MOND REPLAYV


epilogue:02[理解<ビナー>/ヴィゾフニル]

サリース:次は、ヴィゾフニルね。

アルバス:図書館のとこだな。

GM:そう。で、街の様子なんだけど……『BOOK』たちが暴れているのが目に入る。

ゼナ:本が……空を飛んでる?

GM:うん。で、『管理者』や普通の人たちに襲いかかってる。管理の不備とか、『BOOK』になったことへの後悔とか、そういった『怒り』の感情のおもむくままに、ね。お互いを噛みちぎり合ってる『BOOK』もいる。更に自らの能力を高めるために、『喰って』るんだ。

アルバス:『BOOK』版オードーだな。

オードー:だから、おらは違うってばよ。

サリース:とにかく、街の人たちを助けないと。マスターチェイとか。

トパーズ:あの人、生きてるの?(笑)

ゴーヴァ:『ハガイ博士だけは、何とか助けたいぞ』

アルバス:「オレたちに……人を選別する権利はない」

サリース:「アルバス……?」

アルバス:「オレたちは神じゃない。オレたちに……命を選択することは許されない」

トパーズ:「……それは、そうかもしれないけど……」

アルバス:「ドライにいくぞ。一定量の人たちを乗せたら、次の街にいく。知り合いも他人も関係ない」

一同:「………………」

アルバス:(どうした? 反論しろよ? オレ、ヒドイこと言ってるんだぞ……? 反論……してくれないのか……?)
 

 反論する者は、いなかった。アルバスの言葉もまた……真実のひとつだから。
 

アルバス:「じゃあ……それでいくぞ」(いいんだな? オレは……命の責任なんか取れない)
 

 情報都市ヴィゾフニル──

 やはり人は……愚かな歴史を繰り返すものなのだろうか……

 欲望にまみれた手で、もう随分とページをむしり取られてしまった。

 だが……一度終わった人生だ。灰となるのと、例え欲望のためでももう一度『糧』となるのと、一体どちらが幸せなのだろうか……。

 またひとり、自分に手をのばしてくる者がいる。

 ハガイは、ぐっと目を閉じた。

「……大丈夫ですか?」

 聞き覚えのある声。

 目を開けると、心配そうな表情の少年が自分を手に取っていた。その横には、TN−R型の姿もある。

「ゼナー! さっき選択はしないと言ったばかりだぞー!」

「しょーがないですよー! ここって街の『中央』なんですからー! 真ん中の一番上からって、順番どーりじゃないですかー!」

 遠くにいる誰かにそう返事した後、少年は振り返り、本に向かってウインクした。
 
 

epilogue:03[慈悲<ケセド>/ヴェルザンディ]

アルバス:次は……ヴェルザンディだな。

サリース:誰がいたっけ? えーと……あ、ウェンディか(笑)。

オードー:大丈夫だか? 一番最初に変貌してそうな気もするだ。

GM:彼女は無事だよ。君たちに鍛えられたからね。
 

 聖都ヴェルザンディ──

 そこに……殺戮はなかった。

 ただ……だらだらと、時間も場所も関係なく惰眠をむさぼるものばかり。

 神とは何なのか。

 信仰とは何なのか。

 小さな疑念が膨らみ……もう何も考えたくない。

「ハイファさん! ハイファさん! しっかりしてくださいよォ!」

 『天使の声』の神殿。

 ウェンディは、目の焦点が合っていないハイファに呼びかけつづけた。

「……ファニエル……」

「え?」

「女神オファニエルが復活されようとしている……」

 喜びの笑みを浮かべるハイファ。

「──こういう事態を引き起こしたのも、オファニエルの『力』なんだけどねェ……」

 懐かしい声を耳にし、ウェンディは顔を上げた。

「サリースさん……」

「アンタ、運がよかったわ。『船』に、もうちょっと余裕があるから」

「ウソ……ウソです……オファニエル様がこんなこと、こんなこと……」

「しょーがないでしょ、寝るのが好きな女神なんだから」

 サリースが何を言ってるのか、ウェンディには分からない。

「時間がないの、許してね」

 サリースはハイファの腹を容赦なく殴って気絶させると、横に立っていたおさげの男にかつがせた。

「ウェンディ、早く彼氏連れてきなさい。……アンタと付き合おうなんて図太いヤツなんだから、どうせまだ無事なんでしょ?」

 ウェンディはうなずき、神殿の外を走りだす。

 そんな彼女たちを、オファニエルの像はそっと見下ろしていた。

「俺は……俺は神になるんだー!」

 だらけきった人々の中にも、元気なものはいる。……元気すぎるものが。

「バカなこと言ってるヤツがいるなー……。殴ってくるか?」

「やめてくださいよアルバスさ〜ん。それより、早く街の人たちを誘導しないと」

「メンドくせー……」

 そのとき──街中を、低い鐘の音が包み込んだ。
 

 ゴォォォン…… ゴォォォン……
 

 低く、静かに、まるで鎮魂歌のように。

「八点鐘か……」

 鐘の音は、いつまでも鳴り響いた。まるで、皆を安息の眠りに誘うように。
 
 

epilogue:04[厳正<ゲブラー>/トール]

ゴーヴァ:次は……トールか。

マフィ:水上都市だね。

G−X:さ、オードーを下に落として、先にいこう。

オードー:それは、勘弁。……でも、早く助けにはいきたいだ。

アルバス:「巨人とかが暴れてて、危険だな。……ここは、先送りにするか?」

ゼナ:「助けにいきましょうよォ……」

アルバス:「だが、ここで巨人たちに『船』を攻撃されるワケにはいかない。……よし、制限時間を決めよう。もうこれ以上は無理だと判断したら、そこでこの街は……終わりにする。収容人数は少なくなるが、仕方がない」

一同:「………………」

アルバス:「私情ははさまない……そう決めたはずだ」
 

 水上都市トール──

 悪夢はさらに凶悪となり、街を襲っていた。

 食べても食べても腹を減らしている妊婦。

 巨人の子供だと信じ込み、まだ乳離れもしていない我が子を手に掛ける母親。

 『思い込み』から変貌し、産まれた“巨人”たちは、お互いを傷つけ、喰らう。

 恐怖が、街を支配している……。

「くそ……こんなことになってるなんて……」

 エノクは、奥歯をギリッと噛み締めた。

 できることならば、街の人たちをみんな助けたい。

 巨人の子を元に戻し、子供たちを救い、母親たちを安心させてあげたい。

 みんなからは変わり者と見られていたが、それでもエノクはこの街の人々が好きだった。

 それに、トールにはレオやアンの両親だっている。

 思い出の場所だってたくさんある。

 ニャルラトホテプで、エノクは何も願わなかった。

 知的探求心を満たすこと……それは、自らの手で探していくからこそ価値のあるものだ。

 答えを求め、それをポンと与えられるものではないと思っていた。

 こんなことなら……こんなことになるなら……

 街の無事を願っておくんだった。トールの平和を願っておくんだった。

 自分の願いが、そこまで影響力を与えるほど強いものだとは思えない。

 だが……願わないよりはずっといい。

 エノクは、自分よりずっとつらい思いをしているであろうレオとアンの顔を……見ることができなかった。

 エスペルプレーナ2が、街の中心に着陸していく。
 

うぉああああああああああああああ……!!!

 オードーは叫んだ。

 やりきれない思いをぶつけるように、叫び続けた。



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