サリース:次は、ヴィゾフニルね。
アルバス:図書館のとこだな。
GM:そう。で、街の様子なんだけど……『BOOK』たちが暴れているのが目に入る。
ゼナ:本が……空を飛んでる?
GM:うん。で、『管理者』や普通の人たちに襲いかかってる。管理の不備とか、『BOOK』になったことへの後悔とか、そういった『怒り』の感情のおもむくままに、ね。お互いを噛みちぎり合ってる『BOOK』もいる。更に自らの能力を高めるために、『喰って』るんだ。
アルバス:『BOOK』版オードーだな。
オードー:だから、おらは違うってばよ。
サリース:とにかく、街の人たちを助けないと。マスターチェイとか。
トパーズ:あの人、生きてるの?(笑)
ゴーヴァ:『ハガイ博士だけは、何とか助けたいぞ』
アルバス:「オレたちに……人を選別する権利はない」
サリース:「アルバス……?」
アルバス:「オレたちは神じゃない。オレたちに……命を選択することは許されない」
トパーズ:「……それは、そうかもしれないけど……」
アルバス:「ドライにいくぞ。一定量の人たちを乗せたら、次の街にいく。知り合いも他人も関係ない」
一同:「………………」
アルバス:(どうした? 反論しろよ? オレ、ヒドイこと言ってるんだぞ……? 反論……してくれないのか……?)
反論する者は、いなかった。アルバスの言葉もまた……真実のひとつだから。
アルバス:「じゃあ……それでいくぞ」(いいんだな? オレは……命の責任なんか取れない)
情報都市ヴィゾフニル──
やはり人は……愚かな歴史を繰り返すものなのだろうか……
欲望にまみれた手で、もう随分とページをむしり取られてしまった。
だが……一度終わった人生だ。灰となるのと、例え欲望のためでももう一度『糧』となるのと、一体どちらが幸せなのだろうか……。
またひとり、自分に手をのばしてくる者がいる。
ハガイは、ぐっと目を閉じた。
「……大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声。
目を開けると、心配そうな表情の少年が自分を手に取っていた。その横には、TN−R型の姿もある。
「ゼナー! さっき選択はしないと言ったばかりだぞー!」
「しょーがないですよー! ここって街の『中央』なんですからー! 真ん中の一番上からって、順番どーりじゃないですかー!」
遠くにいる誰かにそう返事した後、少年は振り返り、本に向かってウインクした。
epilogue:03[慈悲<ケセド>/ヴェルザンディ]
アルバス:次は……ヴェルザンディだな。
サリース:誰がいたっけ? えーと……あ、ウェンディか(笑)。
オードー:大丈夫だか? 一番最初に変貌してそうな気もするだ。
GM:彼女は無事だよ。君たちに鍛えられたからね。
聖都ヴェルザンディ──
そこに……殺戮はなかった。
ただ……だらだらと、時間も場所も関係なく惰眠をむさぼるものばかり。
神とは何なのか。
信仰とは何なのか。
小さな疑念が膨らみ……もう何も考えたくない。
「ハイファさん! ハイファさん! しっかりしてくださいよォ!」
『天使の声』の神殿。
ウェンディは、目の焦点が合っていないハイファに呼びかけつづけた。
「……ファニエル……」
「え?」
「女神オファニエルが復活されようとしている……」
喜びの笑みを浮かべるハイファ。
「──こういう事態を引き起こしたのも、オファニエルの『力』なんだけどねェ……」
懐かしい声を耳にし、ウェンディは顔を上げた。
「サリースさん……」
「アンタ、運がよかったわ。『船』に、もうちょっと余裕があるから」
「ウソ……ウソです……オファニエル様がこんなこと、こんなこと……」
「しょーがないでしょ、寝るのが好きな女神なんだから」
サリースが何を言ってるのか、ウェンディには分からない。
「時間がないの、許してね」
サリースはハイファの腹を容赦なく殴って気絶させると、横に立っていたおさげの男にかつがせた。
「ウェンディ、早く彼氏連れてきなさい。……アンタと付き合おうなんて図太いヤツなんだから、どうせまだ無事なんでしょ?」
ウェンディはうなずき、神殿の外を走りだす。
そんな彼女たちを、オファニエルの像はそっと見下ろしていた。
「俺は……俺は神になるんだー!」
だらけきった人々の中にも、元気なものはいる。……元気すぎるものが。
「バカなこと言ってるヤツがいるなー……。殴ってくるか?」
「やめてくださいよアルバスさ〜ん。それより、早く街の人たちを誘導しないと」
「メンドくせー……」
そのとき──街中を、低い鐘の音が包み込んだ。
ゴォォォン…… ゴォォォン……
低く、静かに、まるで鎮魂歌のように。
「八点鐘か……」
鐘の音は、いつまでも鳴り響いた。まるで、皆を安息の眠りに誘うように。
epilogue:04[厳正<ゲブラー>/トール]
ゴーヴァ:次は……トールか。
マフィ:水上都市だね。
G−X:さ、オードーを下に落として、先にいこう。
オードー:それは、勘弁。……でも、早く助けにはいきたいだ。
アルバス:「巨人とかが暴れてて、危険だな。……ここは、先送りにするか?」
ゼナ:「助けにいきましょうよォ……」
アルバス:「だが、ここで巨人たちに『船』を攻撃されるワケにはいかない。……よし、制限時間を決めよう。もうこれ以上は無理だと判断したら、そこでこの街は……終わりにする。収容人数は少なくなるが、仕方がない」
一同:「………………」
アルバス:「私情ははさまない……そう決めたはずだ」
水上都市トール──
悪夢はさらに凶悪となり、街を襲っていた。
食べても食べても腹を減らしている妊婦。
巨人の子供だと信じ込み、まだ乳離れもしていない我が子を手に掛ける母親。
『思い込み』から変貌し、産まれた“巨人”たちは、お互いを傷つけ、喰らう。
恐怖が、街を支配している……。
「くそ……こんなことになってるなんて……」
エノクは、奥歯をギリッと噛み締めた。
できることならば、街の人たちをみんな助けたい。
巨人の子を元に戻し、子供たちを救い、母親たちを安心させてあげたい。
みんなからは変わり者と見られていたが、それでもエノクはこの街の人々が好きだった。
それに、トールにはレオやアンの両親だっている。
思い出の場所だってたくさんある。
ニャルラトホテプで、エノクは何も願わなかった。
知的探求心を満たすこと……それは、自らの手で探していくからこそ価値のあるものだ。
答えを求め、それをポンと与えられるものではないと思っていた。
こんなことなら……こんなことになるなら……
街の無事を願っておくんだった。トールの平和を願っておくんだった。
自分の願いが、そこまで影響力を与えるほど強いものだとは思えない。
だが……願わないよりはずっといい。
エノクは、自分よりずっとつらい思いをしているであろうレオとアンの顔を……見ることができなかった。
エスペルプレーナ2が、街の中心に着陸していく。
「うぉああああああああああああああ……!!!」
オードーは叫んだ。
やりきれない思いをぶつけるように、叫び続けた。