「ううん、これは違和感ていうより……」
既視感──
リルルの薬を買うために街に出ていたリューセは、街はずれにあったその家を見上げた。
ヴィゾフニルに着いたときからずっと感じていた心のもやもや。
私はここに住んでいたことがある…… 私と、タナトスと……それから……
そのとき、ふわっといい香りがリューセの鼻をくすぐった。
焼きたてのパンのにおいだ。
「なんだかいいにおいですゥ」
くるりと振り返ると、すぐそこがパン屋だった。
よく焼きたてを買いにいってた店…… 置いてあるアップルティーが、また格別で……
ふらふらと引き寄せられるように、リューセは店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ〜」
見覚えのある店員のお姉さんだ。髪の毛をバッサリ切ってしまってるので、印象がかなり違うけど。
「あ、え〜と……」
「アナタ、さっき向かいの家見てたよね? あそこの家の人と、知り合いか何か?」
向こうからいきなり話しかけてきた。
「えと、まあ、そんなとこです……」
「そっかァ〜。今さ、どこに住んでるか知らない? カッコイイ男の人が住んでたのよォ、銀髪で、サラサラで、もー超イイオトコでさッ!」
タナトスのこと……?
「ごめんなさい、私も知らないんです」
「そっかァ〜残念ねェ〜。……元気にしてるのかなァ、あの3人……」
……気づかないのかな? 私が覚えてる(正確には思い出した)ってことは、向こうも顔ぐらい覚えててくれてもいいのに…… タナトスのことはしっかり覚えてるワケだし……
それなのにパン屋のお姉さんは、全然、これっぽっちも、リューセのことを知らないようだった。
GM:ゴーヴァの修理から数日。ゴーヴァはまだ完全には機能が回復してない。ルーベルも意識を失ったまま。ゼナも肉体にダメージが残ってる。リルルはやっと動けるようになったかな。
リューセ:みんな大変ですゥ。
サリース:人が増えたしねー。食事の用意が大変だわ。
オードー:あ、だったらおらが……。
サリース:……アルバスのママ殺す気?
GM:――さてアルバス。
アルバス:いきなりか。――さてアルバス、気がつくと君は布団の中にいる。
GM:んー、ちょっと違う。横になってるのは確かだけど、布団の中ではない。そう――『棺』のようなかんじかな。
ガラスの棺……なのだろうか。棺を通して天井が見える。
魔法的にイミがありそうな模様が、薄暗い天井や壁に描かれている。
ガンバ:イミがありそう、としか分からないんだね(笑)。
サリース:ま、アルバスだし。
そしてまた、眠りの世界へ……
アルバス:ZZZ……。
GM:今、次女……ルーベルの傍にいるのは誰? アルバスママ──ニーヴェはいるけど。
シェオール:部屋の外で見張り。
アルバス:部屋の前を不自然にうろうろしてる。いちおー、心配だし。
GM:(ぷっと笑って)カワイイヤツめ。
リューセ:アルバスって、ほんとカワイイよね♪ じゃ、私が傍にいる。
GM:リューセね。……んじゃリューセ、看病しながら君はうたた寝をしてしまった。
気がつくと、リューセはどこかの家にいた。小さい、こぎれいな家だ。キッチンには朝食の用意がしてある。
アルバス:リンゴの香りがするパンと、こんがり焼けた紅茶だっけ?
サリース:こんがりって、どんな紅茶よ。
GM:逆だ逆だ。
リューセ:それは食べるしかないですねェ。手をのばしますゥ。
GM:触ろうとするんだね? そうすると――
アルバス:パンと紅茶がオペリオの下半身に変わる。
一同:触りたくねーー!!
GM:話の腰を折るな(笑)。リューセが手をのばして触れた瞬間――
パンと紅茶が、テーブルごと『消滅』した。
リューセ:「ほええ??」
GM:夢だから消えた、ってかんじじゃないよ。んで、そこにルーベルが入ってくる。
サリース:……夢じゃない? 現実?
アルバス:夢、だろ?
ルーベル:「どうしたの?」
リューセ:「それが……こうなってこうなってこうなったんです」
ゼナ:それじゃ全然分かりませんよ。
ルーベル:「そんなことあるはずないじゃない。……ちょっと、手を見せて」
リューセ:「ダメダメダメ! 触っちゃダメ! こわいこわいこわい!」
ルーベル:「平気だってば」
リューセ:「じゃあ、この杖を触ってみるから、それでいいでしょ?」
GM:杖に触るんだね? なんともないよ。
ルーベル:「ほら、ね?」
リューセ:「本当だ。わーい、握手握手」
GM:握手する? そうすると、手のひらからパァッと光が出て、ルーベルの手が消え始める。
リューセ:ほら、私の言った通りですゥ〜(うれしそう)。
サリース:うれしそうにしてどーすんのよ!
リューセ:消えるって……どんどん進行していってるの?
GM:うん。
アルバス:それはもう……ベタベタ触るしかないだろう。
リューセ:そうね(笑)。
GM:そうすると、触れたところから『消滅』していくよ。
リューセ:マジ!? どんな表情してる?
GM:痛みはないみたい。消えていく自分の身体を見て呆然としてる。
リューセ:「しっかりして!」
GM:そう言ってつかんだ肩から、また消えていく。
リューセ:「イヤ! イヤ! イヤァァァァァァ!!!」
混乱する意識。視界がぐるっと回転する。
そして最後に見たのは、長い銀髪がゆれる……タナトス……
……ああ、来てくれたんだね……
GM:――というところで目を覚ます。
リューセ:(ルーベルは)いる?
GM:ベッドにいるよ。で、ニーヴェがいて、タナトスがいる。
リューセ:ををぅ!?(驚く)
ゼナ:夢…………じゃねぇぇぇーーー!!!(叫ぶ)
アルバス:おひさしぶーりぃね♪(歌う)
リューセ:「お元気でしたかァ?」
タナトス:「おかげさまで、ね」
リューセ:アルバスママは、タナトス知ってるんだっけ?
サリース:みんなで写真写ってなかった?
リューセ:そうでした、みんな知り合いでした。これで円満解決です〜。
ゼナ:……そうかなァ……。
タナトス:「君たちは……元気、ってわけじゃなさそうだね」
リューセ:「そうなんですよ、ゼナは右手なくなるしゴーヴァは壊れるしリルルはケガするし……」
タナトス:「君も、人のことは言えないと思うけど?」
タナトスが手をかざすと、リューセの胸に六芒星のアザが浮かび上がった。アザはさらに広がり、肩や上腕部にまでルーン文字のような模様が広がっている。
リューセ:(服の肩ヒモをほどいて)「いつの間にこんなに……」
サリース:リューセ、見えちゃうってば。
リューセ:「あうあう……(服を直してから)ルーベルさんの意識も戻らないし……」
タナトス:「だろうね。……あれだけの重傷だったんだから」
サリース:……何を知ってるの?
アルバス:何を知ってるのでしょーーかッ!
一同:さー、みんなで、考えよー!
アルバス:ミリオーン、スロット!!
リューセ:「――で、何を御存知なんです?」
タナトス:「いや……今はまだ、知らなくていいことだから……」
リューセ:「ぶー、ご不満」(ふくれる)
タナトス:「さ、もうおやすみ……。いいこだから……」
そっとリューセの肩に手を置くタナトス。リューセを、眠りの世界へと誘っていく……
GM:リューセはまた夢を見る。だだっ広い草原の、小高い丘の上。大きな木の根元に、ちょこんと座ってる。
アルバス:このーきなんのききになる♪
一同:きになるきになるきになるきになるきになるきになるき〜♪
輪唱すな!(笑)
アルバス:きにぃーぃなるでしょぉぉお♪ ひとはきーでーたたず……あれ?(我に返る)
GM:気はすんだか?
どこまでも続く草原。背中に、樹の感触。遊んでいる子供たち。
大きな大きな夕日が、ゆっくりと沈んでいく。全てを、赤と金に染めていく。
一際強い光に目を細め、ふと視線を上げると……少年が立っていた。年は5、6歳に見える。
「おい」
「うん?」
「お前、ひとりか?」
「うん」
「みんなと、遊ばないのか?」
「私、みんなと違うから……」
GM:――というところで目が覚める。
リューセ:ほえ? ……ここ、どこ?
GM:ルーベルの部屋だよ。ニーヴェはいなくなってるけど、タナトスはまだいる。
リューセ:「あなたもおヒマですねェ、タナトスさん」
ゼナ:他に言うことはないんですか?
タナトス:(リューセの髪をなでて)「僕はもういくよ。……また逢おう」
リューセ:「はい〜、それまであなたもお元気で〜」
オードー:はッ! まさかリューセとタナトスは性的関係に……。
サリース:……なんでそーなるのよ?
オードー:髪を触るのは、体のふれあいより後だっちゅー話だべ――ぐあ!(サリースに殴られた)
GM:マントをばさっとひるがえし、タナトスはすううっと消える。
リューセ:相変わらず不思議な人……。