星ふる夜も雨の日も
いつも祈ってる
たとえどんな遠くはなれても
あなたの心を照らすように
月のあかりの帯を束ねて
夜闇<よる>をあつめた洋墨<インク>で
あなたのために文字<うた>を綴って
天の小川に流しましょう
MNN Presents
【MOND REPLAY 完結篇 】
epilogue[星によせて]
"今度妹が産まれるんだよ。ボク、おにいちゃんになるんだ"
"娘が死んだ……。戦が私から何もかも奪っていく……"
"もう苦しいかどうかも分からない……。これがいつまで続くんだろう……。いつまでも……。永遠に……?"
幾百、幾万、幾億の想いに触れてきた。
いかりも。かなしみも。よろこびも。にくしみも。
全てこの<空間>と共に。この<世界>と共に感じてきた。
あたしは今、生と死のはざまのちゅうぶらりんな状態だけど。
それはそれで悪くない。
身を切るような悲しみや、身を焦がすような怒りに触れたときはとてもつらいけど。
嬉しいことや楽しいことだって、あった。
そして何より、いつも<彼>が傍にいてくれた。
存在を感じるだけだったけど、ずっと、そっと。
だから、ずっとここにいるのもいいかなと思っていた。
それはほんとう。
でも。それでもやっぱり。
<アイツ>が迎えにきてくれるのを、ずっと、待ってた……。
まだ幼かった姉。もっと小さかったオレ。
何故だろう。
想い出の中のふたりの手は、赤く濡れていた。
だから駆けた。
走り抜けた。
その時々の想いをのせて。
姉を守るために。
神を倒すために。
世界のために。
正義のために。
……アイツのために。
身体がぼろぼろになっても。心がばらばらになっても。
ファン・ルーンの元を訪ねたとき、ガルフ=プルーシャンの肉体はぼろぼろだった。
血まみれで紫色に変色した右手には、小さな鏡が握られている。
「お前いったい、どんな旅を──」
ルーンは言葉を詰まらせた。その言葉を遮り、ガルフが搾り出すような声を出す。
「これだけじゃダメだ……。もう一枚、探さないと……」
治療はしたものの、回復にはしばらく時間がかかりそうだった。
「あせるなガルフ。俺もあれからいろいろ調べた。『祭器』のこともだ。お前が持ってたあれ、あれは『蒼天の合わせ鏡』だろ?」
「悪いが……立ち止まってる時間はない……」
かろうじて動く左手で荷をあさると、それは小さな革の袋の一番奥に入っていた。
グレン=ディーザーが残したペンダント。精神を切り離し封じる、魔界のアイテム。
……こいつの力をねじ曲げて使えば……精神を切り離せる……。
何度か試してはみたが、長時間の使用に耐えられるものではなかった。だが、今はそんなことを言っていられない。
今なら、『蒼天の合わせ鏡』の力を借りることもできる。
何かに急き立てられるように、ガルフの心は旅を続けることを望んでいた。
……何とか、なるだろ……。
ルーンの目を盗み、精神を肉体から無理矢理切り離した。
猛烈な眩暈と吐き気。だがこれでまた動ける。旅を続けられる。
ふらつく足元。廻る世界。それでもガルフは、歩き始める。
かすれていく自我の中で、2つのことだけをガルフは心に刻みつけた。
──もう一枚の『蒼天の合わせ鏡』を見つけること。
──ラズリの元へいくこと。
『ホフヌング』の『アーカイブス』で、ついにもう一枚の『蒼天の合わせ鏡』を見つけた。
赤いトカゲの化け物の一撃で、朦朧としていたガルフとしての意識が一気に覚醒する。
──ラズリの元へ!
口の中ににじむ血の味を懐かしく思いながら、『蒼天の合わせ鏡』に自分の意識を乗せ、同調させる。
鏡が応えた。
正当な『鍵』の後継者ではないが、ガルフも……そしてすぐ傍にいるトパーズもその血を引く者である。
強引にトパーズとも同調させ、ガルフは確信した。
──いける!
それは刹那の出来事だった。
華奢な少年の拳が腹部にめり込んだ瞬間、ガルフは光の粒となり、爆散した。
光の粒となって、ガルフは飛んだ。
治療された肉体は、シャルトルーズの森の<空の鏡>──『紫の中空』のごく浅い場所に沈めてあった。
ばらばらになった心を寄せ集め。
今一度──
光の粒はひとかたまりになって水面に飛び込み、ガルフの肉体に吸い込まれていく。
光の奔流に飲み込まれるように、深く沈んでいく。
──ドクンッ!
あるべき姿を取り戻したガルフ=プルーシャンは、深く、深く、潜っていく。
『紫の中空』は広く、深い。
イーゼリアとアルカディアをつなぐ”トンネル”は、そのほんの一部に過ぎない。だだっ広い草原に微かに残る、轍のようなものだ。
ガルフは進む。
”トンネル”からも外れた、更に深い場所へ。