MOND REPLAYV

 ノックの後、ゼナの寝室にシモーヌが入ってきた。その目は少しはれている。

「どう? 具合は」

「ええ、なんとか……」

 体を起こそうとするゼナを手で制し、シモーヌはベッドの横に腰を下ろした。

「どうか……しました?」

「え……?」

「目が赤いから……」

「──ちょっとね、リルルと話をしていたの」

「リルルと?」

「あの娘、あなたのこと心配してましたよ」

「ボクのことを?」

 ゼナの口元にわずかに笑みが浮かんだ。

「そうですか……」

 ヒトを思い、ヒトに思われることの幸せ……。小さな、真実のうちのひとつ。

 シモーヌも、かすかに笑った。

「話はだいたい彼女から聞きました。……お父さんのことも。少し」

「そっか……。……なら、聞いていいですか?」

「え? ええ……」

「親子が殺し合わないで──分かり合うことは、ムリなんですか……?」

 少し間をおいて、シモーヌは答えた。

「そんなことは……ないわ」

 本当にそうだろうか。

 現に、この街は裏切りと陰謀にあふれ過ぎている。

 でも……だけど……

「ねえ、ゼナ君。家族で一緒に幸せに暮らすのが、あなたの夢なのね」

「ボクは……父さんのやさしさとか、母さんの温かさとか、あんまり知らないから……。でも……やっぱり、おじいさんは間違っていたと思う……」

 さんざん泣き腫らした目に、また涙が浮かぶ。

「もっと別の方法で、幸せになれたはずなんだ……」

 頬を、ひとすじの涙が伝う。

 透明な涙だった。

「ゼナ君……」

 シモーヌは、両手でそっと頬を包み込んだ。

 そして、涙をすくい上げるようなキス──
 

「私の夢は、この屋敷の人たちがいつか元気になってくれることなの。ううん、夢っていうより、『願い』みたいなものね」

「叶うと、いいですね……」

「たぶん無理よ。……でも私は信じてる。信じれば叶うと、信じている」

「シモーヌさん……」

「だからゼナ君も、信じてあげて。自分の夢を。願いを」

「ありがとう……ございます……」

「それから──もう、泣かないで……」

 またあふれてきた彼の涙を、シモーヌはそっとぬぐった。
 
 

  神様。

  どうかこの子たちに、幸福を……



「あ、見えてきたよー!」

 『船』の遥か向こうに、街が見える。トールの街だ。

「わーい! あれはなんて街なの、ゴーヴァ?」

「ギ……ガ……!」

「ふーん、すいじょうとしトールかァ……」

「ギ……!」

 トパーズは、少し離れて立っているシェオールに声をかけようとして、やめた。

 そしてつつつ……と近づく。

「なーに難しい顔してんの、シェオール」

「……二日酔いだ……」

「いやん☆ もー、そんなに飲まなかったでしょー、昨日は」

「黙ってろ。頭に響く」

 その言葉にぷうっと頬を膨らますと、トパーズは船の先端を──さらにその先を指差した。

「ほら見てよ。あたしたちの先には、輝く未来が待ってんのよ! だからそんな暗い顔しないの!」

「酔ってんのか、お前は……。だが──」

 ふっ、とシェオールの口元がほころぶ。

「確かに俺たちの先には、未来しかないな」
 
 

  たとえそれが、どんな未来であろうとも──
 
 

 『船』は進む──未来へと。
 
 

o be Continued…


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