Brand-new Heaven #1

僕とアイツと彼女の話

 いつもとかわらない朝……

ジリリリリリリリ……リン


高校2年の春。

新学期になったからといって何か特別なことがあるワケでもなく。

変わったことといえば受験が一年近づいたのと高校の後輩ができたことぐらいだろうけど、
あいにく僕には今のところどちらも関係ない。   帰宅部だし

 いつもと変わらない朝。いつもどーり学校にいく準備をして、僕はバス亭に向かう。
 

バタバタバタ……ガチャ……ぎぃぃぃばたん


僕んちから学校まではバスで15分ぐらいだ。

だから自転車で通えない距離ではない。現に……
 

「カズマー! おっはよー!」
 

一台のマウンテンバイクが近づいてくる。
 

キコキコ


 乗ってるのはジョシコーセー。短いスカートをはためかせ、キコキコと。

キコキコ

そして僕の前……つまりバス亭の真ん前で急ブレーキを踏む。

 きぃぃぃ――ざしゃしゃしゃあ……!
 
 
「あいかわらず元気だな……」

「まーねー」
 

周りの人の視線を気にしながら僕は彼女の方をちらっと見た。

肩より少し短いぐらいの栗色の髪(うまれつき)

くりくりした目。

少し日に焼けた肌。
 

 奥居二葉。
 

それが彼女の名前だ。

 

「お前そこジャマだぞ、はやくどけよ」

「ダイジョーブ、あと1分あるし」
 

腕時計を見ながら平然と言う。

ちなみにGショック。

今どきGショックも古い気がするが、こないだ彼女にそう言ったら「そういって兄貴から奪った」らしい。
 

「はやく来るかもしれないだろ」

「2分遅れてくるってば。毎日乗ってるのに知らないの?」

「……知ってるよ」
 

 お前の声がデカイから恥ずかしいんだ! とは言えない自分がうらめしい。
 

「あ、そだ、あのねカズちゃん」

「話が長引くなら後で聞く。それからカズちゃんって言うな」

「あー、ほんじゃ、ガッコーでね」

「ん、はやく行け」

「あーい、ほんじゃーねー!」
 

グンとペダルを漕ぎ出すと、二葉はあっという間に坂の下に見えなくなった。

ふう、と息をつきカバンを持ち直す。
 

 毎度のことながら恥ずかしいヤツ……
 

僕は坂を下ってくるバスに目をやった。

4月。

近くの幼稚園の桜が、青い空にとても映える。
 

     ひらひら

ひらひら


「ん」
 

気を取りなおし、バスに乗りこむ。

ブロロロロ……


僕の高校はちょっとした坂の上にある。

1時間目の授業(金曜だから数学)が終わり、その休み時間のこと。
 

「カズマー! カズマカズマカズマー!」
 

となりのクラスから二葉が走ってくる。

バタバタバタ
バタバタバタ
バタバタバタ

 名前を呼ぶのは一度でいい。
 いや、呼ばなくても僕は逃げたりしない……と何度言っても聞きやしないし。

んで、二葉は僕の机にばーんと手をつくと、笑顔で言った。
 

「ホワイトデー!」
 

 ……は?
 

「ねぼけてんのか? 今日は4月14日だぞ?」

「そーよぉ、ホワイトデーからもう一カ月過ぎてんの」
 

二葉の表情が険しくなる。
 

「なのになんで何もくれないワケー? チョコあげたでしょー?」

「もらってねーよ」

「あげた!」

「もらってねー!」

「あげたもん!」

「もらったのは去年だ!」
 

一瞬、ほえ? って顔になる二葉。
 

「渡したよ……おばさまに」

「母さんに……?」
 

 この……バカ……
 

「お前、母さんがスッゲー甘党なの知ってるだろ……?」

「あ……」
 

 しばし、みつめあう。
 

「おばさまが食べちゃった、ってこと?」

「たぶん、な……」
 

 まあ……今年にかぎってもらえなかったからおかしいとは思ってたのだが……
 

「う〜……」
 

二葉は下唇を噛んでいたかと思うと……ぱっと明るい表情になった。
 

 ……イヤな予感がする……
 

「ま、いいや。てことでおかえしヨロシク!」
 

 ……やっぱりか
 

「あたしベビーGとかほしいなー」

「高けぇよ。だいたい今どきベビーGか?」

「なら別のでもいい。時計がいいな」

「そーゆーことは母さんに言ってくれ」

「じゃ、おばさまに言っといて」

「お前な……」
 


キーンコーン……

そのとき、予鈴が鳴った。授業が始まる。
 

「ゼッタイ、だからね」
 

念をおしてから、二葉は教室を出ていった。

バタバタバタ

バタバタバタ

がららっ

と思ったら窓から顔を出し
 

「ゼッタイ、だよー」
 

そして今度こそ自分の教室に帰っていく。
 

「あー…………何もなかったことにしよ……」
 

ゴン、と僕は机に頭をつっぷした。
 
 

 こうして、僕の一日は何事もなく終わっていく……

<つづく>

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