MOND REPLAYV外伝:02

・テーレ1136 空中都市アールマティ ヒーメル純血種培養所

タナトス:(死体を見下ろし)「新たな『王』を望む、夢見るものの末路だ……。幻想のために命を弄ぶ、愚かなものたち……。──現アールマティ国王フレイヴスは『ヒト』と共に生きる道を選んだ。この国に、もう王は必要ないと……」(そっと目を閉じる)
 

 と──そのとき突然、リルルが吐血する。
 

ゼナ:!! リルルッ!」

タナトス:「『力』の使い過ぎだ……。ただでさえ身体が弱いのに、未成熟なまま『力』を使えば……」

ゼナ:「やっぱり、ムリしてたんだ……。リルルゥ……」

タナトス:「どんなに楽観的に見ても、もうあまりもたないだろうね……」
 

 そんな彼らに、僕は『クーア』を託した。

 僕だけでは……『ネフィリム』だけではどうあっても成し遂げられない、『大いなる遺産』の解放を願って。

 僕は……『クーア』を託した。

 『クーア』……『大いなる遺産』を解放する鍵を。

・テーレ1128(『BOOK』内の時間) ハガイの記憶の中のヴィゾフニル

 僕は、嘘をついた。
 

ハガイ:「ヒトは……愚かな生き物なのですかなぁ……タナトス殿」
 

 ハガイは、安楽椅子を揺らしながら声をかけた。
 

タナトス:「……気づいておられましたか」
 

 背後に、タナトスが姿を現す。
 

ハガイ:「悠久の時を生き続けるあなたなら、わしよりも分かっているはず……」
 

 その言葉に、タナトスは薄い笑みを浮かべて答えた。
 

タナトス:「確かに我が肉体は長き時を生きてきました。しかし……私は『思い出』を持たぬゆえ」

ハガイ:「……どういう……ことですかな?」

タナトス:「『ヒーメル』の呪いによって……私の記憶は100年ごとに消えるのです」

ハガイ:「なんと……そのようなことが……」

タナトス:「私だけではありません。ヒュプノスも……ネメシスも……それぞれ呪いによって苦しんでいます。浅はかな……それゆえ、酷い呪いに……」
 

 ハガイはぐっと目を閉じた。眉間のしわが、さらに深くなる。
 

ハガイ:「なんと愚かな……。そうか……ヒトが愚かなのではない。我らが愚かなのだ」

タナトス:「『ネフィリム』は『ヒーメル』とともに……それだけのことです。──必要のないことを話してしまいましたね。……あなたが悲しむ必要は、どこにもありません」
 

 タナトスは、ニコリと微笑んだ。
 

タナトス:「そうそう大事な用事を忘れるところでした。──フレイヴスからの預かりものを、受け取りにきたんです」

ハガイ:「ほう……『時』が来たのか?」

タナトス:「おそらく……。『世界』は、変革の時を迎えようとしています」

ハガイ:「では……これをお渡ししておこう」
 

 ハガイは本棚の本を一冊引き抜くと、中から──中は空洞になっている──十字架のペンダントを取り出した。
 

ハガイ:「わしにはもう『先』はないが……これを、まだ未来ある者のために」
 

 『クーア』を必要としているのはフレイヴスじゃない。……僕だ。

 ヴィゾフニルの中央図書館内部。ハガイ博士の『BOOK』の中で……

 僕は……嘘をついた。

 ヴィゾフニル……そこは“知の中枢”

・テーレ1132 情報都市ヴィゾフニル パン屋の向かいの小さな家

 ヴィゾフニルには、あまりいい思い出がない。

 あの朝も……そうだった。
 

 いつものように、テーブルの上にはふかふかのパンとアップルティーが用意してある。
 

アルバス:「姉ちゃん、気が利くじゃないか」
 

 アルバスが手をのばして触れた瞬間──パンと紅茶が、テーブルごと『消滅』した。
 

アルバス:「うおお??」

ルーベル:(キッチンに入ってきて)「どうしたの?」

アルバス:「いや……オレのせいで……オレが触れたせいで、テーブルが消えた……」

ルーベル:「そんなことあるはずないじゃない。……ちょっと、手を見せて」

アルバス:「ダメだ! 触るな!」

ルーベル:「平気だってば」

アルバス:「じゃあ、このナイフを触ってみるから、それでいいだろ?」
 

 恐る恐る、傍にあったナイフに触れる。ナイフは……ギラリとした光を放ち、そこにある。
 

ルーベル:「ほら、ね?」

アルバス:「本当だ……」

ルーベル:「ほら、危ないからナイフ貸して」
 

 ルーベルと手が触れる。刹那──ナイフが消え、触れたところからルーベルが『消滅』していく。
 

アルバス:「マジかよ!?」
 

 痛みはないようだった。ルーベルは消えていく自分の身体を見て呆然としてる。
 

アルバス:「しっかりしろ!」
 

 そう言ってつかんだ肩から、また消えていく。
 

アルバス:「イヤだ! イヤだ! イヤだァァァァァァ!!!」
 

 キッチンへ入ってくるタナトス。事態を悟り、顔が引きつる。
 

タナトス:「『消滅』の力か! ──くッ、このままだとルーベルが……」

アルバス:「何とかしてくれ!」

タナトス:「僕には……どうしようもない……」

アルバス:「冗談じゃないぞ。……消えるな! 消えるなァァァァァァ!!!」
 

 アルバスは無理矢理『力』を押さえ込み……意識を失った。
 

 そう……

 気を失ったアルバスと、『かけら』になったルーベルを抱えて。

 僕はただ、呆然とすることしかできなかった。

 フレイヴスに連絡するのが、やっとだった。

 それほどまでに……心の奥では恐れていたんだ。

 『終焉<デッド>』の力を。

 僕とソフィアを引き離した……その『力』を。

・テーレ1120 聖都ヴェルザンディ 『聖柩』内部

 『終焉<デッド>』は、目覚めた。

 ソフィアは目覚め、透明の柩の中から、ルーン文字がびっしり書かれた天井を見ていた。

 意味も分からず見ていただけだった。ソフィアは……0歳の赤ん坊だったから。
 

タナトス:「やっと逢えたね……」
 

 タナトスは『柩』の中のソフィアを抱き上げた。ソフィアは隣の『柩』を気にしているようだ。
 

タナトス:「やっぱり分かるのかな……。──ソフィア、クリシュナはここにはいないよ。彼女はずっと起きたままだ。ずっとね……」

ソフィア:「アヴァヴァ?」

タナトス:「……ホントは分かってなかったりして……。──ソフィア、僕は君に呼ばれてきたんだよ。『目覚めたい』って、君が僕を呼んだんだ」

ソフィア:「だあ」

タナトス:「どうしてだろうね? 『時』が満ちたってことなのかい?」

ソフィア:「アヴァ」

タナトス:「……今度こそ、うまくいくといいね」
 

 タナトスは『柩』の中に目を落とした。

 4000年前、そこにあった『箱』は今……『女神の塔』にあるはずだ。
 

 だって……あの箱は『僕』が運んだんだから。

 そうだったよね、ソフィア……



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