長い長い沈黙のあと。サリースが口を開いた。
サリース:「目の前にいるじゃない。寄生しても問題ないヤツが」
ビッケ:「それは……私とひとつになるということだな」
サリース:……そういう言い方はやめて。
ビッケ:「だが……お前とG−Xがひとつになれば……また違う『生き物』になるかもしれんぞ。サリースでもなく、ビッケでもG−Xでもない」
サリース:「アンタ……ひょっとしてあたしと一緒で、死にたいの?」
ビッケ:「『ホフヌング』が壊滅した時点で、自分はもう死んだものだと思っている」
GM:サリースは……どうして死にたいんだっけ?
サリース:死にたいというか……積極的に生きる気力がない。だから、自殺したいと思ってるワケではないのよ。
マフィ:生きてるといぢめられるから。いじめっ子がもうすぐ復活するし。
サリース:それもあるかも(笑)。──それに、生きてるイミがないと思ってるし。
GM:結局それもまた、『逃げ』だよな。結局サリは、何事からも逃げている。
マフィ:いいんじゃない、盗賊なんだし。どうせ逃げるなら、徹底的に逃げなきゃ。
トパーズ:生きる『理由』を見つけないとダメだよゥ。
GM:ホントは、そういう『理由』を見つけたいんじゃないの?
サリース:なんでGMが説得するかな……(笑)。
トパーズ:救ってあげようとしてるんだよ。
マフィ:生きるイミを見つけるということは、『逃げる』という行為からも逃げてることになるんだよ? それじゃダメだよ。
ゴーヴァ:それは詭弁(奇弁?)だ(笑)。
マフィ:逃げるか戦うか、中途半端はダメ。
トパーズ:だから、戦う方向に転換していかないとダメってことでしょ。
マフィ:違う違う。逃げるなら逃げるで、最初から徹底しないと。現実を現実として、今だけを見ていかに逃げながら生きていくかを考えないとダメね。
ゴーヴァ:よく分からんことを言い出したぞ。
GM:正しそうだけど、よく考えたら間違ってる気がする(笑)。
ゴーヴァ:ちょっと、話をまとめてもらえる?
GM:Gシリーズの抹殺を命じられたG−Xとガングロクックルックルーフの融合体──ビッケは、G−13──サリースを殺しにきた。が、いつしか愛情が芽生え、気持ち的にサリースを殺せなくなってしまった。──問題点は2つある。ひとつは、サリースが身ごもってしまった赤ん坊をどうするか。もうひとつは、このままだとクックルックルーフ・ビッケと分離してしまいそうな人型寄生生物G−Xの新たな宿主をどうするか。
ゴーヴァ:サリースを宿主にするなら、その前に赤ん坊をどうするか考えないとな。
マフィ:結局話の論点はそこになるワケね。
GM:──ビッケとしては、今どうしたい?
ビッケ:うーむ……。サリースとひとつになるというのが、非常に魅力的なことに思えてきた。
オードー:そもそも、なんでクックルックルックルー……
マフィ:またひとつ多いよ。
オードー:クックルと融合なんかしようと思っただ?
ビッケ:最初はこっちの『ヒト』と融合しようと思ったんだが、なじまなくってな。クックルックルーフの方がしっくりきたのだ。
GM:サリースはなじむと思うよ。同じGシリーズだし。
ビッケ:今までは、巨人の子供は皆暴走して死んだ。が、サリースなら、ちゃんとした赤ん坊を産めるかもしれない。
GM:でもそこで前向きに考えられないワケだ、サリースは。
サリース:ここ2年ぐらいだけだもん。フツウに生活してたのって。
ゴーヴァ:アレはアレで充実した日々だったんだな(笑)。下水に落ちたりしながらも。
GM:リューセやゼナと一緒にいた日々は楽しくなかった? 生きがいにはならなかった?
ゴーヴァ:定食屋のマスターもやさしかったし、バイクかっ飛ばしたり、ゼナを追いかけたり、楽しかったと思うがなァ……。
サリース:それじゃ……それだけじゃ、埋まらなかったのかもしれない……。
GM:ゼナを見てみろ、不幸のカタマリだぞ。
ゴーヴァ:12歳でひとりで生きてるんだぞ。父親とうまくいってないんだぞ。
トパーズ:身体壊れてるし、最愛の人はもうすぐ死にそうだし、それでも必死に救う手段を探してるんだよ。
GM:いると信じてた母親もいなかったしね。
ビッケ:「……北キャンバスにいたとき、私はひとりの魔族ハーフと出会った。彼女は『ホフヌング』に利用され、結果姉を殺すこととなり……最愛の姉を失った。……が、姉の血を浴びた彼女は姉の『子』を妊娠し、出産した。人の肉を食らい、荒れていた彼女だったが……その子を抱いているときの姿は母親そのもので、とても美しかった。──もしかしたら、お前もそういう風になれるかもしれないな」
サリース:「そう言われても……ずっと不幸だった人間が、急に『幸せ』を与えられたって戸惑うだけ……」
幸せを求める一方で、どこかで幸せを恐れている。
サリース:「あたしなんかが生んだら不幸になるかもしれないし……。──あたし……どうしたいんだろ……。自分でも分からなくなってきた……」
トパーズ:あのさァ、明日どうなるか分かんないんだし、今ムリに決めることじゃないんじゃないかなァ?
GM:いや、今決めないといつまで経っても答えをずるずる引き伸ばすから。ちゃんと自分の心、確かめとかないと。
トパーズ:今、目の前にやるべきこと──『ソフィア』との戦いがあるんだから、死のうなんて考えてほしくない。あたしが言いたいのは、それだけ。
GM:(そろそろ他のプレイヤーが退屈だな)ビッケは答えを保留し、とりあえずサリースの前から消えたことにするよ。──でもちゃんと答えは出しておいてほしいから、ちょっと席外して考えておいで。
サリース:……そうするわ。
サリース、退席。
GM:アルバスが布団で寝てて、リューセはその横に付き添いながら、うとうとしてる。
リューセ:トールの病院にいたときと、逆だね。
GM:そして夢という形で、今までの記憶を思い出していく……
テーレ1120(16年前) 聖都ヴェルザンディ──
その日、事件が起こった。八点鐘の、7つの鐘の輝石エネルギーが空になってしまったのだ。
原因は、同じ街にある『聖柩』にあった。
私は、目覚めた。
私は目覚め、透明の柩の中から、ルーン文字がびっしり書かれた天井を見ていた。
意味も分からず見ていただけだった。私は……0歳の赤ん坊だったから。
「やっと逢えたね……」
暗闇に浮かび上がる長い銀髪。蒼い瞳。左目の下のキズ。黒衣の騎士──タナトス。
私は隣の柩を見た。そこにいるはずの少女は……眠っていなかった。
テーレ1126(10年前) 空中都市アールマティ──
どこまでも続く草原。背中に、樹の感触。遊んでいる子供たち。
大きな大きな夕日が、ゆっくりと沈んでいく。全てを、赤と金に染めていく。
一際強い光に目を細め、ふと視線を上げると……少年が立っていた。年は5、6歳に見える。
くすんだ銀髪。蒼い瞳。生意気そうな顔つき。
それが、アルバスとの出逢いだった。
アルバス:「おい」
リューセ:「うん?」
アルバス:「お前、ひとりか?」
リューセ:「うん」
アルバス:「みんなと、遊ばないのか?」
リューセ:「私、みんなと違うから……」
アルバス:「オレには一緒に見えるぞ」
リューセ:「思い出、ないんだ……。家族、いないし。友達と遊んだことないし」
アルバス:「ふーん。大変だな」
リューセ:「だから、いいんだ……」
アルバス:「何がいいんだよ」
リューセ:「あなたには、関係ないでしょ?」
アルバス:「そういう言い方はないだろ?」
視線と視線がぶつかりあう。
アルバス:「……動くなよ」
アルバスが、近づいてくる。
リューセ:「ダメだよ。私に触ったら、あなた消えちゃう」
アルバス:「大丈夫、オレは消えない。……目、つぶれよ」
リューセ:「え?」
アルバス:「いいから」
根拠のない自信におされ、言われた通りに目を閉じる。
瞼の裏が夕日色に染まっている。彼の顔が近づいてくる。
アルバス:「思い出がないなら、オレのをくれてやる。お前を怖がらせる『力』があるなら、オレがもらってやる」
リューセ:「ほえ?」
驚いた私の吐息をふさぐように、彼は唇を重ねた――
GM:こうして、アルバスは6歳までの自分の記憶と『黄金の林檎』をリューセに渡し、代わりに『終焉<デッド>』の力を受け取った。
リューセ:やさし〜! アルバス、やさし〜!
ガンバ:リューセの『力』を得るためにやったんだね。
アルバス:あ、オレもそうだと思った(笑)。
リューセ:も〜、せっかくじ〜んと感動してたのに……。
GM:前代未聞の事態に、フレイヴスとタナトスは驚いた。まだ6歳のアルバスに『消滅』の力を制御できるワケがない。
アルバス:そりゃそうだ。
GM:フレイヴスは暴走しそうになるアルバスの『力』を押さえつつ、元に戻そうとするが失敗。仕方がないので、同じく6歳になってたリューセをファルバティス家の子として育て、タナトスはアルバスと『力』の制御ができるようになるためにニャルラトホテプへ向かった。
リューセ:私の名前は誰がつけてくれたの?
GM:タナトスだよ。──リューセもまた、『黄金の林檎』の『器』となれるように訓練の日々を送ることになった。
リューセ:ほえ〜、これで私もファルバティス家の一員ですゥ〜。
GM:その数ヶ月後、行方不明だったゲオルグがいずこからかアールマティに帰還した。魔法アカデミーを設立することを告げにきたらしい。そのときみんなで撮ったのが、ヴィゾフニルの図書館にあった記念写真(タナトスはたまたま報告のためにニャルラトホテプから帰ってきていた)。
アルバス:だからオレが写ってなかったんだな。
GM:その後ルーベルが調査のために旅立った。イシュタルから順に南下していったのだな。そしてトールでエノクと出会うことになる。──ゲオルグもアールマティを去り、イシュタルに移り住んだ。