塔の向こうに広がる雲の平原。その隙間から微かに見える緑の大地。
浮遊島アールマティ。『女神の塔』はその南端にある。
アヴァロン:「さ、帰ろうか」
『女神の塔』の試練を無事突破し城に戻った僕は、父から『黄金の林檎』を受け取った。
王位とかにあまり興味はないけど、これでごたごたが収まるならありがたいことだ。
で……しばらくは穏やかで平和な日々が続いた。
僕も、ソフィアも、ユナも、のんきに笑っていた。
あの日までは──
GM:気持ちのいい南風が吹く午後のこと。君たちは王宮の裏にあるリンゴ畑にリンゴ狩りに来ている。
ユナ:動き回る凶暴なリンゴたちを。
GM:ヨーグルトのCMじゃないんだから(笑)。
オラクル:「王子様よう、こっちのヤツが食べ頃だべ」
アヴァロン:(にっこり笑って)「いや、あっちの方がおいしそうだ」
サラ:どんどん王子の性格が悪くなってる気がする……。
GM:そうやってちぎったり食べたりしてるワケだが……。──ソフィア。
ソフィア:はい。
GM:君がリンゴをかじろうとした瞬間、リンゴが『消えて』しまった。
ソフィア:ほえ? ……あれ?
ユナ:きっとサラの仕業ね。
サラ:あたしじゃないわよッ!
ソフィア:(手を開いたり閉じたりして)「……ほえ?」
アールマティ王宮 ゲオルギウスの私室──
ゲオルギウス:「原因不明の病気?」
医者:「はい。なにやら皮膚が壊死してしまっている者が増えているのです」
ゲオルギウス:「壊死……?」
医者:「ええ、皮膚が別の『何か』に変質してぼろぼろ崩れていくのです」
ゲオルギウス:「そんな病気……聞いたことがないな」
医者:「わたしもですよ。患者に共通点は見られないのですが……特に子供がヒドイことに」
ゲオルギウス:「子供か……。ツライな……」
被害は急速に広まっており、事態を重くみた国王は緊急会議を開くことにした。
集まったのは、国王・宰相ゲオルギウス・元宰相ダイモン・魔法科学研究所代表ヒュプノス・医者・元老院の老人たち。
GM:せっかくだから、読んでもらおうか。(メモを渡して)アルバスがダイモン、オードーが国王ね。
ダイモン(アルバス):(すっごくさわやかに)「一難去ってまた一難ですな……」
はいNG〜。んじゃ、Take2──
ダイモン:(悪代官風に)「一難去ってまた一難ですな……」
老人:「被害は急速に広まっています。程度の差は激しいですが……ほれ、わしの腕もこの通り」
医者:「中には腕が取れてしまった者もいます。不思議なのは誰も痛みを感じていないことですが……。ただ、その、取れた断面から血が噴き出した末に出血多量で死亡などということに……」
王:「なんということだ……。原因はつかめんのか?」
老人:「伝染病ですかいのう?」
王:「うーむ……」
ヒュプノス:「現在、私とゲオルギウス殿、ダイモン殿で特効薬の研究を進めております」
ダイモン:「いいモルモットがおりますからなァ」
王:「ダイモン!」
ダイモン:「背に腹は変えられますまい。……時間が惜しいので、これで失礼いたします」
ゲオルギウス:「──というような話でした」
アヴァロン:「病気か……。オレたち、何ともないよな?」
ソフィア:「うん」
タナトス:「しかし放っておくワケにもいかないでしょう。何とか我々だけででも原因の調査を!」
アヴァロン:「そうか。気をつけろよ」
ゲオルギウス:「王子も来るんですッ!」
アヴァロン:「ええェ〜」
タナトス:やはり……『成人の儀』の頃からどうも様子がおかしい……。
アヴァロン:いや、それは気のせいだ。
GM:と、そこに医者が来て……
医者:「あの……もし調べられるのでしたら、貧民街の方が被害がヒドイようなので、そちらからいくのがよろしいかと」
アヴァロン:そんな原因の真っ只中に突っ込んでいって、大丈夫なのか?
ソフィア:感染しないように、お祈りしてからいきましょう〜。
オラクル:そういう場合は、後腐れないように焼き払うのが一番だべ。どうせ貧民街だし。
GM:使用人の分際でなに言うかね、コイツは(笑)。
ゲオルギウス:そうだ、防護服を着ていこう。魔法科学研究所に何着かあったはずだ。
GM:では研究所経由貧民街、だね。
貧民街は、ヒドイ有り様だった。
放心している者。身体が半分崩れてしまっている者。その姿を見て、泣き叫ぶ者。
感情の高ぶりとともに現れた白い羽根が、散り、舞う。
それはまるで、地獄に舞い降りた天使の群れのようで……
GM:ソフィア、白い翼を見た君の心に激しい『破壊衝動』が生じる。
一同:は?
ソフィア:破壊衝動……? それは、どうやったら押さえ込めるかな?
GM:『心』の能動値で判定してみて。成功度を教えてね。
ソフィア:(コロコロ)マイナス92成功。
GM:なら、何とか押さえ込めた。
サラ:90以上の成功で「何とか」なの……? コワイかも……。
ゲオルギウス:ソフィア、目付きが悪くなってるぞ。
ソフィア:オラクルに八つ当たり。おなかをドカドカ殴る(笑)。
オラクル:ちょっとソフィアさん、何するだよゥ〜。
サラ:ソフィア、やめなってば。
ソフィア:サラもドカドカ殴る。
サラ:ちょっとちょっとォ〜(笑)。
結局何の手掛かりもつかめないまま、アヴァロンたちは貧民街を後にした。
GM:で、第2回緊急会議が開かれる。はい、原稿。
ダイモン:(エレベーターガール風に)「さて皆様、ここで重要な発表があります」
はいNG〜! 頼むで、ほんま。
ダイモン:「さて皆様、ここで重要な発表があります」
王:「ダイモン!!」
ダイモン:「わたくしは先代の王の命令で今まで『新たなる下僕』……『枯れた翼のもの』の研究を進めてきました」
老人:「『枯れた翼のもの』? 聞いた覚えがないですなァ」
ダイモン:「枯れた翼のもの……わたくしたちは『ヒトゲノム』と呼んでおりますが……実はここにきてこれに重大な欠陥があることが判明しました」
王:「………………」
ダイモン:「正確には、研究当初からの問題点がどうあっても解決できないことが分かったのです。その問題とは…………性的欠陥。つまり、子孫が残せないのです。……そんなものに時間を割いている余裕はありませんから、ひとりを残して破棄しました」
ここで間を置き、ダイモンはいやらしい笑みとともにゲオルギウスの方を見た。
ダイモン:「そうですな? ナンバー01927−G……ゲオルギウス殿?」
ゲオルギウス:「──ッッ!!」
ダイモン:「御存知なかったでしょう?」
ゲオルギウス:「な、何を……」
ダイモン:「お前はわたくしを失脚させて今の地位を手に入れたつもりだろうが……全ては計算のうち」
ゲオルギウス:「何を……いったいなんのはなしをしているのです……? なにを……」
ダイモン:「王よ、『泥人形』の失敗作にマツリゴトをまかせてよろしいのですかな?」
王:「黙れ!! 今の話が本当だとしても、余はお前の復帰など認めんぞ! むしろ逆だ! 追放だ、二度とこの城に足を踏み入れることは許さん!」
ダイモン:「分かりました。……後悔しますよ? もう遅いですが」
勝ち誇った笑みを浮かべ、ダイモンは会議室を出ていった。
残された王はうつむき、老人たちは狼狽し、ゲオルギウスはただただ放心している……