ビルディングの谷間にある、小さな社だった。
リトナ:「さすがに灯明とか油とかないよな……」
立ち止まる。目を閉じる。想い出の中に、しばし身を委ねる。
リトナ:「────……」
かつて飼い主だった人の名を、呼んだ。
リトナ:「………………」
リトナはないた。鳴いて、泣いた。
リトナ:「ビオさんにおみやげ。──ありがとう、連れてきてくれて。これが見れただけで、ホントによかったと思ってる」
アリア:「あたしは、何もしてないよ。……でも、よかったね」
カラスィータ:『さて、もう一カ所案内してやろう。今後の旅の、参考になるはずだ』
<賢者>に案内された場所には、石碑が立っていた。比較的新しいその石碑には文字が彫られている。
アリア:「これって……」
『それは、はるか西の果てめざす旅人の前にあるだろう。
旅立たねば、たどりつけぬ楽園。
それはあるいは近く、あるいは遠い場所だろう。
西の最果てのむこう』
アリア:「古文書にあった一節だ。──あたしが、<真なるアルカディア>を探そうと思ったキッカケ……」
『それは、はるか西の果てめざす旅人の前にあるだろう。
旅立たねば、たどりつけぬ楽園。
それはあるいは近く、あるいは遠い場所だろう。
西の最果てのむこう。
それは<壁>を越えた旅人の、休息の地となるだろう。
忘却は永遠の休息。
それは螺旋(以下削れている)』
アリア:「続きがあったんだ。でも、これって……」
リトナ:「<楽園>は……ホントにあるのかな……? 旅を続け、疲れ果て、眠りについたその先にあるなら、<真なるアルカディア>って……」
不吉な印象を覚えたことを……アリアは黙っていた。
カラスィータ:『<ヴリトラ>を知ってるな? <ヴリトラ>は<混沌>の力。<秩序>と対を成す星の力だ』
キュア:「そうらしいわね」
カラスィータ:『<秩序>と<混沌>は星を保つ力。そのどちらが欠けても、星は死ぬ』
アリア:「………………」
カラスィータ:『その力の流れを守る──それが<星守(ほしもり)>の役目。我らの役目であり、<黒巫女>の役目。……だが、<秩序>の力無きこの星で、我らに出来ることは──もう、ない』
アリア:「そんな……」
カラスィータ:『この星は……死にゆく星なのだ』
『忘却は永遠の休息。それは螺旋──』
・
「人々が……続々とこの国に……!」
「そんなことのために……?」 「逆に、穢れることによって──」 「なんだこりゃ……。心臓……?」 「赤い──雨──」 「ああ、私たちはこんなにも愚かです!」 「この先に、<楽園>があるんだ……」 |