サリース:そっちの方にはたくさんあるけど、あっちの方には覚えはない。
リューセ:あっち?
サリース:これって、『ネフィリム』の子でしょ? 話の流れからすると。
エノク:「『ネフィリム』の村にあった研究所……アレは、封印魔法を用いた受胎法を研究するところでした」
サリース:「らしいですね」
エノク:「受精卵を子宮内に封印しておくことで、いつでもどこでも、好きなときに妊娠することができるのです」
ゼナ:封印魔法に時間制限をつけておけば、しばらくしてから自動的に、ってこともできる?
GM:できるだろうね。例えば、好きな人の子供を2年後とか3年後とかに生むことができる。
サリース:「で、あたしにもその封印がされてたってことね?」
エノク:「そのようです」
サリース:「そんな覚え……ないんだけどな……」
……ホントに?
『──では始めよう──』
記憶の一部。混乱してるとこ。全部、盗賊ギルドでのことだと思ってたこと。
「今日からあなたの兄弟たちと戦闘の訓練ですよ」
これは、盗賊ギルドじゃない。これは……Gシリーズたちとの会話。
『──では始めよう──』
これはなに?
おなかを蹴られた。病院に運び込まれて……子供産めなくなってて……ううん、もっと、その前。
『──では始めよう──』
その言葉とともに近づいてくる赤い仮面。……ヒュプノス。
子宮に封印されるということは、妊娠できないということ。
つまり、この子供は、何年も前にヒュプノスが───
サリース:「──んせい」
エノク:「はい?」
サリース:「先生、この子、堕ろせますか?」
エノク:(沈黙の後、ほうぅ、と息をついて)「……『クラヴィーケップス』の正体って、知ってますか?」
サリース:「いいえ」
エノク:「『クラヴィーケップス(棍棒頭)』は『堕ちた巨人』──……正常に成長できず、異常な細胞活性化の末に暴走した『ネフィリム』です。母体が、『ネフィリム』の力に耐え切れなかったのでしょうね。……トールの悲劇はそうして起きました」
サリース:「………………」
エノク:「でも、Gシリーズのあなたなら、ちゃんとした『ネフィリム』の子供を産めるかもしれない」
サリース:「ちょっ、なんで先生がそのこと知ってるんですか?」
エノク:「え? ガンバちゃんに聞いたんですよ」
一同大笑い。
ガンバ:ちゃんとバッチリしっかり話しておいただわさ。……G−7がガルフで、G−0がグレンだよね?
GM:そしてG−13がグレイウッド。サリース=グレイウッド。
サリース:あ、そか……。
ゼナ:ゴキブリも玄関も。
マフィ:そして『ごまとコーンのこうばしコーン』も!
ガンバ:ウィルもGがつくんだよね。ウィリアム=ゲイツ=ブルーノア。
GM:で……どうするの?
サリース:でも……ちゃんと産まれてくるか分かんないし……。暴走する可能性だって……。
マフィ:『そんなの産んでみないと分かんないって。ちゃんと産まれたら御の字ぐらいの気持ちでやってみたらどうだ?』と、ゴーヴァが言ってるよ。
ゴーヴァ:(もう否定する元気もない)
ゼナ:ゴウ、話せるようになったんだね! でもそんな性格だったとは思わなかったよ。
GM:……ちゅーかお前らここにいないだろ。
エノク:「それでも……心は変わりませんか?」
サリース:「そこまで言うなら……もう少し、考えてみます」
トパーズ:うーんとね……ゼナリルルがいい雰囲気のとこにカメラ仕掛けてる。
シェオール:は?
トパーズ:ついつい育った環境のクセで。
一同:それはリューセだろー!
マフィ:トパーズもそういう環境で育ったんだ〜。ふ〜ん……。
トパーズ:……マフィもね。
マフィ:一緒にしないで。
シェオール:ブツブツ文句を言っておこう。──ったく、回復魔法でファンブルばっかり振りやがって。
トパーズ:なによ。あんだけ補助魔法かけてもらっておいて、攻撃はずすあなたが悪いんでしょー?
マフィ:てゆーかあのファンブルワザとだしィ〜。
シェオール:いったい何度死にかけたと思ってるんだ。
マフィ:『シェオール、お前、自分が思ってるほど強くないぞ』とゴーヴァの目を点滅させる。
ゴーヴァ:ああッッ! ついに内側から目の点滅を操る方法をッ! それじゃホントにおれが話してるみたいじゃないか〜!
マフィ:『アイオーン』仲間割れの危機。
GM:やめろって(笑)。
トパーズ:(気を取り直して)「──で、あなたこれからどうするつもりなの? 何に頼って生きていくの?」
シェオール:い、いきなりそんなこと言われてもな……。
トパーズ:ここであたしが急に「うう、気分が……」って言ったらどーなるかな? すっぱいモノがほしい〜!
オードー:……おめえさんら、そういうカンケイだっただか……?
ゴーヴァ:(小声でささやくように)アナタの子よ……。
ビッケ:でもそれだと『十六夜』が使えないんじゃないか?
GM:確かに。処女性の消失で、巫女じゃなくなるからね。
マフィ:ダイジョーブじゃない? ラズリも『十六夜』使えたし。
トパーズ:え!?(驚)
GM:そんな裏設定があったのか。
トパーズ:ないない〜! ──で? これからどうするの?
シェオール:「ゲオルグにトドメを刺す」
トパーズ:「その後よ、その後。それに、トドメ刺しにいくなら止めるよ?」
シェオール(のプレイヤー):どうしたいんだろうな、こいつ。よく分からん。
GM:自分で決めていいよ。
マフィ:君のキャラだよ。例え他所様から与えられたキャラだとしてもね。……そうしないと、君、キャラ立てられないでしょ? 埋没してるもん、君のキャラは。
トパーズ:あなたみたいに暴走するのもどうかと思うけどね。
GM:で、どうするんだ? 「これからは愛に生きる」とでも言ってみろ!
シェオール:絶対ないな、それは……(苦笑)。
ガンバ:そうかな? ゼナツーとかどうだわさ?
シェオール:俺にそういう趣味はない!
GM:ダメだよプレイヤーとシンク(以下プライバシー保護のため削除)
ゴーヴァ:「やあシスコンのシェオール」「ん、誰か呼んだか? 妹が大好きな俺を呼んだか?」なんて素敵な会話が。
シェオール:あるかァァ〜い!
トパーズ:「で、マジメな話、どうするの?」
シェオール:「先のことなんか知るか」
ガンバ:コイジィ・ニールを再建するというのはどうかな? 長女次女三女、どれを選ぶ?
アルバス(のプレイヤー):それは許さん! 今回は、父として許さん!!
GM:親父と戦って、勝てないと娘はもらえない(笑)。
シェオール:勝てるワケない。
トパーズ:「これからどうするのか、ちゃんと考えておいた方がいいよ。復讐とか、そーゆーんじゃないことで」
シェオール:「………………」
俺からこの『憎しみ』を取って、一体何が残るというのか……
マフィ:そういう自分は、どうするか考えてるの?
トパーズ:考えてるよ。あたしは、ラズリおねーちゃんに「ごめんなさい」を言わないといけないの。
マフィ:そんな個人的な用事で北の大陸から付き合わせないでほし〜な〜。
トパーズ:あたしがあなたの保護者なの!
オードー:マフィ、どんどん性格悪くなってるだ。
マフィ:きっと少しずつ昔の記憶が戻ってきてるんだね。
ガンバ:つまりマフィはもともと性格が悪かったってことだわさ。
GM:(そんなはずじゃなかったのになァ……)
シェオール:(ぽつりと)「これから先……か」
トパーズ:「ちゃんと考えるのよ。どうしても思いつかないときは、あたしが面倒みてあげるから……ね?」
机の上の封印球を弄びながら、ゼナはぼんやりしていた。
ゼナ:(どうしよう……。封印解いても、すぐに仲直りとかできないよね……)
弱く、ドアがたたかれる音。
ゼナ:「リルル?」
ドアを開けると、予想通りリルルが立っていた。顔色が少し悪いが、大丈夫そうだ。
リルル:「入って、いい?」
ゼナ:「もちろん」
床に転がったモノを踏まないようにしながら部屋に入るリルル。彼女はベッドに腰掛けると、机の上の封印球に目をやった。
リルル:「ゼナは明日、いくんでしょ?」
ゼナ:「もちろん」
リルル:「……もう、お父さんとはお話しした?」
ゼナ:「まだだよ。……なんか、勇気出なくて」
リルル:「せっかくのチャンスなんだから、話しといた方がいいよ。気持ち、伝えておいた方がいいよ」
リルルはそっと立ち上がり、封印球に手を触れた。
リルル:「明日は、どうなるか分からないんだから……。死んじゃうかも、しれないんだから……」
ゼナの方を向いたリルルの瞳には、意外にも涙はなかった。そっとゼナの右手に触れながら、彼女は言った。
リルル:「ゼナの身体……治ってほしい。そして、あたしの傍にずっといてほしい……」
握る手に、力がこもる。
リルル:「…………あたし、死にたくない……」
ゼナ:「………………」
リルル:「死にたくない。自分のことばっかりでゴメンね。でも……死にたくないよ。ずっと、生きていたい……」
限界だった。彼女の瞳に、涙が一気にあふれてくる。
ゼナ:「リルル……」
よろこびとかなしみで、胸がつまる。頭の奥がじんじんとしびれていく。
自分の強い強い気持ちを、彼女にぶつける。
ゼナ:「死なないよ。リルルは……ボクが死なせない」
リルル:「ゼナ……」
リルルはゼナに抱きつくと──唇を重ねた。
咳をして血を少し吐き、それでも構わずもう一度唇を重ねる。
柔らかくて、熱く火照った唇。
初めてのキスは涙の味がして……
二度目のキスは血の味がした……