『五分厘』か……
GM:──よし、『五分厘』でいこう。被害は五分刈り五厘刈りにされた羊ってことで。
GM、漢の決断!
シュリ:MONDの世界のモンスターはそんなかんじなのね。……モンスターじゃない気もするけど。
ユリア:排除すべき人たちをモンスターと呼んでるんですよぉ。
GM:昔話の鬼みたいだ。
ユリア:モンスターと呼ぶことによって殺していいことになってしまう、と。
レイチェル:差別の原点だ。
ユリア:すごい、そんな重いテーマを含んでるんだ(笑)。
GM:うーん……ゴブリンあわれ。
ユリア:今までモンスター出たことなかったし、これでよかったんだよきっと。
GM:第二部の敵は魔族とか土地神とかか。
シュリ:第三部は人とか巨人とか……。人はいっぱい殺したけど。
GM:裏路地に死体捨てたしね。
ユリア:第一部の火喰い鳥ぐらい?
シュリ:いたね〜、スゴロクでさらっと流されたヤツ。
GM:モンスターっぽいのって、それぐらいか。
シュリ:ま、これで今後どんなモンスターが出てきてもこういう運命をたどることになるのね。ウィッチが出れば実は双子で『which(どっち?)』とか。
GM:オークは?
シュリ:実は大奥(おおおく)。
GM:じゃあ、ホブゴブリンは……
ユリア:ホモのゴブリン。
レイチェル:それはホモゴブリン。
ユリア:ドイツ語ではホモをホブと発音するんですぅ(←大嘘)。
シュリ:分かった、ほぼ五分刈りの人で『ホボ五分厘』なのよ。三分刈りとか二厘刈りとか。
GM:二厘って……つるつるじゃん……。
シュリ:で、『五分厘』たちはそんな『ホボ五分厘』たちを自分たちより劣った存在だとしている。世の中、何が何でも五分&五厘刈りなのよ!
レイチェル:それなら……バリカンを持って。
シュリ:よし、それでいきましょう!
どれだよ(笑)。
シュリ:きっと『五分厘』たちは毎朝バリカンで手入れをしてるはずだから──
レイチェル:バリカンの刃をこっそりいじっておけば……
シュリ:彼らは『ホボ五分厘』になる!
一同、大爆笑。
GM:いつもより毛が剃れるなぁと思ったら。
レイチェル:それで「うわ、こいつ『ホボ五分厘』だー!」「そういうお前だって〜!」となって──
GM:内輪もめで滅ぶ、か……。
シュリ:バッチリ。
こうして――『五分厘』の設定が決まり、対処法が決まり……実行に移されることになった。
シュリ:敵の設定を決めて対策を練る──新しい形の戦闘ね!
GM:今回だけにしたいけどねー……。
シュリ:さぁてそれはどうでしょう。
GM:──あ、今気づいたんだけど、そしたら街の人たちが脅えてたゴブリンの姿って……
シュリ:五分刈りの男たちの集団。
ユリア:それは確かにコワイですねぇ……。
シュリ:……やっぱ、追い出した方がいいね。じわじわと嫌がらせをして。
GM:それもどうだろう……。
レイチェル:「では、今夜バリカンをいじってくる」
シュリ:「よろしく」
レイチェルはひとり、『魔王の森』へ向かった。
昼間のうちに聞いておいた証言から大体の位置を予測し、生体反応を探る。
「──見つけた」
森に入ってすぐ。低い崖の陰のところに、ぽっかりと洞穴が空いていた。どうやらそこを住処にしているらしい。
彼らが寝静まっているのを確認してから接近し……中を覗いた。
暗視スコープに映ったのは、五分刈りの男たちの姿。レイチェルは満足し、更に近づいた。
「………………」
全員のバリカンの刃を細かく調整する。そして……そっと、その場から立ち去った。
──嘘のような、ホントの話。
朝晩ずいぶん冷えるようになってきたから、十分温まって帰ろっと。
シュリは頭の上の手ぬぐいをのせなおし、同じ湯船につかっている仲間に声をかけた。
「やっぱ仕事の後のおフロってサイコ〜!」
「わたしたち、何もしてませんけど……」
「ま、いいんじゃないでぅか〜?」
「そうよね、これが円満な解決ってヤツよね」
共同浴場『クヴェレ』──
ここで風呂に入りながら事件のことを話し合うのが、自警団の日課となっている。
「『五分厘』さんたち、あっさり逃げ出しちゃったみたいですねぇ」
「もうちょっと根性があるかと思ってたけど、『ホボ五分厘』になったぐらいで逃げ出すんだから」
「……シュリさんが考えた作戦じゃないですか」
「あたしじゃないわ。アイデアも実行も、全部レイチェルでしょ」
「………………」(照れてる)
「結局、『五分厘』ってどーゆー人たちだったんですかぁ?」
「あたしが思うに……地上に降りてきた『月の民』だったんじゃないかな。地上の生活になじめなかった武士たちが頭五分刈りにして……いつしかそのことに誇りを持つようになって、自ら『五分厘』と名乗った……」
「坊主頭のおじさんが『俺たちが五分厘だー!』って騒いだら、確かに怖いかも……」
「自分の居場所を見つけることの難しさ。なくならない同族嫌悪にも似た差別。……今回の事件はいろんなことを教えてくれたわ……」
「そうかなぁ……」
「全然違う気もしますけど……」
「ま、いいや。──さ、お風呂上がってコーヒー牛乳でも飲もっか」
「「さんせーい!」」
「………………♪」
正直言って、ワケの分かんない事件ではある。
シアが書いててくれた自警団日記には『レイチェルさんに映像見せてもらった。こわかった』とか書いてあったし……。
何にしても、血を流すような争いにならなくてよかった。
……『五分厘』たちがどこにいったのかは気になるけど。
流転する運命。変わっていく現実。決してあらがえないもの……。
これからどうなっていくのかなんて、誰にも分からない。
彼らも。そしてこの街も。
時に、テーレ1141――僕たちの物語が始まろうとしていた。
誰にだって生まれた場所がある。
みんなにも。 ……僕にだって。 例えそれがやさしい場所でなくても。 誰にだって、かえるべき場所がある。 郷愁―― その心が、あるのなら…… |