ドクン……
床や天井が光を放ち強大な魔法力が解放された後、あたしの中で『何か』が変わった。『何か』が目覚めようとしている。
頭が痛い……
背中が……熱い……
「リルル、大丈夫?」
「トパーズさん……」
「早くここから逃げるぞ。このまま潜地艦で連れ去られるのはゴメンだ」
「ちょっと待ってよ、アルバスたちを放っていく気?」
「ゴーヴァに乗せればいいだろう」
ドッ……ゴォオオオオッッ……!!!
ものすごい音と共に地面が揺れる。
「きゃーー!!」
「なんだァ!?」
「ギ……ガ……!」
「空からの攻撃カウ!」
「くそッ、早くここから……」
ドクン……
「シェオール! 天井が!」
「ゴーヴァ!」
「ギ……!」
天井に、壁に亀裂が走り、巨大な塊が降ってくる。
ドクン……
ダメ……死んじゃう……みんな……死んじゃう……
「だめェェェェェェ……!!」
背中が燃えるように熱くなり──あたしの中の、『力』が目覚めた。
ぱァん……
あっけないほど軽い音を立てて、瓦礫が砕けた。粉々になった破片が、少女の上に降り注ぐ。
「ギ……?」
リルルをかばおうとした、ゴーヴァの動きが止まる。
「白い羽根……天使……?」
「てんしさまだァ……」
翼を広げたリルルの姿は、天使そのものに見える。
「翼はともかく──瓦礫を砕いた『力』は、衝撃波か……?」
「分からん。だがこれがこの少女の『力』なのだろう……」
「ねえ──リルルの様子が変だよ……?」
目の焦点が合っていない。いや、ここでないどこかを見ている──そんなかんじだ。
ゴゥン……
「今度はなに!?」
「……どうした、ゴーヴァ?」
『船の動きが止まった』
「止まった……?」
『ああ。そして──何かが変わった。今までとは明らかに何かが違う』
「どういうことだ?」
『……目覚めたんだ……この船が……』
「ひょっとして、リルルと関係ある?」
「推測の域を出ないが……衝撃波による破壊だけが、彼女の能力ではないということだな」
「リルル……」
白き翼の少女の瞳は、遠くを見つめたまま何故か潤んでいる──
『超弩級地中潜航艦ザグザゲル──コネクト──コード認識──リルル=フィランジェリを確認』
あたしの中に、莫大な量の情報が流れ込んでくる。
『これよりザグザゲルの操作系はリルル=フィランジェリに移行します』
今、ザグザゲルはあたしの『思い』ひとつで動く──この船に眠る、恐ろしい『兵器』ですら。
「──!!」
潜地艦と同化した『目』がはるか上空に影を捕らえた。衛星軌道上に浮かぶ、古代文明の忘れ形見のひとつ──『グングニル』。さっき攻撃してきたのはこいつだ。
……破壊するしかない……
そうしなければさらに多くの人が傷つく。大切な人の命が、危険にさらされてしまう。 あたしは、4つのジェネレーターのエネルギーが一カ所に集まるようイメージした。そして――
「『ザグザゲル』のエネルギーが一点に収束していきます!」
「『グングニル』の比じゃないな……。まさか──遺失兵器か!?」
「『ザグザゲル』、重力波砲発射! 重力子弾が天に昇っていきます!」
「重力子弾、『グングニル』に命中!」
「………………。……これがVLSの力……。──被害状況を知らせよ」
「『ザグザゲル』中破。『グングニル』大破──いえ、消滅!」
「エネルギー余波および流れ弾によりモトの街にも被害が出ています」
「『アイオーン』は全員無事のようです。それから弟さんたちも」
「そうか……」
「よかったですね」
「ああ、そうだな……」
「どうか……しました……?」
「いや──あの少女の気持ちを考えると、ちょっとな……」
「とりあえず助かったようだ。この娘のお陰だな」
気絶したリルルを抱きかかえると、シェオールは目配せをした。ゴーヴァが黙ってうなずき、アルバスたちを背中に乗せる。
「……どうするの?」
「こいつらの『船』に連れていく。それが一番いいだろう」
「そだね」
「それにしてもメフィストフェレス転換法とは……。こいつらこれから、苦労するぜ……」
小さな小さな声で、シェオールはつぶやいた──
[断 章]:
それから3日──
その間に中破した潜地艦で『処刑』が行われたことは、誰も知らない。『アイオーン』は次の街へ向かっていたし、モトの街の人々は自分たちのことで精一杯だったからだ。
その男は、かろうじて原型をとどめている甲板以外を吹き飛ばすと、中から死体を引きずり出した。まだかろうじて息がある者には、ゆっくりとトドメを差す。そして、鉄の棒で作った即席の『十字架』に張り付けていく。
この行為自体に意味はない。
単なる、余興だ。
生あるモノが死んだことに対する、自分なりの『祝福』だ。
月の光が、十字架を鈍く銀色に輝かせる。血の赤は、闇色と化す。
『満月が近い……』
仮面の奥で、男は──ヒュプノスは笑う。そして、自らも闇と化した──
[イントロダクション パート2/Introduction part2]
GM:「気がつくと、君たちはエスペルプレーナの医務室にいる」
サリース:「は? ……誰が運んでくれたの……?」
リューセ:「カリストパラス、偉すぎる」
ゼナ:「もしくは、トパーズたち?」
サリース:「姫は……?」
GM:「リルルもいるよ。ケガとかもしてない」
リューセ:「『クーア』は?」
GM:「ちゃんとある。アルバスとユンケが持ってたんだっけ」
アルバス:「よりによって、オレたち2人」
ユンケ:「だわさ」
GM:「さて──なんっか船の様子がおかしい。妙な違和感を感じる」
アルバス:「実はこれはエスペルプレーナの同型艦、だとか」
リューセ:「カリストパラスは動いてる?」
GM:「いや、沈黙してる」
リューセ:「じゃあやっぱりエスペルプレーナじゃないんだ」
GM:「エスペルプレーナであるのは間違いない。でも、カリストパラスは動かない」
アルバス:「コインをはめても?」
GM:「コインをはめるためにブリッジに行こうと医務室の外に出ると、何カ所か被弾してるのが分かる」
アルバス:「なんか様子が変だ。ブリッジに行ってコインをはめてみるけど──」
GM:「カリストパラスは起動しない」
リューセ:「窓の……窓の外を見てみます」
GM:「そーすると、エスペルプレーナの装甲があちこち融解してたり壊れたりしてるのが分かる」
ゼナ:「な、なんで……?」
GM:「さらに、ここはモトの外らしく、遠くにモトが見える。うっすらと煙が上がってるね。で、エスペルプレーナの横に、全壊してボロボロになった超巨大な潜地艦が横たわっている。んで、潜地艦の甲板に、無数の十字架が立っているのが見える」
雲の透き間からうっすらと光が射し、十字架を輝かせる──人が張り付けられた十字架を。
GM:「遠目だからよく分かんないけど、ことわざ教の教祖や幹部、百二十八将軍たちのようだ」
リューセ:「死ん……でるの……?」
GM:「そう見える」
サリース:「なに? 何がどうなってるわけ……?」
その問に答えられる者は、ここにはいない。
その後、エスペルプレーナの応急処置が終わり体が本調子になるまで、アルバスたちはシモーヌの屋敷に寄宿することになる。
そして物語は終わり、また始まる────