epilogue[星によせて] 01

星ふる夜も雨の日も
いつも祈ってる
たとえどんな遠くはなれても
あなたの心を照らすように

月のあかりの帯を束ねて
夜闇<よる>をあつめた洋墨<インク>で

あなたのために文字<うた>を綴って
天の小川に流しましょう

MNN Presents
【MOND REPLAY 完結篇 】
epilogue[星によせて]

"今度妹が産まれるんだよ。ボク、おにいちゃんになるんだ"

"娘が死んだ……。戦が私から何もかも奪っていく……"

"もう苦しいかどうかも分からない……。これがいつまで続くんだろう……。いつまでも……。永遠に……?"
 

 幾百、幾万、幾億の想いに触れてきた。

 いかりも。かなしみも。よろこびも。にくしみも。

 全てこの<空間>と共に。この<世界>と共に感じてきた。

 あたしは今、生と死のはざまのちゅうぶらりんな状態だけど。

 それはそれで悪くない。

 身を切るような悲しみや、身を焦がすような怒りに触れたときはとてもつらいけど。

 嬉しいことや楽しいことだって、あった。

 そして何より、いつも<彼>が傍にいてくれた。

 存在を感じるだけだったけど、ずっと、そっと。

 だから、ずっとここにいるのもいいかなと思っていた。

 それはほんとう。
 

 でも。それでもやっぱり。

 <アイツ>が迎えにきてくれるのを、ずっと、待ってた……。

 一番古い想い出は、手をつないでくれた姉の記憶。

 まだ幼かった姉。もっと小さかったオレ。

 何故だろう。

 想い出の中のふたりの手は、赤く濡れていた。

 オレには、疾る想いをのせることができる『力』があった。

 だから駆けた。

 走り抜けた。

 その時々の想いをのせて。

 姉を守るために。

 神を倒すために。

 世界のために。

 正義のために。

 ……アイツのために。

 身体がぼろぼろになっても。心がばらばらになっても。

 ファン・ルーンの元を訪ねたとき、ガルフ=プルーシャンの肉体はぼろぼろだった。

 血まみれで紫色に変色した右手には、小さな鏡が握られている。
 

「お前いったい、どんな旅を──」
 

 ルーンは言葉を詰まらせた。その言葉を遮り、ガルフが搾り出すような声を出す。
 

「これだけじゃダメだ……。もう一枚、探さないと……」
 

 治療はしたものの、回復にはしばらく時間がかかりそうだった。
 

「あせるなガルフ。俺もあれからいろいろ調べた。『祭器』のこともだ。お前が持ってたあれ、あれは『蒼天の合わせ鏡』だろ?」

「悪いが……立ち止まってる時間はない……」

 かろうじて動く左手で荷をあさると、それは小さな革の袋の一番奥に入っていた。

 グレン=ディーザーが残したペンダント。精神を切り離し封じる、魔界のアイテム。
 

 ……こいつの力をねじ曲げて使えば……精神を切り離せる……。
 

 何度か試してはみたが、長時間の使用に耐えられるものではなかった。だが、今はそんなことを言っていられない。

 今なら、『蒼天の合わせ鏡』の力を借りることもできる。

 何かに急き立てられるように、ガルフの心は旅を続けることを望んでいた。
 

 ……何とか、なるだろ……。
 

 ルーンの目を盗み、精神を肉体から無理矢理切り離した。

 猛烈な眩暈と吐き気。だがこれでまた動ける。旅を続けられる。

 ふらつく足元。廻る世界。それでもガルフは、歩き始める。
 

 更なる旅は、少しずつガルフの記憶を奪っていった。代わりに目覚めゆく、Gシリーズとしての自分。

 かすれていく自我の中で、2つのことだけをガルフは心に刻みつけた。

 ──もう一枚の『蒼天の合わせ鏡』を見つけること。

 ──ラズリの元へいくこと。

 『ホフヌング』の『アーカイブス』で、ついにもう一枚の『蒼天の合わせ鏡』を見つけた。

 赤いトカゲの化け物の一撃で、朦朧としていたガルフとしての意識が一気に覚醒する。
 

  ──ラズリの元へ!
 

 口の中ににじむ血の味を懐かしく思いながら、『蒼天の合わせ鏡』に自分の意識を乗せ、同調させる。

 鏡が応えた。

 正当な『鍵』の後継者ではないが、ガルフも……そしてすぐ傍にいるトパーズもその血を引く者である。

 強引にトパーズとも同調させ、ガルフは確信した。
 

 ──いける!
 

 それは刹那の出来事だった。

 華奢な少年の拳が腹部にめり込んだ瞬間、ガルフは光の粒となり、爆散した。

 光の粒となって、ガルフは飛んだ。

 治療された肉体は、シャルトルーズの森の<空の鏡>──『紫の中空』のごく浅い場所に沈めてあった。

 ばらばらになった心を寄せ集め。

 今一度──

 光の粒はひとかたまりになって水面に飛び込み、ガルフの肉体に吸い込まれていく。

 光の奔流に飲み込まれるように、深く沈んでいく。
 

 ──ドクンッ!
 

 あるべき姿を取り戻したガルフ=プルーシャンは、深く、深く、潜っていく。

 『紫の中空』は広く、深い。

 イーゼリアとアルカディアをつなぐ”トンネル”は、そのほんの一部に過ぎない。だだっ広い草原に微かに残る、轍のようなものだ。

 ガルフは進む。

 ”トンネル”からも外れた、更に深い場所へ。
 



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