MOND REPLAYV外伝:01


Extrachapter

[THANATOS]

―IF I CAN'T BE YOURS―

僕は……
僕たちは、「あのころ」を求めていたんだろうか
女神がいて、天人がいて、巨人がいて
創ったものも創られたものも関係なく過ごした、
短い、至福の刻……

・テーレ1136 “最後の楽園”ニャルラトホテプ 『女神の塔』が半分沈んだ湖のほとり

フレイヴス:「──結局、どうなんだ?」

タナトス:「来るよ、彼らは───『願い』を、叶えるために」

フレイヴス:「そうか……」

タナトス:「……怒ってる? それとも、あきれてる?」

フレイヴス:「どっちでもねえよ。……ハガイにウソついたのは、やりすぎだと思うがな」

タナトス:「……ごめん……」

フレイヴス:「まあいいさ。……『想い』を止めることは、誰にもできないからな。──助けたい。守りたい。傍にいたい。どれも大切だ」

タナトス:「ありがとう……」

フレイヴス:「お互い様だよ。……俺は10年もこのまんまだ。お前には随分とフォローしてもらった」

タナトス:「うん……」

フレイヴス:「さ、あと少し、見守ることにしようぜ──子供たちの、行く先を……」

・ニャルラトホテプ 『女神の塔』(落下後)内部

 今頃、リューセたちもここに向かっているんだろうか。

 『ソフィア』との……もうひとりの自分との戦いのために。

 僕は……僕の戦いへ向かう。

 僕の『運命』を大きく変えた、あの場所へ……
 

 湖に半分水没した、逆さまの女神の塔を降りていくタナトス。

 床が天井に、天井が床になってしまってる内部を、器用に潜っていく。

 魔法の力で、水中でも呼吸は可能になっている。

・ニャルラトホテプ 『女神の塔』 最下層(最上階)のひとつ上(下)の階

タナトス:「ここは……」
 

 片手で『床』に手をついて浮いているタナトス。

 『床』を見上げ……目を細める。
 

 ここは……『俺』が一度死んだ場所だ……

 (回想)4000年前 空中都市アールマティ 『女神の塔』へ向かう道の途中

 傷を負っているタナトス。鎧は着ておらず、黒い服が血で更に漆黒に染まっている。

 ふと顔を上げると、目の前にそびえる女神の塔。
 

 そばに……

 少しでもそばにいきたかったんだ……

・ニャルラトホテプ 『女神の塔』最下層(最上階)

 逆さまになっているオファニエルの像。その台座に、『箱』が収まっている。

 『箱』に手をのばし……気配を察して振り返る。

 その顔に浮かんだのは、驚きと──微かな笑顔。
 

タナトス:「……お前……ずっとここにいたのか……。……ずっと……こんなところで『彼女』を守ってくれてたんだな……」
 

 『天井』からゆらり……と立ち上がる影。

 闇の中で、無数の赤い眼が不気味に光る。全身に『眼』を持つ巨人──アルゴス。

 その瞳に理性の光は……ない。
 

タナトス:「アルゴス……」

・4200年前(タナトス少年時代) 空中都市アールマティ 巨人<ネフィリム>の村

 俺とヒュプノス、それからネメシス。

 俺たちは、アールマティの小さな村で生まれた。
 

ネメシス:「タナー、危ないってば」

タナトス:「だーいじょうぶだよ。ちょっと退治にいくだけだから」

ネメシス:「ちょっと、で済む問題じゃないでしょー! ……ヒュウからも何か言ってあげてよ」

ヒュプノス:「タナトス、君が倒そうと思ってるヤツは、全長10メートルから15メートルある蛇の化け物だ。毒を持ってるし、第一……」

タナトス:(ぼそっと)「……お前、子供のくせにかわいげないよなー……」

ヒュプノス:「──第一、そのナイフじゃヤツの皮膚を貫けない。……せめてこれぐらいのモノを持っていくんだな」(背負っていた剣を手に取る)

ネメシス:「ヒュウ!」

タナトス:「いいの持ってるじゃん、ヒュウ。……その剣、借りてっていいのか?」

ヒュプノス:「折らないなら、貸す」

タナトス:「……で? それからそれから?」

ヒュプノス:「………………。……お前、ボクの力をアテにしてるだろ」

タナトス:「おう」
 

 物心ついた頃には両親がいなかった俺とヒュプノスは、ネメシスと兄妹のように育った。
 

ネメシス:「もう……。──じゃあせめて、そのコはおいていってよね」

タナトス:「そのコ……?」
 

 それから、もうひとり……
 

タナトス:(視線を落とし)「……アルゴス?」
 

 タナトスの服のスソを、幼い少年が握っている。
 

タナトス:「アルゴス、お前いつの間に……」
 

 アルゴスは、ネフィリムでも珍しい『シャーマン』の一族だ。

 全身に霊力を高めるための『紅い瞳』を埋め込んだ異様な外見をしていて、日々女神オファニエルに祈りを捧げている。
 

タナトス:「お前もいきたいのか?」

アルゴス:(うなずく)

タナトス:「ダメだぞ、アブナイから」

ネメシス:「……よく言うわよ。──さ、アルはこっちにおいで」

アルゴス:(少し迷ったあと、ネメシスの方にいく)

タナトス:「おし……それじゃ、いこうぜ」
 

 その頃の俺は、言うまでもなくまだ子供で……甘かった。

 化け物退治の結果は散々たるもので、剣は真っ二つに折れ、俺は大ケガを負った。

 ヒュプノスはもっとひどくて、予想以上に速かった大蛇のスピードについていけず毒牙にかかり、何日も高熱で苦しんだ。

 村のみんなが助けにきてくれなかったら、死んでいただろう。
 

タナトス:「……う?」
 

 俺は、小さな部屋のベッドで目を覚ました。すぐそばに、ネメシスがいる。
 

タナトス:「ネム……?」

ネメシス:「起きた? ──薬、飲む?」
 

 俺たちがボロボロの姿で戻ってきたとき、ネメシスは怒るでもなく泣くでもなく……ただ、へなへなとその場に座り込んだ。

 そして今は、ただ黙々と治療をしてくれている。
 

 ネム……ネメシス……

 俺の大事な大事な仲間で……──ヒュプノスの想い人

・テーレ1136 エスペルプレーナ2 喫茶室

 『ソフィア』との決戦前夜。

 ひとり、紅茶を飲みながら気分を落ち着けようとしているニーヴェがいる。

 そこへタナトスが闇から溶け出すように姿を現す。
 

タナトス:「こんばんわ、ネム」

ネメシス:「タナー……」

タナトス:「いよいよ、明日か」

ネメシス:「そうね……。……あ、紅茶、飲む?」

タナトス:「いただこうかな。……久しぶりだ、ネムが入れてくれた紅茶を飲むのは」

ネメシス:「確かアップルティーが好きだったわよね……。──あれ、切れちゃってる」

タナトス:「いいよ、何でも」
 

 紅茶を入れるニーヴェ。その間、ふたりは無言。
 

タナトス:(紅茶を受けとって)「……つらい戦いになるな」

ネメシス:「そうね……あなたにとっても、あの子たちにとっても。……たとえそれが、自らの『望み』のためでも」
 

 全ては──女神復活のために。
 

ネメシス:「子供たちを見てると思う……私は今、幸せだって。シャナスが無事だった。ルーベルが生きていてくれた。イリスは少しずつ成長していってくれてるし……アルバスも、少し変わったみたい。──あの子たちがいてくれるだけでいい。そう思うときもある。でも……」

タナトス:「……でも?」

ネメシス:「それじゃいけない、って。どんどん心を失って……クリシュナは『結晶』になった。ソフィアは、『心』がちぎれてしまった。──ふたりを助けたい、と思うから……」

タナトス:「死んでいった……ヒュプノスのために?」

ネメシス:「ええ、そして……今もニャルラトホテプにいるフレイヴスのためにも。……アールマティでの悲劇の傷痕を、残したままにしておくわけにはいかないでしょ?」

タナトス:「そっか……。(紅茶を一口飲んで)おいしいや。やっぱ、ネムの紅茶が一番だ」

ネメシス:「ありがと。クッキーもいかが?」

タナトス:「これはまた……『個性的』な形のクッキーだな」

ネメシス:「ふふふ、それ、ゼナとリルルが焼いたのよ」

タナトス:「へえ」
 

 ゼナとリルル。ゲオルギウスの『今』と、純血種の少女。

 『明日』の、見えないふたり……



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