GURPS・EDO『れ・みぜらぶる』〜無情篇〜(終)


 ――翌朝。椎名は蔵から引きずり出され、再び高虎の前に据えられた。
 

椎名:一晩寝れなかったからちょっと憔悴している。覚悟を決めて観念したような表情を浮かべていよう。

GM:なるほど。
 

 ――そんな椎名に処刑の日が告げられる。
 

藤堂家の侍:「心して聞くように。(巻紙を広げて)処刑は三日後。市中引き回しの上正午を持って六条河原にて斬首、獄門とする。なおそれまでは藤堂家門前にて晒すこととする。以上。京都所司代、板倉勝重」

椎名:晒される、ってことは磔かなんか?

GM:いや、そんな大仰なものではないよ。後ろ手に縛られて、座らされる。粗末な屋根みたいなものが急遽、作られる。

椎名:なるほど。

GM:で、首から『大謀反人長宗我部盛親』と大書された木の札も下げといて。

椎名:うい。じゃあ、きちっと正座して、胸張って座っていよう。

GM:何か考えることとかはないの?

椎名:ん〜……これからのこと……とか考えると気付かないうちに顔に出そうだから、考えないようにしとこう。

GM:なるほどね。では初日は何事もなく暮れる。

椎名:見張りとかは?

GM:勿論いるよ。昼は二人、夜は三人。日没、日の出で交代する。

椎名:まあ、誰も見てなくってもきちんと座ってるけどね。

GM:殊勝な心がけです(笑)。

椎名:後世の盛親の名を汚さぬようにせねば。

GM:当然だ。さて翌日。往来の人通りも段々また増えてくる。

椎名:道行く人はどんな目でみている?

GM:どちらかといえば同情に近い感じかな。決して冷たいものではない。

椎名:ほー。

GM:そんな中、あきらかに蔑んだような目で見ている連中がいる。

椎名:ひょっとして……。

GM:察しがいいね。僧ドットコム、空雅堂らプレイヤーキャラクターたちだ。

椎名:ああ、やっぱり(笑)。面識あるのがバレるとまずいから無視しとこう。

GM:(別にまずくは無いと思うが?)……向こうはニヤニヤしながらこっちを見てるよ。

椎名:ひたすら、無視する(笑)。

GM:(信頼関係薄いなぁ)君が何もしないのなら、やつ等はひとしきりニヤニヤした後去っていく。

椎名:ちょっと、ほっとする(笑)。

GM:やつらが去ってしばらくたつと、今度は大名行列が前を横切ろうとする。

椎名:お、じゃあ、ふとそっちに目が行く。

GM:やがて行列も中ほどに来て駕籠が止まり、中から武士が一人、降りてくる。

椎名:見覚えは?

GM:直接会ったことは無いがわかるだろう。島津家当主、家久だ。

椎名:おお。関ヶ原では西軍だったよね。

GM:そうです。

GM/島津家久:「……災難であったな」

椎名:「なんの、これもまた、武門に生まれたものの定めでござろう」

家久:「なかなか見上げた心意気だ。何ぞ欲しいものでもあるか?」

椎名:「死に行く身に、なにが入用になりましょうや。……いや、一つありましたな」

家久:「ほう」

椎名:「願わくば、死に目に桜の花を。かなわぬ望みですがな」(と、晴れやかに笑う)

GM:くだらん。気取るのはいいがパターン化しすぎだ。

椎名(のプレイヤー):ほっとけ。

家久:「桜、か。なかなか洒落たことを申すな(笑)」

椎名:(微笑)

家久:(真顔に戻って)「ここに私の脇差がある。これで自害せぬか?」

椎名:「は?」

家久:「こうして生き恥を晒すよりはるかに潔いと思うのだが、どうだ?」

椎名:「そのお言葉はもっともなれど……」

家久:「ふむ」

椎名:「自害はできませぬ」

家久:「ほう」

椎名:この命と右手さえあれば、いずれ家康や秀忠をこの姿にできるかも知れんのですからな

GM:家久、ちょっと驚いた風に椎名を眺めて、

家久:「先程の桜の話、そして今の話。お主、まだ何かやろうというのか?」

椎名:「この戒めさえなければ、ご覧に入れられましょうが」

家久:(立ち上がりながら)「今のわしには言えん。お主、手は縛られているがわしよりも自由なのかも知れんな……」

GM:そういって駕籠に戻る。

椎名:見えなくなるまで頭下げていよう。

GM:やがて行列は去っていく。そんなこんなで今日も暮れて行くわけだ。

椎名:ふう……。

 ――翌日。

GM:君に残された時間は刻一刻と短くなっていく。明日の昼には彼岸の人だ。

椎名:ちゃんと泰蔵は助けにきてくれるのかな。

GM:お、生への執着が出てきたか?

椎名:そうだね。泰蔵との会話とか、晒された数日間とかで。

GM:いいことだ。……で、これといったことも無く一日が終わろうとしている。人生最後の夕日に向かって一言。

椎名:赤い夕日のばかやろー!! ……とか言ったら、泰蔵に殺されかねんな。

GM:くだらん。

椎名:いやまったく(←そう思うなら言うな)。

GM:さて、日は落ちた。

椎名:おう。

GM:ところが本来日没と同時に来る筈の夜番の見張りがなかなか出てこない。

GM/昼番A:「おかしいな……」(屋敷の方に戻っていく)

椎名:疲労とかでかなりぼ〜っとしてるだろうけど……見張りが入っていくのを横目で見送っておく。

GM:やがて新しい見張り三人が出てくる。入れ替わりにもう一人の昼番が帰って行く。

椎名:何か泰蔵が仕掛けてくるならここかな? 頭を振って何とか気をしっかり保とうと努力して、改めて座りなおす。

GM:何のために座りなおすの?

椎名:見栄(笑)。

GM:ところがどっこい、新しい番士三人は君を助けようとかそういう素振りは見せない。

椎名:あらら、ちょっとがっかりしたのを表情に出さないように努力。

GM:そんなこんなで夜が更ける。処刑のときが着々と近付いてきている。

椎名:さすがに段々焦れてくるかな? だけど信じて待つ。

GM:今さら誰を信じるか(笑)。

椎名:他に手が無いし。藁にもすがる思いで(笑)。

GM:死ぬことを恐れ始めたか(笑)。

椎名:ちょっとね(笑)。

GM:では助けてあげよう。夜も更けに更けた丑三つ時。藤堂家の前の往来に一人の男が現れる。

椎名:お?

GM:で、担いでいた何か――死体のようだ――をうつ伏せに寝かす。

椎名:泰蔵?

GM:覆面はしているがほぼ間違いないだろう。

椎名:「泰蔵、来てくれたか」

泰蔵:(無言で刀を抜く)

椎名:は?

GM:泰蔵はおもむろに切りかかってくる。

椎名:それは……避けようともがくけど、体が動かんやろうなぁ。

GM:衰弱してるし、縛られてるしね。てことで、斬られてくれい。

椎名:(驚きのあまり声も出ない)

GM:泰蔵は刀身を月明かりに照らすと、君の血が十分ついているのを確認して足元の死体に握らせる。

椎名:それを黙って見守って……あれ? 番士は?

GM:ふと番士のほうを振り向いた君の目の前で、番士の一人が残り二人に口を抑えられ、声も出せずに刺し殺される。

椎名:三人のうち二人は泰蔵の手のものだったということか。

GM:そうだけど……それだけ?

椎名:何が?

GM:いや、別に。――男二人は男をゆっくり地面に下ろした後、君の戒めを解いてくれる。

椎名:回転の鈍ってる今の頭でも、いい加減何が起こってるか理解したと思う。

泰蔵:(覆面をはずしながら)「待ちました?」

椎名:「いや……(ゆるゆると立ち上がりながら)もう少し遅くてもよかったぞ」

泰蔵:「言うわ、この男(笑)。まあ、忍びの神通力がこれ以上遅くなったらなくなっちゃいますからね。傷、痛いですか?」

椎名:「痛いなどといっている場合ではなかろう?」

泰蔵:「侍ってのはどうしてこうまで気取るんですかね。痛けりゃ痛いでいいじゃないですか(笑)」

椎名:「性分なんだからしょうがない。それよりいいのか? のんびりお喋りなんかしていて」

泰蔵:「少しくらい大丈夫でしょう。とりあえず椎名さま、伏見の林豪さまの屋敷は分かりますね?」

椎名:「ああ」

泰蔵:「そこまで走ってください」

椎名:「走るのか」

泰蔵:「歩きますか?」

椎名:「走るよ。走ればいいんだろ、走れば」

泰蔵:「はい。ではまた明日にでも、お会いしましょう」

椎名:「わかった」(手を振って応えて走り出す)。

泰蔵:(椎名の背中を見送って)「……行ったか」

手下1:「そのようですね」

手下2:「しかし。礼の一つも言わんとはなぁ」

泰蔵:「人間性の問題だからな。今さら言っても始まらんだろう」

手下2:(足元を見ながら)「この番士には悪いことをしたな」

手下1:「あの男(椎名)は全く気にかけてない風でしたけどね」

泰蔵:「所詮自分のことしか考えられん男よ。まあ、閻魔帳の人数に変動がなくなったわけだし、いいんじゃないのか」

手下1:「そうですね」

泰蔵:「では予定通り、一人芝居を始めるとするか」(刀を抜く)

手下1:「分かりました」(刀を抜く)

泰蔵:(息を大きく吸って)「殿!! 今さら逃げたところで何にもなりませぬぞ!」

 手下1と二・三度刀を合わせて
 

泰蔵:(小声で)「よし、行け!」

手下1・2:「はっ!」(走り去る)

泰蔵:(懐から呼笛を取り出し)「ピイィ〜〜〜〜〜ッ!」
 

   「曲者だーッ出合え、出合えーッ!!」
 

 そこらへんを走り回ってみる。

 屋敷うちから足音が聞こえてくるのを見計らって、
 

泰蔵:「止まってください! 殿!! 止まらないのであれば私は殿を斬らなければなりません!!」
 

 背後の足音が門に近付くのを待って、
 

泰蔵:「殿ッ!(死体を斬る)………はっ、と……殿!」
 

 足音が完全に門から出たのを確認して、運んできた影武者・鏡の死体に駆け寄る。
 

泰蔵:(死体を抱き上げながら涙声で)「殿ッ! あぁ、俺はこの手で殿を………………」

一同:………………。

GM:というワケだったんだけど………………感動の言葉も、再会の喜びも、なし……?

一同(椎名以外):……ちっ(舌打ち)