リューセ:「私たちが名付け親になってあげようよ」
いろいろ考えた結果──
ユンケ・ガンバ:「「ダメだよ、やっぱ先生に決めてもらわないと」」
GM:「その先生だが、君たちについて来るつもりらしぞ」
リューセ:「わーい、歓迎歓迎、大歓迎♪」
アルバス:「そもそも、他人の子供よりまず自分の子供の名前を考えないと……」
GM:「リューバス? アルセ?」
アルバス:「なんで名前を混ぜたがるかな……。グレリアとか」
GM:「基本だから」
サリース:「アルセはちょっといいかも」
リューセ:「ところで、きこりもついて来るんでしょ?」
オードー:「おら、別に構わねェけど……」
リューセ:「レオとアンも連れていこうよォ」
サリース:「ちょっとちょっと、産まれたばかりの赤ん坊と出産直後の妊婦を連れていく気?」
ユンケ・ガンバ:「「でもレオは先生についていきたいんじゃない?」」
ゼナ:「『船』にスペースは充分あるけどね」
サリース:「それにしても……どんどん増えていくわね……」
ユンケ・ガンバ:「「え、どんどん乗組員が増えていくんじゃないの?」」
アルバス:「そして最後は箱舟のようになる」
ユンケ・ガンバ:「「そうそう」」
GM:「──ところで君たちは、大事なことを忘れているはずなんだけど……」
オードー:「『クーア』だか?」
リューセ:「アンさんが持ってるんだよね」
アルバス:「でもついて来るなら、ムリにもらうこともないだろ。必要なときに借りればいい」
リューセ:「………………」
アルバス:「……なんだ、この常識的な考えは。熱でもあるんじゃないか、オレ(笑)」
サリース:「でも『クーア』持ってたら襲われない?」
リューセ:「ひとりで島に残していくよりはいいと思う……」
GM:「それからもうひとつ、あるんだけど……」
一同:「え、なんだっけ……?」
ユンケ:「わたいらは、何の魔法にかけられてたっけ?」
リューセ:「あ〜、そうだったね。症状が全然出ないから忘れてた……」
ユンケ:「全員記憶喪失。で、わたいだけが覚えている(笑)」
サリース:「カリストパラスに聞くんだったね」
GM:「先生も知ってるけどね」
エノク:「『メフィストフェレス転換法』とは、その名の通り悪魔に変化する魔法──ではなく……」
ユンケ・ガンバ:「「性別が変わってしまうだわさ」」
エノク:「それはそれで怖いですけど……そうではありません。──そもそもこの世界の……この大陸の、と言った方がいいかもしれませんね……。この南キャンバス大陸の魔法の礎を築いたのは大魔道士メフィストフェレスだと言われています。彼が創り出した魔法の体系のうちのひとつ、それが『メフィストフェレス転換法』です」
サリース:「で、どういう魔法なの?」
エノク:「順序立てて話しますね。そもそもこの魔法は、不老不死の探求の中で考え出されました。不老不死とはすなわち『肉体』が老い衰えないこと。それにはどうしたらよいか……」
ユンケ・ガンバ:「「クックルックルーフになる」」
エノク:「『肉体』を永久に保存すればいいのです。冷凍なり、封印なりしてね。でもそうすると、『生きて』いることにはならない。ではどうするか────答えは『精神を切り離す』──メフィストフェレスはそう考えました」
リューセ:「どういうこと?」
エノク:「基本的に『精神』は不滅です。だから、『魂』と『精神体』に五感を与えて『疑似肉体』を創ることができれば、理論上不老不死になるワケです。『肉体』が保存されているかぎりね」
アルバス:「そう……なるのか……?」
エノク:「さて。あなたたちが『メフィストフェレス転換法』をかけられたとします──そうすると、『肉体』と、『精神体』および『魂』が分離し、さらに『精神体』に見たり触れたりといった『肉体』的機能が付加されます。それによって、あなたたちは『肉体』なしで『肉体』があったときと同じように生活することができるワケです。しかも、『老いる』という特徴を付加しないかぎり不老不死です」
アルバス:「だったら……このままの方がいいんじゃないか?」
エノク:「ただしそれは『肉体』がきちんと保存されている場合です。『肉体』に何らかの危害が加えられた場合、『精神体』だけでは生きていくことができないので、多分死ぬことになるでしょう」
リルル:「でも……魔法をかけられたとき、その場に『身体』はなかったし、術者である教祖フクライはその直後に死にました。ということは──」
エノク:「『肉体』を瞬間移動させたとも考えられます──どこかにね。それには第三者が関わっている可能性もある」
ゼナ:「そういえばあの場には父さんもいた……」
エノク:「つまりあなたたちは、何者かに『肉体』を『人質』として捕らえられてしまった……」
サリース:「捕らわれた『身体』にヘンなことされたら死ぬ……てこと?」
エノク:「そうなりますね。ただ……『メフィストフェレス転換法』は非常に高度な魔法。その教祖が使えたとは思えません。だから失敗している可能性もあるワケです」
サリース:「それを調べる方法はないの?」
エノク:「何らかの異常な魔法力が働いている可能性が高いので、司祭様にでも頼めば分かるんじゃないかと」
サリース:「この街にそういう司祭はいる?」
エノク:「高司祭じゃないと無理でしょうから、ここではちょっと……。聖都ヴェルザンディにならいると思いますけど」
アルバス:「次の街に行かないといけないワケか……」
エノク:「そうですね。──ところで、私も聞きたいことがあるのですが」
サリース:「なんです?」
エノク:「あなたたちはアンの持っている十字架を『クーア』と呼んでいます。あれは──『ゲブラー』という名のものではないのですか?」
リューセ:「げぶらー?」
エノク:「だってほら……(アンの『クーア』を手に取って)裏に古い言葉で『ゲブラー』と彫ってある」
リューセ:「え、そうなんですか? ……あ、私のにも何か彫ってある」
エノク:「えーと……『ホッド』ですね」
ゼナ:「リルルのは?」
エノク:「えーと……」
リルル:「『イェソド』です」
一同:「!?」
リルル:「『ゲブラー』は『厳正』、『ホッド』は『栄光』、『イェソド』は『基礎』を意味する『ヒーメル』の言葉です」
エノク:「『ヒーメル』……ですか」
リルル:「『クーア』はそれらの総称であり、高純度の『輝石』であり──『大いなる遺産』の鍵なのです」
エノク:「『大いなる遺産』……──私の調べたところでは、『大いなる遺産』とは『失われた王家』の秘宝らしいのですが……それも正しいですか?」
リルル:「……間違ってはいないと思います……」
エノク:「アールマティの?」
リルル:「ええ」
エノク:「なるほど……。──いやァ、スバラシイ!! これは是非、あなたたちに同行しなければ! 私の長年の謎が、解けるかもしれない!」
サリース:「長年の謎?」
エノク:「この世界の、秘密です」
サリース:「ふーん……」
エノク:「そうと決まったら、さっそくヴェルザンディに向かいましょう!」
オードー:「おら……難しい話はよく分かんねェ……」
『──リース……』
……え……?
『サリース……』
……ああ……あれはいつのことだったっけ……
『今日からお前は盗賊ギルドの一員だ』
……あたしは……8歳のときにギルドに拾われた……
『今日からあなたの兄弟たちと戦闘の訓練ですよ』
……兄弟……? ギルドの仲間たち……?
『今日からここで働きたい? アンタ、バイク乗れるか?』
……イシュタル……『弁天』か……
────なんか、記憶混乱してるなァ────
『今日から店で働いてもらうよ』
……娼婦としての初めての仕事……
『今日からあたしたち、ここで暮らすの……』
……サラ姉さんと旦那さん……イシュタルで元気にしてるかなァ……
『……では始めよう……』
……なに、これ……? ……覚えてない……
『──おとなしくしろ! どーせ、店で誰とでもヤッてんだろ?』
……13歳のときだった……暴漢に襲われた……レイプされそうになった……
『ちくしょ! この、クソ小娘がァ!!』
……抵抗した……おなかを蹴られた……病院に行った……
────子供、産めなくなってた……────
『あたし……ここから逃げたい……』
……サラ姉さんのためなら何でもしてあげたかった……
……あたしは……あたしは……どうなってもいいや……
──そこから先は簡単だった……
娼館に火を放ち、あたしたちは逃げた────
……ロクな人生じゃ、ないなァ……
───子供を産めない身体───
あたしは何も産み出せない
あたしには何もない
男と寝るのは今までの『復讐』……
男と寝るのは『征服感』を満たすため……
女と寝るのは『キモチイイ』……
女と寝るのは『安心』と『ぬくもり』と……
少年と寝るのは心の『虚無』を埋めたいから……
少女と寝るのは昔の自分を『なぐさめ』たいから……
あたしは何も産み出せない
あたしには何もない
だからただ、『快楽』に溺れて──
だからただ、何もないまま生きていく────