ACT1.0[それがはじまり] 02

 半独立都市アーケインは12本の石造りの柱で囲まれている。

 柱にはめ込まれた宝玉が『結界』をつくり、街を守っているのだ。

 元々は『古の民(いにしえのたみ)』が自分たちの住処を隠すために用いていたものであり、非常時には文字通り街を守る結界となる。

 決まった外敵がいるわけではないのだが、世間から見放された人々やワケアリの人々──魔族ハーフや地上に降りてきた『月の民』──が多いこの街では外部からの侵入者を警戒している。
 

 馬車が『門』にさしかかった。

 柱の間隔が狭いところが『門』となっており、普段はここだけ結界が消されている。
 

マーロ:「最近は物騒だからな……。このへんでも野盗とか出るらしいぜ」

御者:「マジですか? それなら結界、閉じておいた方がいいんじゃ……」

マーロ:「簡単に開けたり閉じたりできる代物じゃーないんだとよ。それに、一応砦もあるワケだしな」

御者:「そりゃまあ、そうっスけど……」
 

 そんな話をしているうちに、自警団の砦が視界に入ってきた。
 

マーロ:「ん……?」
 

 遠くてよく分からないが……誰かが倒れているのが見える。

 柔らかい木漏れ日。木々のざわめき。鳥の声。そんなのどかな風景の中で……そこだけが非現実的だった。

GM(ゲームマスター):とゆーワケで、人が倒れているようなんだが。

プレイヤーC:気づかずに馬車でその上を素通りしてしまうんだね。

GM:なんてことを(笑)。

プレイヤーD:轢いた後に、「轢いてないよぉ〜」と訴えるとか。

プレイヤーF(以後シュリ):それじゃあんまりだから、踏まないようによけて通る。

プレイヤーP:……それで終わり?

シュリ:だってあたし、一番後ろの馬車よ? 普通、先頭の馬車が気づいて止まって、それでようやく何事だろうって前を見る、ぐらいしかできないでしょ?

GM:それはまあ、そうだけど……。――じゃあ、マーロが御者に言って馬車を止めさせたことにしよう。

プレイヤーP:オトコ? オンナ?

GM:女性だね。白髪の女性。うつぶせに倒れているから顔は見えないけど。

シュリ:じゃあ……人が倒れてるって聞いてから、駆け寄って心配するそぶりを見せよう。

一同:そぶりかい!

シュリ:ちょっとプレイヤーE(とゆーかサリース)のマネをしただけだってば。

GM:……そんなんマネしたってアカンやろ。

シュリ:(びしっと指差して)「負傷者発見! 誰か来てください! 誰か来てくださーい! ──大丈夫ですか? 大丈夫ですかー?」

プレイヤーD:「川口さーん!」
 

 誰だ、それは。
 

シュリ:抱え起こしてみるよ。

GM:白髪だけど若い女性だね。規則正しく呼吸はしてるようだけど、ピクリとも動かない。

シュリ:そっか。参ったな……。

プレイヤーC:すっすっ、はー! すっすっ、はー!

プレイヤーD:そーゆー呼吸してたらヤだな……。規則正しくはあるけど。

シュリ:顔色とかは?

GM:非常にいいね。……つーか、顔見知りだけど。

シュリ:へ?

GM:自警団の、シア=ブランクだよ。白髪族(のハーフ)の娘で、16歳。白い髪に白い肌、赤い瞳が印象的。

シュリ:自警団の人だったのね。……てことは、内紛?

プレイヤーC:アーケインって、何人ぐらい住んでるの?

GM:そーだなぁ……700〜800人ぐらい。

プレイヤーD:住民一覧表を見て)じゃあ、ここに載ってる人たちのことは知ってていいの?

GM:いいよ。その中の誰と特に仲良くなるかは君ら次第だけどね。

プレイヤーD:なるほど。
 

 と──砦から人が歩いてくるのが見えた。アクビをしながらだるそうに歩いてくる。

 カーキだ。

 青く染めた髪が、風でわずかにゆれている。
 

シュリ:内紛……のワリには緊張感がないなー……。
 

カーキ:「おう、シュリ、帰ったのか」
 

 シュリに声をかけてから抱き起こされたシアを見て──
 

 ぼこっ
 

 いきなり、頭を蹴った。
 

シア「……うにゃ?」

カーキ「起きろ、おら」

シア:「はい。……おはよーございますぅ……」

プレイヤーP:……ひょっとして、寝てただけ?

GM:そーだよ。

プレイヤーP:こんな道の真ん中で? そういう人なの?

GM:そういう人だよ。

プレイヤーC:第三部に似たような人がいたからあまり驚かないけどね。

プレイヤーD:マンホールの中で寝てた人か。

カーキ:「ワリーな。コイツは俺が連れてかえるから、行っていいぜ」

シュリ:「そう? じゃ、お願いね」
 

 そう言って馬車に戻るシュリ。馬車がシアをよけて進み始める。
 

カーキ:「おし、いくぞ」
 

 ずるずるずる……
 

シア:「くぅー……」(寝てる)

シュリ:「………………」
 

 カーキがシアの足を持って引きずっていくのが、馬車から見えた。

 酒場『デメルング』──

 スティールはグラスを磨く手を止め、壁にかかった時計に目をやった。

 お昼の少し前──そろそろ馬車が着く頃だ。
 

「ユリア」
 

 スティールはモップ片手に店の中をうろうろしている──本人は掃除をしているつもりらしい──少女に声をかけた。
 

「はーい」
 

 元気のいい返事とともに、ユリア=スートが顔を上げた。それにつられて両側で結んだ髪の毛もぴょこんとはねる。
 

「いくつかお願いしたいことがあるんだが、いいかな?」

「はい」
 

 ユリアはモップを壁に立て掛けると、スティールの方にとてとてと歩いてきた。14歳のワリには随分幼く見える。……外見も、行動も。
 

「ちょっとしたお使いと……あと、もうすぐ広場に馬車が着くはずだから、頼んでいたものを受け取ってきてほしいのだけれど」

「はい、分かりました。……お使いというのは、何れすか?」

「ああ、この間教会のシルヴァさんに夕飯のオカズをいただいただろう? そのときのお皿を返してきてほしんだ。あと、これは料理のお礼のお菓子。子供たちにね」
 

 「はい」と返事をして、お菓子だけを受け取るユリア。
 

「ユリア、皿も」

「ああ、そうれした。ごめんなさい」
 

 皿を渡しながらスティールは少し不安になった。お菓子も教会に着くまで残っているかどうか……。

 ユリアは料理が苦手だ。掃除も得意ではない。そんな彼女が酒場で働いているのは、バウンサー(用心棒)として雇われているからだ。

 歳も若いし小柄だが、彼女は『忍天道』64流派のうちのひとつ、”流風闘<ルフト>”の使い手である。空気のように相手の攻撃をかわし、相手のわずかな力の流れを利用して投げ飛ばす。
 

「お酒とかいっぱいあるから、持ち切れないようなら誰かに手伝ってもらうといい」

「はーい! では、いってきまーす!」
 

 元気よく飛び出していったユリアに、スティールは苦笑いしながら手を振った。



PREVNEXT

MONDF目次

リプレイTOPへ