epilogue[星によせて] 03


 イーゼリア──

GM:ここで場面転換。ユリアの修行場の近くの、<ガズィの鎖>だ。ここに、ファン・ルーンは『十六夜』を携えやってきた。

ファン・ルーン(プレイヤーF):マフィはよく手伝ってくれる気になったな。

プレイヤーB:さすがにラズリを助けることには手を貸してくれるんじゃない?

ファン・ルーン:俺はひとり?

GM:ラグランジェが一緒だよ。

ファン・ルーン:は?

GM:3人目のラグランジェが。──第一部・第二部、そしてラズリと『紫の中空』にいたのが1人目のラグランジェ(アユモ)。アリアたちと一緒に旅をして、今クロヌシと一緒にいるのが2人目のラグランジェ。OP.3で、オルディネールたちと話をして、今ルーンと一緒にいるのが3人目のラグランジェ。3人とも記憶を共有してる。

ファン・ルーン:ふーん。まあいい。──で、この<鎖>を斬ればいいんだな?

GM:そう。そうすれば『紫の中空』との接点は断たれ、『扉』は閉じる──永遠に。

ファン・ルーン:「剣は使ったことないんだけどな……。……これ、間違ってラグランジェに当たったら、消滅するのか?」

ラグランジェ:「……大丈夫だと思います。どっちみち、<鎖>がなくなってこの世界との接点がなくなればボクはここには──」

ファン・ルーン:……どうした? こっちでも侵食か?

GM:そのようだ。こちらでも『紫の中空』の侵食が始まり、ラグランジェごと斬らなくちゃならない。

ファン・ルーン:よっしゃ。

GM:(聞くまでもない気がするけど……)斬ることを迷ったり躊躇したりは──

ファン・ルーン:しないな。痛いのかどうかは知らんが、斬っても斬られなくても一緒ってさっき言ってたし。

GM:確かに。

ファン・ルーン:「ラズリにはよろしく言っておいてやる。──ご苦労さん」

ラグランジェ:(口元に微かに笑みを浮かべて)「ありがとうございました。──さようなら」
 

 ──金色の刃が、振り下ろされた。

 アルカディア──

 ──赤い残像を残し、<鎖>は切断された。

 ラグランジェと共に、<鎖>は虚空へと消えていく。
 

クロヌシ:(剣を地面に突き刺し、タバコに火をつける)「………………。……さて、俺はどうするかな」
 

 イーゼリアへ帰る方法は失われた。妻と息子の顔が一瞬浮かんだが……まあ、仕方がない。

 紫煙の行方を追うように空を見上げ、クロヌシは目を細めた。

 『紫の中空』──

 ガルフは沈んでいく。その先に、人影があった。
 

 ……アユモ。
 

 心の中で、その名を呼ぶ。

 皮肉なものだ。かつて互いに否定したことを、今は共に成し遂げようとしている。

 ラグランジェは世界を救うことを選び。

 ガルフはラズリを助けることを選んだ。

 すっと、ラグランジェが手を上に伸ばした。

 ガルフは口元に笑みを浮かべ、彼に近づいていく。

 すれ違いざま手を打ち鳴らし、ふたりは言葉を交わすことなく、別れを告げた。

GM:さて、ひとり残されたラズリだけど。

ラズリ:ぽつーん。

GM:上空(?)から、素晴らしいスピードで接近してくる人影がある。──ガルフだよ。

ラズリ:「ガルフ! ガルフぅ!」

ガルフ:「ラズリ!」
 

 近づいてくる。少しずつ、少しずつ。

 手を伸ばす。そして……手が、届いた。
 

ガルフ:「助けにきたぞ。……やっと。やっと」

ラズリ:「……うん」

ガルフ:「……よし」

ラズリ:「ガルフも一緒に帰ろう。ねえ、ガルフ」

ガルフ:「もちろんだ」

ラズリ:「あのときと違って」

ガルフ:「あのときと違って。今度こそ」

 ふたりは手を取り合い、『青の世界』を目指す。

 上っていく。少しずつ、少しずつ。

 帰るべき場所の、微かな気配をたどって。

 <鎖>が断たれた影響だろうか。『紫の中空』がざわついている。『扉』が閉じていく気配がする。
 

ガルフ:(それでも間に合うだろうってか? ……買いかぶりすぎだよ、アユモ!)「急げラズリ! 正義だ! ジャスティース!」

ラズリ:「ジャスティース! キラーン!」

ガルフ:「心を燃やせー!」

ラズリ:「バカだね、今のあたしたち、絶対バカだね」

ガルフ:「バカも突き抜ければ正義なんだー!」
 

 <空の鏡>の気配を捉えた。あと少し。

 あと──もう少し。
 

GM:突然、ガルフがよろける。スピードががくんと落ちる。……限界だ。あと少しなんだけど……間に合わない。

ラズリ:「でもがんばる!」
 

 そのとき──

 異質な力に包まれ、ふたりの身体がフッと持ち上げられた。

 そして間一髪、ラズリとガルフは<空の鏡>の水面から顔を出す。

 どこまでも続いていた水の世界が消えていく。

 『扉』が閉じられた。

 そこはもう、波ひとつないだけの、ただの湖だった。

 空が青い。鳥の鳴き声がする。森のにおいがする。

 ──ラズリ=ルルーは、『青の世界』へと帰還した。

ラズリ:(隣でぐったりしているガルフの肩をたたき)「今のは……正義の力……? スゴイよガルフ!」

ガルフ:(弱弱しく笑い)「へ、へへ。スゴイぞラズリ!」

???:「♪残念、今のは正義の力じゃないよ。──オペラの力さ♪」

ラズリ:え……? オペラって……? えええええ……!?

GM:湖の水際でぐったりしてた君たちが顔を上げると……ナイスアングルなオペリオビッチ=ハイドレンジャーの姿が。

ラズリ:「………………。………………。……ゴメン。あなたの存在を完ッッ全に忘れていたわ」

オペリオ:「♪ヒドイじゃないか、声をかけてくれないなんて♪」

ラズリ:「よかったね、ガルフ。──オペリオさんありがとう」

オペリオ:「♪どういたしまして♪」

ラズリ:「正義の力がオペラ時空を呼んだのね」

オペリオ:「♪それはどうだろう。でもまあ、やっぱりオペラだね♪」
 

 ラズリとガルフは顔を見合わせ……本当に久しぶりに、お腹の底から大声で笑った。

 まるで、あの頃に戻ったように。

 歌声が風に乗って夜の草原を渡っていく。

 瑠璃色の髪を風に揺らしながら少女は空を見上げた。

 エメラルドの瞳が不思議な色をおびる。

 隣を歩いていた茶色い髪の青年が少女の名を呼んだ。
 

「ん?」

「不思議な歌だな。知らない言葉だ」

「『紫の中空』でね、いろんな人に教えてもらったんだ。知らない国の、知らない歌」

「へー」
 

 少女は、どこかぼぉーっとしながら隣を歩く青年の方をちらりと盗み見た。

 いつも正義を口にし、熱くなりやすく、すぐに走り出してしまう人。

 でもそれは、彼のほんの一面に過ぎなかった。

 知らなかった。

 彼の幼い日のことも。育った環境も。お姉さんのことも。使命も。心の奥底に眠るものも。背負ってしまった運命も。

 ……たくさんのつらいことを乗り越えて、自分のところに来てくれたことも。

 きっと彼はまた旅に出るのだろう。

 もう"普通"ではいられないから。たくさんの罪を背負ってしまったから。……それでも、生きていかねばならないから。

 自分だってそう。

 母も、姉も、兄も、祖父ももういない。自分がこれから帰ろうとしている場所は、15年の月日が流れた故郷だ。

 それでも少女は、故郷を目指す。

 「ただいま」の一言を、伝えるために。
 

 風が髪をそっとなでていく。<彼>のことを思い出す。そう約束したから。

 見上げる空の向こうには、金色の『月』が浮かんでいる。その光は、やわらかく彼女を照らしてくれる。やさしいひかり。
 

 そして少女は歌い始める。願いを込めて、祈るように。──そっと、祈るように。



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