Brand-new Heaven #2

僕とアイツと彼女の話
「ありがとーございましたー」

 ガアアア……

店員の声を背に、僕は時計屋を出た。

 ガサ

手には時計の入ったかわいらしい袋。
 
 

結局あの日、僕は母さんを問いつめた(笑)

母さんはあっさり白状し
 

「これでおかえし買ってあげて」
 

と言って5000円札を僕に渡した。

二葉が実の娘のようにかわいい、のだ。

まあ……僕がひとりっこだってのもあるのだろう。

 一真という名前からするともう2、3人子供が欲しかったのかもしれないが……
 

「あんまり安いの買っちゃダメよ」

「そう思うなら……一ヶ月はやくもらいたかったよ」

「ほら……母さん新しい行事とかにうといから、ホワイトデーとか知らなくて」
 

 うそつけっての……
 
 

とにかくそういうワケで、僕は二葉に時計を買った。

細くて文字盤が小さい……女性用のヤツだ。皮肉をこめて(笑)

値段は4800円(税抜き)。

母親の言いつけをきっちり守る、イイコなのである。
 

 はやく持っていってやったほうがいいよな……
 

時計を見ると、午後8時を過ぎていた。


二葉の家は、僕んちよりもう少し坂の上にある。
 

二葉は……幼なじみと言っていいのだろうか。

家はそこまで近くはないが、幼稚園は一緒だった。

その後彼女は小中高一貫の有名私立女子校にいき……(だからそのころはほとんど交流がなかった)

彼女が少し勉強をサボったのと僕が少し勉強をがんばったせいで、高校は同じところに通うことになったのだ。

女子校でなにかあったというウワサも聞いたりしたが、本人にきちんと聞いてみたことはない。

 ザ ザ ザ……

なんてことを考えてるうちに二葉の家に着いた。

ちょっとシャレた、でもそこまで大きくない一戸建て。
 

 ピンポーン……

どたどたどた

 ガチャリ

しばらくして二葉よりも明るい茶色頭(染めてる)の男が顔を出す。

二葉の(Gショックを奪われた)兄貴、三郎さんだ。

ここの親父さんが変わった人で「絶対子供は3人!」と豪語し、その決意をこめて長男に三郎と名づけた。サブちゃんファンだし

んで、長女にして二人目が二葉となり、3人目が一子(イチコ)……になろうとしたのをおばさんが必死に阻止し、唯という名におちついた。
 

「サブローさん、こんばんわ」

「おうカズやんか。唯か?」

「二葉の方っす」

「そか、ちょっと待ってろ」
 

バタン

どたどた

「おーい二葉ぁ、カズやん来てんぞー!」
「はーい」


           ばたばたばた

がちゃん
 

「うす、どしたの? なんかヨージ?」
 

 ほほう……
 

「なるほど、こいつはいらないとみえる」
 

ひらひらと目の前で時計の入った袋を振ってみせる。
 

「あ! それってひょっとして……」

「おうよ。俺は約束は守る男だからな」

「カズちゃんエライ! ベビーG?」

「いや、でも時計だぞ。……金出したのは母さんだけどな」
 

 がさがさがさ

 人の話なんか聞いちゃいねー……
 

「あ、かわいー! おばさまが選んだの?」

「残念、俺です」

「そっかー、カズマはこういうのが趣味か……」

「あのなあ」

「あ、そーじゃなくて、こういうのを女の子にはめてほしいのかなって」

「んー、まーな」
 

 もちょっと女の子らしくしろってことだぞ。分かってんのか?
 

「でもあたしこーゆーのに合う服持ってたかなぁ……」

「制服ならOKなんじゃないか?」

「でもころんだら壊れそうだよね、これ。自転車でこけたらヤバイかも」
 

 なぜそういう方向に話がいくか……
 

「だったら唯ちゃんにでもあげろよ」

「ヤダ!」
 

即答した。

で、さっそく腕にはめたりなんかしてる。
 

「を、Gジャンにもなかなか合うじゃない」

「で、お前……」

「カズちゃんありがとー! すっごくウレシイ」
 

 僕は「お礼の言葉は?」という言葉をあわてて飲みこんだ。
 

「お、おう。……それから母さんが来年もヨロシクってさ」

「……う、分かった」
 

うなずくと、二葉はぴょんと門の外に出てきた。
 

「どした?」

「気分いいから散歩でもしよーと思って」

「だったら家の人にちゃんと言ってこいよ」

「あ、そか」

ぱたぱた がちゃっ

時計の入ってた箱やら袋やらを玄関に放りながら、
 
 

「ちょっと外でてくるー」

              ぱたぱたぱた

「おまたせ」

「おう」
 

 ……って、僕も行くのか? 散歩。
 

「幼稚園にでもいく? 夜桜きれいだよ」

「またこっそり入ってこっそり酒盛りかよ」

「まあ!  あたしを酔わせてどうする気?」

「飲むのはお前だけだろ……。桜も外から見るだけ」

「えぇ〜」
 

なんてアホな話をしながら、ゆるやかな坂道をくだっていく。

歩道にせりだした桜が、白い花びらを散らす。
 

ひらひら

ひらひら
ひらひら

 

「あ、よく考えたらサイフ持ってきてないや。ビール飲めない」

「あほ」
 

幼稚園まであとすこし。
 

 春は桜。

 かくも平穏な僕の日々……

<つづく>


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