エスペルプレーナの整備室。ゼナとエノクは、不眠不休で作業を続けている──
ゼナ:部品を交換したり、配線をつなぎ直したり、モニターチェックしたりします。
GM:右手がないからなかなかうまくいかないけどね。
ゼナ:右手の代わりのマニピュレータがあるってことで。
GM:(んな便利なものがあるかい! ってツッコミは、なしにしておこう……)
ガンバ:「ではわたいが看護婦の代わりを……」
ゼナ:「ガンバ邪魔! どいて!」
ガンバ:「きょ、今日のゼナはなんかコワイだわさ……」
と──突然ゴーヴァの『容体』が急変する。
ゼナ:「なんで!? ──先生、電圧を1ボルト下げて!」
エノク:(内心駄目だろうなと思いつつ)「分かりました」
だが……ゴーヴァの『容体』はどんどん悪化していく。
ゼナ:ちょっと……あきらめモードかも……。
アルバス:じゃあそこでオレが入ってきて、ツカツカと歩み寄ってガッと胸倉つかんで「お前が直さなくて、誰が直すんだ!」(一喝)
一同:おおおおおおおおッッ!
リューセ:アルバスのことちょっと見直したかも。
アルバス:それだけ言って、出ていく。
ドアの外には、みんなが待っていたりする。
リューセ:「どうだった?」
アルバス:「なんか、ダメそうだ」
一同:おいおい……。
ゼナ:「ゴーヴァ……壊れないで……」
GM:個人的には「死なないで」の方がいいな。人としてみてるってことで。
ゼナ:ボクは「壊れないで」だけどなァ。機械としてみてるし、それを認めてる。「機械が壊れる」ってのは「人が死ぬ」ってのと同レベルなんです。
アルバス:ゼナにとって「壊れる」ってのは「死ぬ」ってことだ。だから、ときどき「リューセさんが壊れた」って言うのは、「リューセが死んだ」ってイミなんだ。
一同大笑い。
サリース:なんか説得力あるわ……。
オードー:(ずかずかと入ってきて)「もうあきらめただか? なら、おらがこの斧で……」
ゼナ:「入ってこないでください! ――くそッ、ゴーヴァ!」
ゴーヴァの『眼』がチカチカと点滅する。まるでお別れを言うように……
リューセ:ゴーヴァ! 死んじゃダメだ、死んじゃダメだァ! ボクをおいていくなー!!
GM:リルルよりも好きだからァー!!
ゼナ:それはない(笑)。
リューセ:ゴーヴァ! 帰ってこい! 君は生きるんだ! ここか? ここをこうすればどうだ? ダメか? ダメなのか? ゴーヴァぁぁぁぁぁ!!!
いや、君が叫んでも……。
リューセ:アルバス、もう一回励ましてきたら?
アルバス:いや、次入るときは坊さんの格好なんだけど、オレ。
リューセ:じゃあ尼さんの格好して待っとこ。
GM:(もう一押し……かなァ……)
サリース:叫べ!
アルバス:(西城秀樹風に)ごぉーぅばぁ!
サリース:それは『ローラ』……(へなへなと力が抜ける)。
オードー:「あのよーお……」
ゼナ:「まだ、いたんですか? 出てってくださいって言ったでしょう?」
オードー:「……もうあきらめるだか? だったら、片付けしてェんだけど」
ゼナ:「やめてください! ゴーヴァは……まだ壊れていません……」
オードー:「あきらめてねェみてェだな……。だったら……まだダイジョーブ」(そう言って、出ていく)
ゼナ:「ゴーヴァ、ボクはあきらめないよ」
指先が少し熱くなってくる。背中にもまた……
エノク:「ゼナ君! もうもたない! メモリが……」
ゼナ:「ゴーヴァ、聞こえる? 聞こえる、ゴーヴァ! 聞こえてるなら返事をしてよ!」
アルバス:聞こえてるワケがない。
ゼナ:「ゴーヴァ! 壊れちゃダメだよ! メモリが消去されちゃうよォォォ!」
エノク:「ゼ、ゼナ君……!?」
ボクはあのときの感覚を……ゼナツーを『直した』ときと同じ感覚を思い出していた。
エノク:「羽根……なのか……?」
不思議な光が、ボクとゴーヴァを包んでいく──
GM:ゼナの『力』が発動したようだ。
サリース:てことは、ゼナの背中に立派な羽根がそそり立っているのね(笑)。
アルバス:イヤな言い方だな。
GM:ゴーヴァの『眼』に光が戻ってくる。チカ……チカチカ……
ガンバ:チカチカチカ……『残念ですが、お別れです』
GM:んなアホな(笑)。
ゼナ:ゴーヴァに、左手の人差し指をのばす。
GM:ゴーヴァも指をのばしてくる。で、触れ合おうとした瞬間──ゼナの人差し指がポトリと落ちる。
ゼナ:げ……。
GM:さらに、体のあちこちに細かいヒビが入ってる。肉体の崩壊がさらに進んだようだ。
ゼナ:あう……。
オードー:「でもうまくいけばゴーヴァに治してもらえるだ、きっと」
ゼナ:「……うん……」
ボクは……一体何者なのだろう……
『ヒーメル』であるリルル。治癒マシンであるゴーヴァ。
それ以上によく分からない存在……それがボク……
そう考えると……少しコワイ……
歴史……雄大な時間の流れ……
ヒトの歴史を……決して愚かではないと信じていた、人類の進化を見守りたいと思っていた。
だが……歴史はただ、繰り返すのみ。
「ヒトは……愚かな生き物なのですかなぁ……タナトス殿」
ハガイは、安楽椅子を揺らしながら声をかけた。
「……気づいておられましたか」
言葉とともに……背後に、気配。
黒い衣装をまとった長身の男が、闇から溶け出すように姿を現す。長い銀髪。穏やかな蒼の瞳。左目の下には小さな傷がある。
「悠久の時を生き続けるあなたなら、わしよりも分かっているはず……」
その言葉に、タナトスは薄い笑みを浮かべて答えた。
「確かに我が肉体は長き時を生きてきました。しかし……私は『思い出』を持たぬゆえ」
「……どういう……ことですかな?」
「『ヒーメル』の呪いによって……私の記憶は100年ごとに消えるのです」
「なんと……そのようなことが……」
「私だけではありません。ヒュプノスも……ネメシスも……それぞれ呪いによって苦しんでいます。浅はかな……それゆえ、酷い呪いに……」
ハガイはぐっと目を閉じた。眉間のしわが、さらに深くなる。
「なんと愚かな……。そうか……ヒトが愚かなのではない。我らが愚かなのだ」
「『ネフィリム』は『ヒーメル』とともに……それだけのことです。――必要のないことを話してしまいましたね。……あなたが悲しむ必要は、どこにもありません」
タナトスは、ニコリと微笑んだ。
「そうそう大事な用事を忘れるところでした。――フレイヴスからの預かりものを、受け取りにきたんです」
「ほう……『時』が来たのか?」
「おそらく……。『世界』は、変革の時を迎えようとしています」
「では……これをお渡ししておこう」
ハガイは本棚の本を一冊引き抜くと、中から――中は空洞になっている――十字架のペンダントを取り出した。
『クーア』――大いなる遺産を導く鍵。
「わしにはもう『先』はないが……これを、まだ未来ある者のために」
暖炉の炎を照り返し、ハガイの手の中の『クーア』はやわらかな光を放っていた。