ユナを探していたリルルは、アルバスの部屋で掃除をしている彼女を発見した。
リルル:「あ、ユナちゃん……ここにいたの……」
ユナ:「んにゅ。あーっとリルル、コンニチワ」
リルル:「うん……。……。えーっと、まさかまだアルバスさんの部屋の掃除を?」
ユナ:「わたしの……えっとその『ソソウ』の掃除はもう済んだんですよッ。でもほら、お兄様の部屋、きれいにしておきたいじゃないですか」
リルル:「…………」
ユナ:「好きな人の部屋だもの、そうしたいって思うよね……。ねッ?」
リルル:「…………。……そう……ね。」(微妙にほほを紅く染める)
ユナ:「?」
リルル:「いや、あの……はは。……あ、手伝おうか?」
ユナ:「みゅ。うん、いいよ。別に独り占めにしようってわけじゃあないから……」
リルル:「え? ……あ」
ユナ:「……大勢の女性<ひと>のうちの一人でいいんだ。でも、少しでも多くのご寵愛を受けたいじゃない」
リルル:「あ、あたしは別に……」
ユナ:「ゼ・ナ……でしょ?」
リルル:「……!」(完全に、耳まで赤く染まる)
ユナ:「ふふっ、もう0コンマ5秒でわかっちゃうよ、そんなの。バレバレよォ……」
リルル:「…………」
ユナ:「あ、じゃあお願いできる?」
リルル:「……あ、……う、うん。じゃあ畳を雑巾がけするね。……雑巾これでいい?」
ユナ:「うん、ありがと……あぁっそれはっ!」
リルルがその辺にあった乾いた雑巾をとってバケツの水につけギュっと絞ったとたん。酸味のきつい匂いのするヌルヌルとしたゲル状のものが雑巾から……その布に吸い込んでいたにしてはあまりにも大量のヌルヌルとした物体が溢れ出してきた。
リルル:「…………」
ユナ:「…………」
リルル:「あの……こ・れ・は」
ユナ:「えっと、あの、わたしの『ソソウ』をォ、その雑巾に拭き取りながら『封印』しておいたんだけど……捨てておくのを、その、忘れちゃってて……」
リルル:「つまりこれは……」
ユナ:「だから……わたしの『ォエー』です」
リルル:「…………」
ユナ:「…………」
リルル:「キャァァァッァァッァァッァー!!!!!!!!!」
リルル、手洗い場へ猛ダッシュ。
ユナ:「……わたし、これ捨ててこよっと……」
ユナはバケツに搾り出された"それ"をトイレに捨てに行った。
ユナ:「ううう、やだなー。封印したままもってくりゃよかった……」
ダバダバ流している途中で小さく"カツンッ"と異質な音がした。
ユナ:「?」
ゴミ拾い用のはさみで便器の中を探ってみると、何か小さなものにカツリと当たった。
摘み上げてみると小さな機械だった。
ユナ:「なにこれ?」
どうしてこんなものが入りこんだのか分からないが、重要なものではないだろうと思いユナは汚物入れの方にそれを捨てた。
ユナ:「??? うー……まぁ、つまるといけないし。でも何なんだろう、これ」
首をかしげながらユナはトイレを出ていった。
汚物入れの中では機械が微弱な発信電波を出し続けていた。
――しばらくして、リルルが手をタオルで吹きながら帰ってきた。
ユナ:「う゛う゛……ごめ゛んな゛ざい゛ぃぃぃ……」
リルル:「ううん……いいのいいの……それよりあなた、ユナ……」
ユナ:「んみゅ?」
リルル:「『封印』って……」
ユナ:「え?」
リルル:「『封印魔法』……使えるの?」
ユナ:「ええ。こんなかっこうだけど」(←彼女の中で封印士はマントを着ているという決まりがあるようだ)
リルル:「…………」
ユナ:「本当は『巫女』にならなきゃいけないんだけど、そっちよりこっちの方が面白いから……。一昨年くらいかなモンスター封印球がアールマティの子供の間ではやったでしょ?」
リルル:「えっ?」(あたし知らない…… ……当然、か。だって……)
ユナ:「でも売ってる封印球は危ないから大きなモンスターは封印できないし、ひとつで1匹しか封印できないじゃない。それじゃなんかつまらないから、いろいろ勉強していくうちにのめり込んじゃってェ。才能あったのかな? ――ね、お兄様に投げられたときも実は『痛覚封印』したから痛くなかったんだ、秘密なんだけどね。傷の治療でなくてそっちにしたのは……まあいいじゃない」<←血だるまのままで出て行って他の船員の同情を引こうとしたのだ。なんてやつ>
リルル:「…………」
ユナ:「リルル」
リルル:「え、何?」
ユナ:「わたしを探していたんじゃなかったの?」
リルル:「うん……。――……あなた……いったい何者なの? ……みんなはそんなに気にしてなかったけど」
ユナ:「エノクも同じような事を聞いてきたけど……これまで普通にしていたのに、急にどうして?」
リルル:「……自分の名前とアルバスさんのこと以外ははっきりしないの?」
ユナ:「うん……。でもね、少しは思い出したよ。お兄様も前は直接わたしに触れて何かすることなんてなかったな、とか。痛いことされたけど、これまでは寝ていてもあんな近くまで寄せ付けなかったな、とか。それから、サ……あの赤いのみたいなことするなって怒られてたこととか」
リルル:「アルバスさんはアル王子じゃないし、サリースさんはサラじゃない。……あなたが今言ったことは、『現在<いま>』じゃなくて『過去<むかし>』のことじゃないの?」
ユナ:「あ……」
リルル:「……あなたと入れ替わりにユンケちゃんがいなくなったの」
ユナ:「?」
リルル:「ガンバちゃんと同じクックルックルーフで……」
ユナ:「あのへんな生き物? はじめて見た。でもヘンな名前……」
リルル:「ヘン?」
ユナ:「だってユンケって『貴族のお嬢さん』って意味よ。古典語の勉強ちょこっとやったから知ってんだ」
リルル:「…………」
ユナ:「クックルッ……の方は、えっと。格変化とか難しくて。うーん『子供』ってのが入っているっぽいのは分かるんだけど、これは見た目通りよね。でもこの変化が、『子供から』なのか『子供によって』なのか『〜な子供』なのか分かんないから、他の単語との結びつきが分かんないや。動詞っぽいんだけど。もしかしたら『子供』ってのも似た語幹の別の単語かもしれないし。あ、でもガンバってのは分かるよ。『trick』でしょ」
リルル:「あなたのいう古典語って……やっぱり」
ユナ:「?」
リルル:「そんな古い言葉……今じゃ専門の学者もほとんどいないのに……。……あなたやっぱり『現在<いま>』の人じゃないのね?」
ユナ:「…………」
リルル:「だって『オファニエルの巫女の装束を着たヒーメル』が今、存在しているなんて信じられないわ。最後の巫女がいたのはずっとずっと昔だっていうのに……。――本当はある程度自分でも気付いているんじゃないの? 理由はわからないけど時間を超えて大昔から……」
ユナ:「やめて!」
リルル:「……!?」
ユナ:「ごめん……やめて、お願い――そうなのかもしれないけど……でもそうだとしたら……わたしの大好きなお兄ちゃんは……王子は、ホントはもう……」
リルル:「……あッ……」
ユナ:「だから、ごめん。この話はもうしばらくはしないでほしい……。巫女だけど修行していないからそんなはっきりした予言なんてできないけど、わたしたちみんなを包み込む『運命』はそう遠くないうちにやってくる気がするの。その結果全てが分かるかどうか分からないけど……今は何も考えたくない。……ごめんなさい」
リルル:「ううん、こっちこそゴメンね」(……あたしだって自分のことみんな分かってるわけじゃないのに、こんな自分より小さい子をつらい目にあわせるなんて……)
ユナ:「いえ、いいの。――で、廊下で聞いているセンセ、女の子の秘密が聞けてよかった?」
リルル:「……えっ?」
気まずそうにエノクが廊下から部屋に入ってきた。掃除中だったのでドアは開けたままだったのだ。
エノク:「あ〜気付かれてましたか」
ユナ:「ええ。ということでもうこの話はナシね。もちろん今聞いたのも他言無用よ、しばらくは。とくに『ヒ』の字のつくこととか」
エノク:「ええ、分かりました。――でも『遺失船』に、失われた古代文明に関わるモノが次々と集まりつつあるなんて……本当に『運命』かどうかは分かりませんけど、何かが確実に起きるような気がします。……そう、今まで点々とあったものが線で結ばれるような」
リルル:「…………」
ユナ:「…………」
GM:では次の日。ゼナの左手の人差し指がないこと、みんな知ってるのかな?
ゼナ:一目瞭然なんじゃ……。
ガンバ:責任とって指をつめたんだな、と理解。
アルバス:(ぼそっと)リルル……。
リューセ:そっちの責任なの?(笑)
GM:みんなに言う?
ゼナ:そう……ですね。隠してても仕方ないし。
オードー:「ゴーヴァがちゃんと直ってから、ゼナぶち込めばいいべ」
アルバス:「ま、大丈夫だろ」
ゼナ:ああ……きっとボクもうダメなんだ……、と心の中で思っておく(笑)。
サリース:アルバス、信用されてないわよ。
アルバス:てゆーかみんな、リアクション薄いな。
サリース:(プレイヤーが)眠いんじゃない?
ガンバ:(キャラクターが)薄情なだけだわさ。
ゼナ:「すぐに死んじゃうってことはないと思うんですけど……身体がなくなってしまうかも」
GM:それを死ぬって言うんじゃないの?
ゼナ:ちょっと違うんです。
アルバス:「サンダユウのパーツを使ってゴーヴァを完全復活させたらどうだ?」
リューセ:「108の機能が追加されてるのね」
リルル:「それとも……これも漠然とした話なんですけど……『大いなる遺産』を探し出す、とか。どんな願いも叶うらしいですから」
リューセ:「それも、アテがない話だよね。――私たちは『大いなる遺産』についてどこまで知ってる? ヴィゾフニルの資料には兵器って書いてなかった?」
サリース:「メルカバーとかいうヤツね」
アルバス:「書いてあったのはそれだけじゃなかっただろ。――そもそも『大いなる遺産』ってひとつだけなのか? いくつかのモノを合わせてそう呼んでるのかもしれんぞ」
ゼナ:「あるいは、大きな遺跡や都市のことなのかも」
アルバス:「海底遺跡とかな」
GM:んな……MMRじゃあるまいし。
と――いきなりリルルが席を立ち、口を押さえながら部屋から出ていった。
オードー:「……つわり?」
リューセ:(ゴスッとオードーを殴ってから)「さすがにそれはないと思うけど……」
GM:様子見にいく人は?
ゼナ&リューセ&サリース:はーい!
GM:洗面所に駆け込んでいくよ。
一同:(顔を見合わせる)
ゼナ:入り口で止まる。
リューセ:構わず突入。
GM:中に入るなら分かるけど、ゲホゲホッと血を吐いてる。
アルバス:……つわりか?
一同:違ーう!!
リューセ:「血……!? だ、大丈夫なの?」(リルルの背中をさする)
リルル:「すみません……もう平気ですから……」
リューセ:「血を吐くなんてフツウじゃないよ? 先生に診てもらったら?」
リルル:「大丈夫ですから……みんなにはこのことは内緒に……」
リューセ:「それはダメよ。あなたの身体のことでしょ?」
リルル:「……やっぱりみんなに、話しちゃいますか?」
リューセ:「そりゃ……ね」
アルバス:リアクションが薄いこの連中に話しても、どーにもならんと思うけどな。
「火事だー!」「あ、そ。大変だね」
「あたし、娼婦だったの」「だろうね」
「このままでは大変なことに……」「ふーん……。――で?」
「あなた、王子ですよね?」「仮にそうだとしよう。……だから?」
サリース:アンタ、筆頭じゃない。
アルバス:それはまあ、おいといて、だ。
リューセ:先生に診てもらった方がいいよ。私が看病してもいいけど、途中で寝ちゃうから。で、夢の中で触ったところから消えていくよ?
サリース:そーゆーことあおってどーすんのよ。
リューセ:リルルを医務室に連れていくね。
GM:では食堂に残った人、および戻ってきた人。彼女にしては珍しいかな――ニーヴェが血相を変えてやってくる。
ニーヴェ:「クリシュナを見なかった?」
サリース:「クリシュナさん? そういえば見てないような……」
ゼナ:最後に見たの、いつ?
GM:ゴーヴァの修理が終わるぐらいまでは、確認してる。
ニーヴェ:「アイオーンのみんなにも聞いたけど、見てないって……」
アルバス:エスペルプレーナは動いてるのか?
ゼナ:動いてないんじゃないですか? 別に行くとこないし。
アルバス:駐車禁止にならないように、だらだらと走ってるかもしれんぞ?
GM:ヴィゾフニルから出てないよ。
ニーヴェ:「それと……クリシュナのベッドにこんなモノが……」
サリース:「何です? その紙切れ……」
GM:遊園地の、チケット。
一同:は……?
リルルとリューセ以外を食堂に集め、緊急会議が始まった。
サリース:「遊園地って……このへんにそんなものあった?」
ニーヴェ:「ここから西に行ったところにある街――"幻の都”遊戯都市アドラメルクは、街全体が遊園地なの。……そこのチケットみたい」
オードー:クリシュナさんてェ、そんなとこ行きたがるよな幼い娘さんだっただか?
GM:ほえほえぼーっとした娘ではあったけど。
ゼナ:リューセさんと気が合いそうな……。
シェオール:マフィとも合うかもな。子供っぽいってとこが。
GM:ではここでトパーズとマフィ、『心』で判定してみて。
トパーズ&マフィ:成功してるよ。
GM:んじゃ、ルーンおじちゃんに聞いた話を思い出した。前に、彼の恋人の妹に同じようなことがあったって。妹がいなくなって、地図が置いてあって、そこに行ってみたら……。
トパーズ:あれは……ツラかったよね……。
ビッケ:第二部の話だな。
トパーズ:「……クリシュナさんは大切な人だよね? で、手がかりはそのチケットしかないんだよね? そこに行った途端大切な人が殺されるのは……あたしイヤだよ?」
サリース:「その場合、行かなくても死ぬんじゃない?」
アルバス:彼女の『クーア』はオレが持ってるし、行かなくていいんじゃないか?
一同:おいおい……。
GM:――とまぁ、そういうことになってんだけど。
トパーズ:「遊園地に向かいます。向かいまーす!」
シェオール:「ま、行くしかないだろうな」
マフィ:「遊園地、行きたーい!」
GM:では、アドラメルクに行くよ。
ガンバ:「エスペルプレーナ、発進だわさ!!」