そこは、以前のようにかなしみに満ちた世界ではなくなっていた。
ラズリ=ルルーは、たくさんの『声』に耳を傾けながらまどろんでいた。
ふと名前を呼ばれたような気がして、顔を上げると、赤紫の髪の青年が彼女を見つめている。
彼は一度視線を落とし、弱く笑い、顔を上げた。そしてその口から発せられたのは、別れの言葉だった。
ラグランジェ:「──お別れのときが来てしまいました」
ラズリ(プレイヤーB):「お別れ……? どういうこと……?」
GM:ラグランジェは、オニキスの肉体を抱えている。
ラズリ:オニキスの……?
GM:母アメシストと共にオニキスの魂はここを去り、肉体だけが残った。ラズリが『罪』を引き受けたおかげでオニキスの『穢れ』も消え、元の瑠璃色の髪とエメラルド色の瞳に戻っている。
ラズリ:そっか。双子だもんね。
ラグランジェは語る。
怒り、寂しさ、悲しさを癒すため、ラズリを引き止めた。
外の世界を知りたいという『紫の中空』の想いの結晶──それがラグランジェ。
ラズリ:「あたし、役に立てたのかな?」
ラグランジェはうなずき、言葉を続けた。『紫の中空』と青の世界、赤の世界が切り離される。その前に、ラズリをみんなの元へ帰すと。
ラズリ:あたし……帰れるんだ?
GM:君は今、精神だけの存在だ。元の肉体は滅びてしまったけど、オニキスの身体があれば精神と肉体を持つ存在に戻ることができる。
ラズリ:そうすれば、オニキスとずっと一緒にいられるね。
GM:きっとオニキスもそう願っているだろうと、ラグランジェは言う。
ラズリ:「アユモ君は……もうあたしがいなくても平気なの?」
ラグランジェ:「やっぱりちょっと寂しいですけど……でも大丈夫。──きっとボクよりもたくさんの人があなたの帰りを待っていると思うし、あの人がもうすぐ迎えに来てくれると思うから。……だから、お別れです」
ラズリ:「……今まで、ありがとう」
ラグランジェ:「……いろいろ、楽しかったです」
ラズリ:「あたしも……いろいろあったけど。楽しかったよ。──絶対、忘れないから」
ラグランジェ:「ボクも忘れません」
ラズリ:「髪の毛、あげるね」
ラグランジェ:「……じゃあ、少しだけ」
ラズリ:「これはあたしがここにいた証だから。あなたのおかげでここにいられたあたしの証だから」
ラグランジェ:「……はい」
ラズリ:「あたしは、短くなった髪を見て……ううん、長くのびたって、その度、ここのことを思い出すから」
ラグランジェ:「うん……」
ラズリ:「元気で」
ラグランジェ:「……元気で」
ラズリ:「さよなら」
ラグランジェ:「……さよなら」
もう少しだけ、ここで待ってて。すばやく口をそう動かして、ラグランジェは消えた。
GM:話はアルカディアに少し戻る。
黒炎(プレイヤーD):ほう。
GM:ラグランジェと共に、黒炎──クロヌシは、とある場所を目指していた。
プレイヤーC:い・い・と・こ・ろ?
GM:そりゃもちろん──ってことはなく、<ガズィの鎖>がある場所だ。
プレイヤーF:それって、青の世界にあったアレか? 空から生えてる輪族の公団。
GM:輪族は関係ないけど、OP.2に出てきた鎖と同じものだよ。ただし、赤の世界の方の。<鎖>は、2本あるのだ。で、その両方を斬らないと、『紫の中空』と切り離すことができない。
プレイヤーP:なるほど。
GM:この<ガズィの鎖>があったことで、イーゼリアと『紫の中空』の扉は固定されていた。同じく、アルカディアとも。この<鎖>が一種の目印となり、2つの世界の決まった時間と場所を結んでいた。だから、2つの世界を行き来するには必要なものだけど、いざ"トンネル"をなくしてしまおうとすると、邪魔な存在となる。
黒炎→クロヌシ:だから斬るんだな。
プレイヤーP:そもそも、誰がこの<鎖>を?
GM:それは……どうもよく分かっていないらしい。
プレイヤーC:<鎖>を斬る方法は?
GM:ホモであれば誰でも斬れる。
一同:!
GM:ウソです。──ひとつ。『祭器』と同じような、『紫の中空』に干渉できる力を持つアイテムで斬ること。ふたつ。<鎖>がラグランジェの干渉を受けた状態で斬ること。
プレイヤーP:えーと、<鎖>は2本あるんだよな? クロヌシと、あと1本は誰が斬るんだ?
GM:ファン・ルーンかな。『十六夜』を使って。
プレイヤーF:ここでマフィの登場となるのか。
プレイヤーB:今どこにいるの? トパーズとは一緒じゃなかったよね。
プレイヤーF:岩砂漠の発掘場で発掘をしてる。
GM:お婿探しはどうしたんだ(笑)。
プレイヤーF:シェオールをお手伝いとしてこき使ってる。
プレイヤーC:えー。アレと結婚しちゃうのう?
プレイヤーF:その気はないけどね。アレはトパーズにあげる。
プレイヤーB:もういらない(即答)。
GM:話をクロヌシの方に戻そう。──てことで、君の目の前には<ガズィの鎖>がある。
クロヌシ:ふん。……ラグランジェも一緒なんだよな? 『祭器』の方はどうすればいいんだ? 俺の刀は違うだろ?
GM:君がレプス02小隊に探させていたものがある。レプス01小隊が<ガズィの鎖>の場所探し、02小隊がそれを斬るための刃物探しをしていた。
プレイヤーF:いかんぞ、何でも人任せだと。
GM:てことで、君が02小隊から受け取ったのが、赤い刃のナイフ。
クロヌシ:ナイフかよ。
GM:知らない国の言葉で名前が書かれている。
クロヌシ:ほう……。
GM:リトナには読めたんだけどね(──<THOUSANDS OF DAGGERS>って)。クロヌシが手に取ると、それは日本刀のような片刃の剣に姿を変えるから。
クロヌシ:それなら問題ない。
GM:そもそも2つの世界を救おうという『プロジェクトA』は、ラグランジェからルーンとクロヌシのふたりに伝えられた。ルーンは人間界でできるとことを、クロヌシは魔界でできることをそれぞれ行い、機会を待っていたんだな。
クロヌシ:なるほど。
GM:だから最後はふたりにしめてもらうのがいいんじゃないかと。
ラグランジェは、<ガズィの鎖>に歩み寄った。
何者かがふたつの世界に打ち込んだ楔。このつながりを絶ち、2つの世界をあるべき姿に戻す。
ラグランジェ:(振り返って)「クロヌシさん、ありがとうございました」
プレイヤーF:あの夜のことは忘れません。
プレイヤーB:どの夜ぅ?
クロヌシ:(タバコに火をつけ)「ああ」
ラグランジェが<鎖>に触れる。『紫の中空』に干渉し、その存在をこちらの世界に"固着"させる。
ラグランジェ:「ッ!」
クロヌシ:「……どうした?」
ラグランジェ:(ラズリさんがいなくなることで、こんなにも揺れ動くのか……)「どうやら斬られたくないみたいで……。……こちらへの侵食を始めました」
クロヌシ:侵食?
GM:『紫の中空』が、ラグランジェに”同化”して干渉を押さえ込もうとしてるのだ。……てことで──
ラグランジェ:「……ボクごと斬ってもらうしか、なさそうですね……」