ACT15.0[やわらかなきずあと] 03


 フウゲツが寮にたどり着いたのは、まさにシアとカーキが寮から出ていこうとしているときだった。
 

カーキ:「あ、フウゲツさん」

フウゲツ:「話は……聞いたか」

カーキ:「ええ。……やっぱ、マジなんスね」

フウゲツ:「ああ」

ユリア:あ、フウゲツは殴られないんだ(笑)。

カーキ:一発殴ってやりたい気はするが。

フウゲツ:殴るのは後にしろ。今はやるべきことがある。

カーキ:「オレはシアをスノウんとこに送っていきます。フウゲツさんは砦にいってください。シュリがいるはずだから」

フウゲツ:「分かった」

 『月の民』エリア ミフネの道場──

ユリア:どういう状況なのかというと……アインが大怪我をしたのにその看病をさせてもらえず、仕方がないので別室で仮眠を取っている、のれす。

ヴァイス:そうだったんだ。そこへ、僕が来たわけだね。

ミフネ:「こんな時間に訪問とは、何とも非常識だな、ヴァイス殿」

ヴァイス:「非常識なのは分かってますが、非常事態なんです。ユリアを呼んでください」

ミフネ:「ほほう……。今のは非常識と非常事態をかけたシャレだな?」

ユリア:(ミフネの関節を取りながら)「そんなワケないじゃないれすか。──どうしたんれす、ヴァイス」

ヴァイス:「ユリア……信じられないと思うけど、スノウが殺された」

ユリア:(一瞬アホ面をして)「……えーと、言ってる意味がよく分からないのれすが。どうしてスノウたんが死んでしまったのれすか?」

ヴァイス:「ごめん、それは僕にも分からない。僕が見つけたときにはもう、殺されてたから」

ユリア:「殺されたのは、確かなんれすね……」
 

 刹那。

 ヴァイスの視界がぐるりと回転した。いつの間にか、ユリアの拳が目の前にある。
 

ヴァイス:「………………」

ユリア:「………………」
 

 ……自分だって、大切な人を守れなかったではないか。
 

ユリア:「ユリアもヴァイスと一緒れす。(拳を引いて)──さあ、いくのれす」

 自警団の砦──

GM:ではちょっと時間を経過させて……今ここにいるのは、ヴァイス・フウゲツ・シュリ・ユリア・エミリー(レイチェル以外のPC)か。寮じゃなくて砦に集まるのって久しぶりな気が。

フウゲツ:個人的にはエミリーに聞きたいことがあるのだが……まずは事件の経過を話そう。ヴァイスから聞いたとは思うが。

ヴァイス:でも、話してもらった方がいいだろうね。

フウゲツ:「かくかくしかじかというワケなんだが……誰か、タンの居場所に心辺りがあるものはいないか?」

ヴァイス:「一番最後に会ったの、フウゲツさんなんじゃ?」

フウゲツ:「あ、そうか……。だがその後ヤツはスノウを連れ出してるから……ダメだ、今どこにいるのかはさっぱりだ」

シュリ:「話の腰を折って悪いんだけど……誰かレイチェルを呼んできてくれないかな。聞いておきたいことがあるんだけど」

エミリー:「そうすると『魔王の森』へいく必要があるわね」

シュリ:「じゃあ……ユリア、いってくれる? 事情が事情だから、サデルじいさんもいかないとは言わないでしょう」

ユリア:「分かったれす」

シュリ:「フウゲツとエミリーは、ちょっとここに残って話をしてて。ヴァイスはタンを探して。あたしは、ちょっと用事を思いついたから病院にいってくる」

 砦には、フウゲツとエミリーが残された。
 

エミリー:「で、話って何よ」

フウゲツ:「元はと言えば……お前が俺を呼びにきたことが発端だ。本当に、覚えてないのか?」

GM:覚えてないね。その間の記憶がすっぽり抜け落ちている。

フウゲツ:「では、記憶が飛ぶ寸前、何をしていた? 変わったことはなかったか? 何かに取り憑かれるとか、催眠術にかけられるとか、お札を貼られるとか」

ユリア:袖の下とかね。

シュリ:お金で殺害に加担というのが、妙に説得力があってイヤね(笑)。

エミリー:(記憶をたどって)「夕飯の片付けをしてたぐらいかしら。残念ながら、特に変わったことはなかったわよ?」

ユリア:……残念ながら?

GM:洗い場で皿を洗っていたはずなのに、気がついたらフウゲツと教会の中にいた、と。それだけだね。

フウゲツ:そうか……。──GM、こういうあからさまな殺人事件は初めて?

GM:うん。いろいろ事件は起きてるけど、れっきとした殺人事件は初めてだろう。

フウゲツ:よし、ならばこの事件に全力投入だ!

GM:そうでなくても全力投入、でしょ?

フウゲツ:当然!

シュリ:え、犯人の目星がついたから全力投入じゃないの?

ユリア:手掛かりがなかったらだらだらとして迷宮入りを待つ、と。

フウゲツ:迷宮入りなんかにさせるものかー! ……だがここはじっとこらえて、シュリとレイチェルが来るのを待とう。

エミリー:そうね。

 『魔王の森』──

GM:ユリアとサデルじいさんは、『古の民』の集落へと向かっている。──ではユリア、ここで判定。食べ物に関することに気づくかどうか。

ユリア:『食べ物に目がない』というマイナス修正は、この場合プラスになるわけれすよね? そうすると……(コロコロ)失敗れす。

GM:(コロコロ)サデルは気づいたな。(プレイヤーGに)何か落ちててほしいんだけど、何がいい?

プレイヤーG:では、キャベツの葉っぱ1枚で。

サデル:「ユリア、何か落ちとるぞ」

ユリア:「ああ、それはキャベツれすね」

サデル:「キャベツ……じゃな。なぜこんなところにキャベツが?」

ユリア:「それはアレれすよ、誰かが食糧庫から盗んで、ここで食べたのれす」

サデル:「あー、なるほどのう」

GM:ではここでユリア、気配察知。

ユリア:(コロコロ)05で成功。惜しくもクリティカルではないれす。

GM:では……かさかさっと、背後で何かが動く気配がした。

ユリア:そっちを見よう。
 

 茂みの奥に立っていたのは……ひょろりと背の高い痩せた──顔も長い──ほっかむりをした──鍬をかついで籠を背負った──(おそらく)人間の(おそらく)女性だった。
 

ユリア:見なかったことにしよう。

GM:こらこら。

プレイヤーG:もちろん、背中の籠にはキャベツが入っているぞ。

ユリア:「あの……落としましたよ」

農夫っぽい女性:「今年のキャベツはあまり出来がよくないねぇ……」──ブツブツ言いながら、森の奥へ消えていく。

一同:消えていくのか!

ここにいないヴァイス:……何だったんだ?

プレイヤーG:──というだけの役です。

レイチェル:それはないだろう(笑)。

ユリア:「………………。先を急ぎましょう、おじいさん。むしゃむしゃ」

サデル:「せめて洗ってから食った方がよいぞ。ぐびぐび」

ユリア:「お酒で消毒したから大丈夫れす。むしゃむしゃ」

サデル:「そうか。ぐびぐび」

エミリー:……飲むなよ。

GM:(コロコロ)大丈夫、珍しく判定に成功したから。『古の民』の集落に到着したよ。

 『古の民』の集落──

レイチェル:「ユリア」

ユリア:「ロボさん大変なのれす、事件なのれす、すぐ来てほしいのれす、人死に(ひとじに)が出てしまったのれす」

レイチェル:「どういうこと」

ユリア:「スノウたんが死んでしまったんれす」

レイチェル:「──いこう」

ユリア:全てはあの緑色の──

ここにいないヴァイス:僕のせいか! ……まあ、否定はできないけど。

レイチェル:『長』に一言断って、何と言われようとユリアを抱えて街の方へ向かう。

GM:む、了解した。



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