テーレ1132(4年前) ニャルラトホテプ〜ヴィゾフニル──
ニャルラトホテプでの特訓のおかげで、オレはなんとか『力』を制御できるようになっていた。
さぼったりしてたので、随分時間がかかってしまったが。
それに、『異物』が入り込んだせいでオレの肉体と精神はバランスを崩し、魔力が急激に落ち込んでいた。
……まあ、あまり気にはならなかったが。
オレとタナトスは『天の回廊』(アールマティと地上をつなぐ光の柱)へ向かい……途中、ヴィゾフニルでルーベルと再会した。
理由は分からないが傷だらけで、死にかけてて……放っておくことは、できなかった。
こうして、オレとタナトスとルーベルの、奇妙な共同生活が始まった──
小さい、こぎれいな家を借りた。向かいにはパン屋があり、そこのアップルティーは格別だった。
それから3カ月ほど過ぎた、ある朝のこと──
いつものように、テーブルの上にはふかふかのパンとアップルティーが用意してあった。
アルバス:「姉ちゃん、気が利くじゃないか」
オレが手をのばして触れた瞬間――パンと紅茶が、テーブルごと『消滅』した。
アルバス:「うおお??」
『消滅』の、力……
ルーベル:(キッチンに入ってきて)「どうしたの?」
アルバス:「いや……オレのせいで……オレが触れたせいで、テーブルが消えた……」
ルーベル:「そんなことあるはずないじゃない。……ちょっと、手を見せて」
アルバス:「ダメだ! 触るな!」
ルーベル:「平気だってば」
アルバス:「じゃあ、このナイフを触ってみるから、それでいいだろ?」
冗談じゃないぞ。制御できるようになってたはずだ……
恐る恐る、傍にあったナイフに触れる。ナイフは……ギラリとした光を放ち、そこにある。
ルーベル:「ほら、ね?」
アルバス:「本当だ……」
ルーベル:「ほら、危ないからナイフ貸して」
ルーベルと手が触れる。刹那──ナイフが消え、触れたところからルーベルが『消滅』していく。
アルバス:「マジかよ!?」
痛みはないようだった。ルーベルは消えていく自分の身体を見て呆然としてる。
アルバス:「しっかりしろ!」
そう言ってつかんだ肩から、また消えていく。
アルバス:「イヤだ! イヤだ! イヤだァァァァァァ!!!」
混乱する意識。視界がぐるっと回転する。
そして最後に見たのは、長い銀髪がゆれる……タナトス……
……ああ、来てくれたんだな……
タナトス:「くッ、このままだとルーベルが……」
アルバス:「何とかしてくれ!」
タナトス:「僕には……どうしようもない……」
アルバス:「冗談じゃないぞ。……消えるな! 消えるなァァァァァァ!!!」
オレは無理矢理『力』を押さえ込み……意識を失った。
GM:連絡を受けたフレイヴスは、サルベージされた治癒マシン『ゴーヴァ』とともにヴィゾフニルに向かった。そしてかろうじて残ったルーベルの『かけら』をゴーヴァに入れ、治癒することにした。
ゴーヴァ:それが、4年前のことなんだな。
GM:皮肉なことに、アルバスは姉を消滅させた恐怖心から、逆に『力』を完全に押さえ込むことに成功した。かなり精神的に不安定になってたけどね。んで、アルバスとタナトスは、アールマティに帰還したワケだ。そして……
フレイヴスは、封印魔法でアルバスとリューセの記憶を交換した。
アルバスは『アールマティで家族と生活していた』ことになり、
リューセは『タナトスと一緒にニャルラトホテプにいた後、ヴィゾフニルでルーベルと生活していた』ことになった。
GM:記憶というのはいいかげんなモノで、自分の記憶に合わせて『事実』を書き換える。アルバスは女としての記憶を書き換え矛盾がないようにし、リューセはヴィゾフニルでのことを『“アルバスの姉”を消してしまった』と書き換えた。
また、『大切な人を消滅させてしまった』事実を忘れさせるため、フレイヴスはリューセの記憶そのものを封印。
その結果、リューセは人為的な記憶喪失となった。
GM:その後、タナトスはリューセをイシュタルに連れていき、老夫婦に預けた。だから、リューセがイシュタルに来たのは4年前ということだな。
テーレ1135(1年前) アールマティ──
ファルバティス一家、アールマティを引き上げイシュタルに移る。
アールマティは封鎖され、誰もいない“死の王国”となった。
テーレ1136(現在) イシュタル──
GM:フレイヴスは、アルバスとリューセの接触を回避するため、アルバスの記憶の一部を消去し修行の旅へ出した。……その直後、ふたりは接触してしまったんだけどね――引かれ合う力を、瞬間移動能力という形に変えて。
ゼナ:全てが裏目裏目に出てますね。
GM:そうかなァ? ──ま、そーゆーことで、物語はchapter01につながっていくワケです。
リューセ:なるほど〜。
ゼナ:あの、クリシュナさんはどうなってるの?
GM:クリシュナは、ソフィアと違って4000年前アールマティで目覚めて以来、『眠って』いない。だから少しずつ『純化』され、今のようになったの。
リューセ:私は?
GM:君はほとんど『聖柩』の中で眠ってたし、アルバスに『力』を渡してからは『純化』してないはずだよ。眠り癖はついたかもしれないけど。
リューセ:じゃあ私がほえほえっとしてるのは……
GM:半分以上地じゃない?(笑)
リューセ:……うん、なんか、すっきりした。……『黄金の林檎』、返そうかな。アルバスに。
GM:どうやって?
リューセ:それは……もらったときと、同じ方法で。こっそり。
記憶の海をたゆたい……オレは目覚めた。
すぐ横に、リューセがいる。
リューセ:(目をこすって)「ほえ?」
瞬間、悟った。こいつも、記憶を取り戻したのだ。
アルバス:「……おはよ」
リューセ:「おはよ〜」
他に言葉は、いらなかった。
GM:アルバス、リューセの指輪に封印魔法がかかってたのは知ってるよね。
アルバス:そういえばそうだったっけ。
GM:なんか、十字架の形のモノが封印されてるぞ。
アルバス:『クーア』か。……リューセには言わないでおこう。もちろん他のみんなにも。
一同:アルバスぅぅぅ〜!
アルバス:秘密は、そっと胸にしまっておく性格なんだ。
リューセ:それって、なんか違う気がする……。
アルバス:「腹へったな。なんか食べにいくか?」
リューセ:「いく〜」
オレたちは今までと何も変わらない。
今は、それでいいと思った。
ゼナ:すっごくおざなりですね(笑)。
オードー:……特にないだ。秘密も、過去も、家族もねえから。
ガンバ:斧からモヤモヤモヤ〜ンと自分によく似た男が出てくるんじゃないの?(笑)
アルバス:そうだったな、『オラクル★ミラクル』!
リューセ:オラクルと意志疎通するのね。
そういう事実があったかどうかは不明だが、その夜、オードーの部屋からはいつまでも木を切り倒す音が響いていたという……
ここで、サリースのプレイヤーが帰ってくる。
GM:結論、出た?
サリース:まだはっきりとは形になってないけど、何となく、ね。
アルバス:オレは産んでもいいと思うがなァ。家族って、いいもんだぞ。
サリース:某一家を見てると、そうは思えないけど?
アルバス:そんなことはない。親父はこわいし、ママはもっとこわいけど、家族愛という点では、ファルバティス家はみんな仲良しだよ。
GM:姉も妹も、ホントはアルバスのこと慕ってるしね。
リューセ:いい家族だよね〜。……うらやましいな。
アルバス:いっそポコポコ産んだらどうだ? そうすればクレリア族とかできるかもしれないしな。
サリース:それはイヤかも……。
アルバス:どんなに強い『力』を持っていても、要はその使い方だろ? ……オレにはムリだったけど。
サリース:うーん……。
GM:まあいいや。結論が出たなら、それでいい。その決意を胸に、最終決戦に臨んでくれ。
長い、長い夜が明ける───
GM:さあ、決戦の朝だよ。
マフィ:復活〜!
ゼナ:やっとゴーヴァから出ていってくれるんですね?
マフィ:(ちょっと顔を出して)寒ッッ!(バタンとハッチを閉じる)
ゼナ:マフィさァァァんッ!
マフィ:ついに安住の地を離れるときが来たのね……。
ゴーヴァ:あ〜、せいせいした(笑)。
GM:で、どういうメンバーで……──ってやっぱ、全員でいくか、この場合。
サリース:当然でしょ。
ゼナ:リルルはおいていきますけどね。
GM:なら、ゲオルグが面倒見ておいてあげよう。
ゼナ:……縛っときます。
オードー:……和解する気あるだか……?
ゼナ:レオさんとアンさんにお願いしておきます。
サリース:あ〜あ、アルバスパパがいたら心強いんだけどねー。
リューセ:ラスボスとして出てきたりして(笑)。
GM:『クーア』はどうする?
アルバス:『大いなる遺産』があるかもしれないから、持っていった方がいいな。
リューセ:ひとり1個ずつ持っていこうよ。みんな死ぬなってイミで。
オードー:全部そろっただ?
アルバス:最後のひとつがリューセの指輪の中にある。みんなはラスボスが持ってると思ってるかもしれないけどな。
GM:じゃあ、アンがオードーに『クーア』を渡そう。安産のお守りとして(笑)。
オードー:うう、でもちょっと感動しただ。
アルバス:(みんな、いつも通り。──こわくないのか? 『終焉』そのものと戦うことが。……死ぬかもしれないんだぞ)
リューセ:「……さ、いこう。『ソフィア』のところへ」
アルバス:(この先にいるのは……やっぱり『ソフィア』なんだろうか。『ソフィア』という名の破壊衝動)
トパーズ:「みんな、絶対生きて帰ろうね」
アルバス:(リューセは、もっとツライんだろうな……。もうひとりの自分を倒しにいくようなものだ)
リューセ:「艦長、何か一言」
アルバス:(いや、この戦いは、殺すためのものじゃない。『ソフィア』を解き放ち、あるべき姿に戻す。そういう戦いだ。……みんなに、オレの思いを……)
ガンバ:「わたい? ここはリーダーが言う方がいいだわさ」
アルバス:(……やっぱ面倒だな)「知ったことか」
それぞれの思いを胸にして、最後の楽園に『天使』たちが舞い降りる────