MOND REPLAYV

 その言葉に従って、裏通りに行ってみると……
 

GM:石畳の道の両側に、ずらーーっと『喫茶店』が並んでる。看板がいろいろ下がってて――『心の泉』『まだ咲かぬ蕾』『古の記憶』『ジャーニズ』『レトロロマン』『熱帯雨林のかぐわしきスコール』などなど……。

サリース:はあ?

ゼナ:カクテルの名前みたい。

GM:あと、『海軍さんの喫茶店』とか。ヤヨイちゃんはここにいるらしい。

オードー:街弥生?

GM:街田ヤヨイちゃん(笑)。

リューセ:ふるーい!

アルバス:中途半端で微妙だな……。
 

 街弥生は、アルバスのプレイヤーの昔の作品の登場人物。ま、GMのお遊びってことで。
 

ガンバ:一休さんのやよいさんかと思っただわさ(←そりゃまた古い)。

リューセ:「それじゃ、入ってみようぅ」
 

  カロンカロン♪
 

GM:店の中は木製の家具で統一された静かな雰囲気。所々に海軍グッズが飾ってある。ひょろっとした背の高いマスターがいるよ。そして何より目を引くのはたくさんの本棚にギッシリと並べられたハードカバーの本。

マスターチェイ:「いらっしゃーい」(モデルはMNNのちぇ)

リューセ:「えーと……大人数ですみません」

マスターチェイ:「構いませんよ。──御注文は?」

リューセ:「それじゃ、何か軽い食べ物でも……」

マスターチェイ:(ニッと笑って)「そっちの注文じゃなくて……『本』の方」

GM:よく見ると背表紙の上の方に『輝石』が埋め込まれている。タイトルはみんな人の名前みたいだ。

サリース:「ジュリアお願いします……って言ったら?」

マスターチェイ:「ジュリア……ね。あいよ」
 

 ほどなくして、マスターは店の奥から一冊の『本』を持ってきた。ハードカバーで覆われたその『本』は、なぜか前半分のページがない。
 

マスターチェイ:「ジュリアはなかなかの人気ものだよ。おかげでなかなかページがそろわない」

アルバス:本のタイトルは女性ばっかり?

GM:男性もいるよ。……特に『ジャーニズ』という店には。

ゼナ:『さぶ』って店もきっとあるよ。

サリース:「あの……それが、ジュリア?」

マスターチェイ:「まさかとは思ったが……アンタらひょっとしてこの街初めて?」

サリース:「は、はい……」

マスターチェイ:「なら最初から説明しないといけないワケだな。よしよし」

リューセ:「お願いしまーす」

マスターチェイ:「まず覚えていてほしいのは、この街には3種類の人間がいるってことだ。一般人、本を管理する『管理者』、そして『本』だ。我々は『BOOK』と呼んでいる」

サリース:「てことはその本て……人なんですか?」

マスターチェイ:「元、だけどな。『人生は300ページの本である』なんて言葉があるが、まさにそれが……人を『本』に変える技術が、この街にはある。そうするとだ、例えば80年の人生を送る人がいたとすると、そいつは80ページの本になる。これは1年を1ページとした場合だな。あとはそのページごとに『独立した違った人生』を送ることが可能になる」

エノク:「それは……興味深い話ですね」

マスターチェイ:「背表紙に『輝石』がついているだろう? ある『機関』にいくと、自分の『寿命』分の厚さの『本』にしてもらえる。『輝石』に『封印』することによって」

アルバス:「それは寿命が分かるってこと? 例えば事故で36才で死ぬ、とか分かるのか?」

マスターチェイ:「どういった最期をむかえるのかは教えないのが規則になっている。……もっとも、どうやって『寿命』を調べているのか……ちゃんと『寿命』を調べているのかさえ、私たちに知る術はないんだが」

リューセ:「うー……???」(頭の上にハテナマークが浮かんでる)

マスターチェイ:「まーそうやって『BOOK』ができたとしよう。人生80年だったとき、本の厚みは80ページになる。1日を1ページということにすればページ数は365倍に増えるんだが……分かりやすくするために80ページということにしよう。──お嬢ちゃん、今いくつだい?」

リューセ:「私? 16ですけど」

マスターチェイ:「じゃあ君が『BOOK』になったとしよう。前の16ページはもう使えないから、残りは64ページだな。で、このページをどう使っていくかだが……一度に使えるページに制限なし、年齢設定も自由だ」

アルバス:「残りのページは17歳から80歳までのリューセじゃないのか?」

マスターチェイ:「そこが『BOOK』になる最大のメリットと言えるかもしれんが……年齢を自由に設定することができる。永遠の18歳、なんてのも可能ってワケだ」

アルバス:「てことはリューセが20歳になったり60歳になったりってのもできる?」

マスターチェイ:「できる」

アルバス:「経験とか記憶とかは?」

マスターチェイ:「記憶については後でも話すが……記憶と経験は今までストックしてきたページ分しかない。その、リューセちゃんとやらが40歳と設定すると、『16年しか生きていない40歳』という、えらく人生経験の薄いおばちゃんになってしまうが、まあそういう問題はほとんど発生しない。『BOOK』になる人は大概若い姿のままを好むから。『40年分の記憶と経験を持つ40歳』より『40年分の記憶と経験を持つ18歳』の方がいいだろ?」

ゼナ:「分かったような分からないような……」

アルバス:「例えば……16歳のリューセが3ページ同時に存在したとするよな? そうすると思い出を思い出すときとかどんな風なんだ? 『テーレ1136の3月15日』の記憶が3つあるってことだろ?」

マスターチェイ:「『3月15日の記憶その1、その2、その3』ってかんじになる。日付があんまり意味を持たなくなるのは確かだな。実際記憶が混乱して、ちゃんと記憶を管理できてるのは『背表紙』だけ、なんて子もいる」

オードー:「背表紙?」

マスターチェイ:「そろそろそのへんの話もするか。さて、『人生を終えた』ページがどうなるかというと……『本』に戻る。そりゃ、そうだわな。で……その『記憶と経験』が『背表紙』──正確には『輝石』に書き込まれる。アルバムみたいなものだ。そうすると、『背表紙』の『核の人格』──ページとは独立した人格はいつでも自由に閲覧できるってワケ」

アルバス:「ページがなくなったらどうなるんだ? 死ぬのか?」

マスターチェイ:「ページがつきた『BOOK』は火葬されて消滅するか……『背表紙』の中で永遠に思い出に浸っているか……。ま、どっちかだろう」

サリース:「自分の人生をプロデュースして、思い出のアルバムを作り上げる……。自分の人生を傍観者とし見てるってコトかァ」

マスターチェイ:「『BOOK』になるヤツは科学者とか……あとは好奇心が強いヤツが多いな。ずっと未来を見たいヤツだったり、ずっと若い姿でいたいヤツだったり……。たまに興味本位で『BOOK』になってヒドイ目に合ったヤツもいる……」

オードー:「難しくて長い話だべ……」

マスターチェイ:「ずいぶん長い前振りになったが、そろそろこの店の説明でもするか。『BOOK』にはそれを管理する『管理者』が必要不可欠だ。お偉いさんや科学者、金のあるヤツらは正式な管理センターや図書館なんかで管理してもらえるが、そうでないヤツは……こういう『喫茶店』か、風俗関係の店に入る場合がほとんどだ。『管理者』は長い間『BOOK』を管理し、守らなければならない。彼らの家や財産もだ。結構責任重大だ。……そう思ってない輩もいっぱいいるけどな」

アルバス:「よかったな、サリース。風俗あるってよ」

サリース:「イ・ヤ・よ」

マスターチェイ:「もちろん『BOOK』絡みの犯罪も増えている。お金で『ページ』を売る売春『BOOK』に、それを裏で仕切る『管理者』……。『BOOK』狙いの放火に誘拐……。どっちが一度に多くの男を相手にできるか競って、1年たらずで人生を終えたヤツもいたな。残ったのは何百もの男と寝た記憶ばかり……。すぐに火葬してもらったらしい」

リューセ:「イヤな話……」

マスターチェイ:「この店は『出会い』の提供をしたり、望んだ『時期』にページを解放したり……。ま、ときどきグチを聞いてやったり……。そういうところだ」

アルバス:本と話ができるのか?

GM:できるよ。

サリース:傍から見るとコワイかも……。

アルバス:「でも……これって相手も大変だよな。ずっと一緒にいたヤツが、ある日突然消えてしまう」

サリース:「そういうゲームみたいなもんだって割り切るしかないのかな……」

ユナ:「その相手が気にいったなら、次のページでもその人と過ごせばいいのでは?」

アルバス:「それもそうか」

オードー:「コピーとかされないだか?」

マスターチェイ:「一応禁止されているが、最近よく見かけるようになったな。あとは『優れた才能』のデータを売る、とか。そのデータを『ページ』に組み込めば頭脳明晰スポーツ万能容姿端麗な人生を送ることも可能になる」

サリース:「確かにそういうデータがあったら飛ぶように売れるでしょうね」

アルバス:「1ページ目でムキムキに肉体を鍛えたとする。2ページ目でバリバリ勉強して学者になったとする。そうすると3ページ目は『ムキムキで頭がいい』状態で始められるのか?」

マスターチェイ:「それも可能だな。『ムキムキの自分』『学者の自分』──どちらも『アビリティ』としてストックできる」

リューセ:ドラクエの転職システムみたいだね。目指せ勇者!

ゼナ:同時に2人存在して、片方が片方を殺す、なんてこともあるのかな。

ガンバ:そうすると、殺す体験と殺される体験、両方できるだわさ。

アルバス:バイトの面接とかも、変なことになってるんだろうな。「あなた、本ですか? どのくらいでページ区切ってるんです? 3日? それはちょっと困るなあ。うちは長期を募集してるから」

ゼナ:「でもすぐに代わりが来ますから」……なんてやりとりがあるんでしょうね。

GM:話が長くなったけど、だいたい分かった?

アルバス:だいたいな。……でも「人生それで満足か?」って気もするな。

一同:確かに……(苦笑)。

ユナ:にゅにゅ♪ 四次元的五次元的な話ね。

GM:難しい話はさておき、多重の人生を歩めるというワケだ。

リューセ:「何にしろ、あんまり興味ないや」

マスターチェイ:「ま、『BOOK』になるのはどこか偏ったヤツが多いのは確かだな。『管理者』の私が言うのもなんだが」

エノク:「その話が事実なら……なるほど、確かに『心が器を越える』……というワケか……」



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