「どう? 具合は」
「ええ、なんとか……」
体を起こそうとするゼナを手で制し、シモーヌはベッドの横に腰を下ろした。
「どうか……しました?」
「え……?」
「目が赤いから……」
「──ちょっとね、リルルと話をしていたの」
「リルルと?」
「あの娘、あなたのこと心配してましたよ」
「ボクのことを?」
ゼナの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
「そうですか……」
ヒトを思い、ヒトに思われることの幸せ……。小さな、真実のうちのひとつ。
シモーヌも、かすかに笑った。
「話はだいたい彼女から聞きました。……お父さんのことも。少し」
「そっか……。……なら、聞いていいですか?」
「え? ええ……」
「親子が殺し合わないで──分かり合うことは、ムリなんですか……?」
少し間をおいて、シモーヌは答えた。
「そんなことは……ないわ」
本当にそうだろうか。
現に、この街は裏切りと陰謀にあふれ過ぎている。
でも……だけど……
「ねえ、ゼナ君。家族で一緒に幸せに暮らすのが、あなたの夢なのね」
「ボクは……父さんのやさしさとか、母さんの温かさとか、あんまり知らないから……。でも……やっぱり、おじいさんは間違っていたと思う……」
さんざん泣き腫らした目に、また涙が浮かぶ。
「もっと別の方法で、幸せになれたはずなんだ……」
頬を、ひとすじの涙が伝う。
透明な涙だった。
「ゼナ君……」
シモーヌは、両手でそっと頬を包み込んだ。
そして、涙をすくい上げるようなキス──
「私の夢は、この屋敷の人たちがいつか元気になってくれることなの。ううん、夢っていうより、『願い』みたいなものね」
「叶うと、いいですね……」
「たぶん無理よ。……でも私は信じてる。信じれば叶うと、信じている」
「シモーヌさん……」
「だからゼナ君も、信じてあげて。自分の夢を。願いを」
「ありがとう……ございます……」
「それから──もう、泣かないで……」
またあふれてきた彼の涙を、シモーヌはそっとぬぐった。
神様。
どうかこの子たちに、幸福を……
「あ、見えてきたよー!」
『船』の遥か向こうに、街が見える。トールの街だ。
「わーい! あれはなんて街なの、ゴーヴァ?」
「ギ……ガ……!」
「ふーん、すいじょうとしトールかァ……」
「ギ……!」
トパーズは、少し離れて立っているシェオールに声をかけようとして、やめた。
そしてつつつ……と近づく。
「なーに難しい顔してんの、シェオール」
「……二日酔いだ……」
「いやん☆ もー、そんなに飲まなかったでしょー、昨日は」
「黙ってろ。頭に響く」
その言葉にぷうっと頬を膨らますと、トパーズは船の先端を──さらにその先を指差した。
「ほら見てよ。あたしたちの先には、輝く未来が待ってんのよ! だからそんな暗い顔しないの!」
「酔ってんのか、お前は……。だが──」
ふっ、とシェオールの口元がほころぶ。
「確かに俺たちの先には、未来しかないな」
たとえそれが、どんな未来であろうとも──
『船』は進む──未来へと。