ヴァイス:へ?
シュリ:本来話を進めるべき人が話を進めないから、話が脱線していくんでしょー。
ヴァイス:とは言っても、話を進めようとすると横槍が入って──
ユリア:(ビシッとヴァイスを指差して)てゆーか貴様何者!
へなへなと崩れ落ちるGMとヴァイス。
プレイヤーB:そろそろ、ちゃんと話進めようよ。
ヴァイス:そうだね……。「今日は通し練習をしますけど、台本はちゃんと覚えてきましたか?」
子供(プレイヤーB):「はーい!」
子供(シュリ):(低ーい声で)「はーい」
レイチェル:……どんな子供?
子供(GM):「とーしれんしゅーってなんですかー?」
子供(シュリ):「知ってる知ってるー! (じーっとヴァイスを見て)パンツの色緑ぃー!」
子供(プレイヤーB):「みどりー? 趣味わるーい!」
子供(シュリ):「──っていう練習でしょー?」
子供(GM):「なるほどー、透視する練習かぁ」
ヴァイス:「ちがーうッ!」
子供(GM):「ダメじゃんヴァイス兄ちゃん」
子供(シュリ):「目の前に与えられた質問の答えも出せないんだからねー」
子供(プレイヤーB):「まーったく、アレで人にものを教えようなんて……」
子供(シュリ):「知ってる? この街ってあの人が守ってるんだよ? リーダーなんだって」
子供(プレイヤーB):「ウソー、不安だねー」
ヴァイス:「……帰ろうかな」
ちょっとした沈黙のあと、
子供(レイチェル):「かえれかえれー!」
シュリ:……それは言っていいものかどうかちょっと迷ったのに(笑)。
プレイヤーB:うんうん。
GM:……で、帰るの?
ヴァイス:帰らないよ。一応、頼まれた仕事だし。
子供(シュリ):仕事だからやってんだ。
子供(プレイヤーB):あーあ、どーりでやる気がないと思ったー。
ヴァイス:う……。
子供(レイチェル):「で、とーしれんしゅうってなんですか?」
ヴァイス:「それは劇の一連の流れを──って言ったら、またそこで分からなくなるんだよなぁ……」
子供(シュリ):「……最初から最後までって言えばいいじゃん」
ヴァイス:「く……。……通し練習というのは、劇の最初から最後まで通して──」
シュリ:(話を遮って)本番っていつ?
GM:実はこの劇は収穫祭の出し物なのだ。収穫祭は前夜祭(9月19日)、本祭(9月20日)、後夜祭(9月21日)の3日間で、劇は本祭でやる。
レイチェル:あと4日。
子供(シュリ):「さ、やろーぜー」
ヴァイス:「………………」
GM:『螺旋の王』という話は、簡単に言うと「螺旋の王が螺旋の姫を助けるために混沌の魔王と対決する」っていうものだ。じゃあ、ボッツが螺旋の王を、ヤオが螺旋の姫をやることにして……本当は魔王をエミリーがやるはずだったんだけど──
レイチェル:ナイス。
GM:いないから、ヴァイスにやってもらおう。
ヴァイス:分かりました、やりますやります。
ということで、劇の練習が始まった。物語は進み、クライマックスである螺旋の王と混沌の魔王の対決シーンとなる。
ボッツ(螺旋の王):「とうとうみつけたぞこんとんのまおう! らせんのひめはかえしてもらうぞ!」
ヴァイス:「……で、僕が返さないといけないのか」
ボッツ:「もー何やってんだよヴァイス兄ちゃん。もう一回いくよ? とうとうみつけたぞこんとんのまおう! らせんのひめはかえしてもらうぞ!」
ヴァイス(混沌の魔王):「とうとうここまで来たか螺旋の王よ。私を倒さねば姫は取り戻せぬぞ」(棒読み)
レイチェル:もうちょっと偉そうなことを言おう。
ヴァイス:だってアドリブでそんなにうまくいくはずないじゃん!(←プレイヤーに劇の台本を渡してるワケではなくてアドリブでやってもらってる)
プレイヤーB:これ(シュリのプレイヤー)がうまいよ、きっと。……時代劇の悪代官風になるのが玉にキズだけど。
シュリ(のプレイヤー):やっていいならやるよ? (声の調子を変えて)「ふはは、こわっぱめが、こんなところに来たぐらいで調子にノリよって! わしを倒そうなど100年早いわ!」
プレイヤーB:……やっぱり時代劇。
レイチェル:「こわっぱ」のせいだ(笑)。
そのとき──どこからともなく声がした。
???(プレイヤーB):「ハーッハッハッ! こわっぱめが、こんなところに来たぐらいで調子にノリよってからに! わしを倒そうなど100年早いわぁ!」
GM:見上げると、舞台の上の方から黒いマントをはためかせた仮面の男(?)が、ヴァイスたちの前に降り立つよ。混沌の魔王の衣装をまとっているようだ。
ヴァイス:あからさまに怪しいの?
GM:怪しいよ。子供たちに向かって剣(劇用のハリボテ)を突き付ける。
ヴァイス:それは割って入って──
レイチェル:その前に私が飛び蹴りを食らわせます(コロコロとサイコロを振る)。
黒マント(プレイヤーB):こちらも判定を……(コロコロ)……失敗。
レイチェルの飛び蹴りは、見事に黒マントにヒットした。
黒マント:(蹴り飛ばされて)「あいたたたたた……。何てことするんですか、劇ですよ、劇。ホントに蹴ったらいけないじゃあないですか」
レイチェル:「む。だが台本にないことだ」
黒マント:(のそのそと起き上がり、ヴァイスに向かって人差し指を振る)「ふふふ、魔王役、なってませんよ?」
ヴァイス:「付け焼き刃だしねー──って、いきなり乱入してきたヤツに言われたくないぞー!」
レイチェル:私は……慌ててます(笑)。
黒マント:(マントと仮面を取って)「もう俺のこと忘れましたか、ヴァイス君」
ヴァイス:知ってる人?
GM:知らない人(笑)。
ヴァイス:……誰?
スノウ:「ひょっとして……フウゲツさん?」
黒マントを取った男(フウゲツ):「5年ぶり、スノウ君。大きくなったねー」
20代前半ぐらいの、月の民の男だった。長めの髪は、月の民にしてはちょっと茶色い。腰には日本刀を帯びている。──男はかなり整ったその顔を、笑みの形にした。ひとなつっこい笑顔だ。
レイチェル:私は知っているのか?
GM:んー、ちらっと見たことぐらいはあるかも。フウゲツは6年前〜5年前にかけてこの街にいたんだけど、あまり出歩かなかったから。
フウゲツ:「いやー、あまりに劇が楽しそうだったらから、ついつい乱入してしまいました」
ヴァイス:「スノウの……知り合い……?」
スノウ:「知り合い、というか……(ごにょごにょ)」
レイチェル:「あの……ごめんなさい」
フウゲツ:(でっかいコブをさすって)「だいじょぶ、だいじょぶ、あんまり平気じゃないけど、だいじょぶ」
ヴァイス:「えーっと……で……誰……?」
スノウ:「んと……こちら、ミナモト=フウゲツさん」
フウゲツ:「フウゲツです。5年ぐらい前、ちょっとこの街で……というか、オルドレースの家でお世話になってました」
ヴァイス:てことは……僕が魔術士団の一員として帝都で修行してた頃か。……やっぱり、面識はないね。
スノウ:「あの……どうしてここに?」
フウゲツ:「この街が懐かしくなってしまいまして」
ニコニコと笑うフウゲツ。その目の奥にある冷たい光に──このとき気づいた者はいなかった。