目の前の凄惨な光景に思わず目をそむけ、沙夜は口元を手で覆った。
<プラント>とは違った欲望と死の渦に当てられたのだろうか。
一度は説得され村に残ったものの、やはり居ても立ってもいれずこうして<太極樹>まで来てしまった沙夜である。
彼女は赤いトカゲの姿を捜し求め……赤紫の髪の青年を見つけた。
沙夜:「ラグランジェさん! よかった、会えて」
ラグランジェ:「なんでここに……?」
沙夜:「だって心配で……。──そんなことよりッ! ビオは? みんなは?」
ラグランジェ:「彼らは……<扉>の向こうです」
沙夜:「そっか……いっちゃったんだ……。……今度はあたしがビオの<鞘>にならなくちゃいけなかったのに……」
ラグランジェ:「……鞘?」
「人にはそれぞれ役割がある、という話だ」
声に振り返る。鋭い目つきのコートの男。
ラグランジェ:「クロヌシさん……」
黒炎:「今は黒炎だ、アユモ」
ラグランジェ:「今はラグランジェです」
目を細め、煙草の煙を吐く黒炎。
黒炎:「まあいい。……いよいよ、だな」
ラグランジェ:「ええ」
黒炎:「<ガズィの鎖>を断つ時間だ。貴様の、望み通りにな」
ラグランジェ:「………………」
沙夜:「鎖?」
黒炎:「人にはそれぞれ役割がある、という話さ」
黒炎は煙草を投げ捨て、空を見上げた。
低く立ち込めた雲が流れていく。微かな雨を残して。
リトナ:鈴木の腹が見える?
ヴァンダイク:鈴木蘭々の。
リトナ:その腹ならまあいいか。
ゴルディッシモ:パパイヤ鈴木の腹でなければ。
リトナ:こんな星空、本でしか見たことないなぁ。──どうする? いくの? いかないの?
アリア:いくー。みんなでいっちゃうー。
ドモ・ルール:ああん、イッちゃう〜!
アリア:(ダイスを投げつけて)……次はハサミが飛ぶよ。
ビオ:指ちょん切っちまうぞ(←ドモは指輪なので)。
アリア:入るよー。
アリアに続いて、次々に<扉>をくぐる一行。
アリア:一番乗り〜!
リトナ:オレ、キュアのリュックの中。このままだとススキの中に埋もれてしまうから。
キュア:それもそうね。
ドモ・ルール:ビオさんに乗せてもらえばいいのに。
リトナ:イヤがるんだもん。
ビオ:俺はちょっとためらうが……最後に、入ろう。
GM:では……君たちは星空の下、金色になびくススキの中に立っている。
キュア:夜の野原に出てきちゃったワケだ。……この世界(アルカディアのこと)って、星とか見えるの?
GM:どんよりと雲が立ち込めてることが多いから滅多に見えないけど、見えるときもたまーにある。太陽もサンサンと照ることはまずない。
リトナ:モヤシにはその方がいいかもね。
ゴルディッシモ:あれからボクたちは、何かを信じてこれたのかなぁ。──さあ、一緒に夜空ノムコウに旅立とう。
アリア:あれから〜ぼくたちは〜♪(歌う)
ゴルディッシモ:エンディングテーマが決まってしまったね。SMAぁーP、SMAP! ──ところで、<扉>を閉めないと人々がわらわらと入ってくるのではないか?
アリア:そうだね。
キュア:みんな死んだんじゃなかったの?
GM:生き残った人たちもいたのか、後続が到着したのか、そんなとこだろう。
リトナ:閉める必要はないと思うけど。そもそも、閉められるの?
ゴルディッシモ:扉を閉めて仲間外しをしたはずが、我々が仲間外れに(笑)。
ビオ:残念だ。
ゴルディッシモ:ここは……異次元空間なのかな?
GM:少なくても木の中じゃないだろうね。
ゴルディッシモ:<扉>の裏はどうなっているのだろう。
GM:んー……『どこでもドア』と同じようなもんじゃないかと。
ゴルディッシモ:で、『どこでもドア』はどういう風な仕組みなのだ?
GM:さあ。
ヴァンダイク:裏側にはドアの枠だけがあるイメージがあるのだが。
リトナ:木の板が打ってあったりして。
ヴァンダイク:そうかもしれん(笑)。
GM:んで──全員、扉をくぐったのだね。
一同:おう。
ビオ:んだよここ。……不思議野原か?
ゴルディッシモ:今気づいたのだけど……<星守り>であるボクはこんなとこに来てよかったのだろうか。
リトナ:まあ、ここも星のどこかかもしれないし。
ヴァンダイク:それに、墓守りがいつも墓にいるワケではないし。
ゴルディッシモ:それはまあ、そうだが。
ドモ・ルール:何なら、カラスだけおいてモヤシ男は帰ってもいいが。
ゴルディッシモ:それはそれで残念だ。
ヴァンダイク:(突然)「あはは、捕まえてごらんなさーい」と走り去ったら、誰か追ってくるだろうか。誰かというか、ラグランジェ君が。
アリア:そーいえば、ラグランジェは? 扉をくぐったの?
GM:んーん。
ヴァンダイク:んなにぃ!(驚愕)
アリア:どうして……?
ゴルディッシモ:仲間外されを楽しんでるのでは。
キュア:仲間外され、って……。
アリア:ボルサオとの会話とかに夢中になってて忘れてた……。彼、ボルサオのところには来たよね。
GM:うん。でも、<扉>はくぐってない。
アリア:どうして……?
ドモ・ルール:そりゃ……ヴァンダイクと別れるいい機会だったからでは。
ヴァンダイク:ぬな。
ゴルディッシモ:放置プレイというやつだね。
ドモ・ルール:放恥プレイかも。
リトナ:それはお前だ。
GM:まあ、彼には彼の事情とかやるべきこととかあるワケで。……それに、いつの間にか<扉>は消えてしまってる。
アリア:前に進むしかないか。……でも、前ってどっち?
リトナ:さあ?
アリア:ここが<真なるアルカディア>なのかな……。それとも、この先に……。
レプス04小隊は、歩き始めた。
闇と星と金色がどこまでも続く世界を。
静寂の世界を。
/ / 地平線に広がる雲。
苺を煮詰めて作ったジャムの香り。
傷ついた兵士の体温。
巻かれていく包帯の圧力。
転んで擦りむいた膝の痛み。
冷たい雨。
大好きだった焼きたてパン。
大地を渡る風。
熱をおびた、姉の唇の感触。
やさしく包み込む闇。
……約束。 |
そんなすべてを……あたしは忘れていくのだ。
………………
やさしい風が頬をなでていく。
やわらかな感触が、頭の下にある。
そっと。目を開ける。
・
・
それはどこまでも高い青だった。
それは、はるかな青だった。
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