白く細い指が、その中で踊る――何かをつかむように。
昔のように、何もかも飲み込むような感情のうねりはもう感じない。
ただぬくもりを。
そばに誰かがいるのだと確かめるために。
そのために……彼女はここにいる。
荷馬車に積んだ荷物が確かに固定されていることを確認し、マーロ=クリンスキーは御者に声をかけた。
「おーし、OKだ。もうすぐ出発するぞー」
前の方から今ひとつやる気のない返事が返ってくる。
頼むぜ……。帰り道に襲われたりしたら全て台無しなんだからよぉ……。
まあ、そのために護衛を連れてきているのだが。
「シュリー! 帰るぜー!」
マーロは、人よりちょっと大き目の耳の後ろをポリポリとかくと、噴水のところに腰掛けていた背の高い女性の名を呼んだ。
白い服に身を包んだ女が……シュリ=W=ホーネットが立ち上がる。
彼女は腰の銃を手で確かめながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
美人だしスタイルもいい。胸もデカイ。自分より背が高いのが何とも残念だ、とマーロは思う。自分の背が低いせいもあるが、それでもシュリは”たっぱ”のある方だ。
揺れる胸とスカートのスリットから見え隠れする白い脚にさりげなく目をやりながら、マーロはもう一度言った。
「帰るぜ」
「うん」
短く答え、シュリは5台目の――最後尾の馬車にもぐりこむ。
普段は舌に脳があるようによくしゃべるシュリだが、帰路につくときは口数が少ない。
オトコとの別れを惜しんでる……てか。
勝手にそう解釈し……チクリ、と胸が痛む。三十路を越えた自分は、やはりこの少女とは――シュリは19歳である――つりあわないだろう。いろんなイミで。
「さーて帰るぜ、アーケインへ」
三度繰り返し、マーロは先頭の馬車の御者の隣りにどっかりと腰をおろした。
空が高い。夏ももう終わりだ。
何度か野営をし、北の方に巨大な森が見えてきたところで大きな街道から外れ、北へ。
森――シャルトルーズの森――とベール山へ続く渓谷にある街――獣人の街クリムソン――の間にある小さな森へ馬車は向かっている。
クリムソンへ向かう細い街道からも外れ、獣道のような道を進み、やがて馬車は森の中へ入っていった。
ここまで人が来ることは滅多にない。
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馬車は更に進む
ふいに森が途切れ……木々の間から石造りの『門』が姿を現した