第壱話「鼓動」

 ……これは水か? それとも……血か?

 泣いている少女。血。肉。殺戮。死。

 これは夢か? いや……これはオレの記憶。無くしてしまった過去。

 だが目覚めれば忘れてしまう。これは、夢なのだから──
 

 目を覚ますと、まだ夜明け前だった。
 

「……夢か」
 

 グレンは額にかかった前髪をかきあげると、深く息を吸った。

 夢──悪夢だったことは、覚えているのだが……。
 

「悪夢か……。無くした記憶の断片なのか、それとも……この体を流れる魔族の血が見せているのか……」
 

 グレンは──グレン=ディーザーは2年より以前の記憶を無くしていた。

 そして、それを求めて旅を続けている。

 と──

 グレンの隣で眠っていた半裸の少女が、寝返りを打った。
 

「…………」
 

 問答無用で蹴り落とす。
 

 ……ずべ。
 

「ふにぃ……ったた〜」
 

 寝癖でぐちゃぐちゃになった頭をポリポリかきながら、少女は体を起こした。
 

「何すんのよぅ、グレェン」

「誰がここで寝ていいと言った──カレン」

「女の子にベッドを譲るのは常識でしょー、も〜」
 

 カレンと呼ばれた少女が口をとがらせる。
 

「全財産が入ったサイフを落としたのは……誰のせいだ?」
 

 半眼で答えるグレン。ちっと舌打ちすると、上着を羽織った。
 

「どこ行くの?」

「外だ。お前はまだ寝とけ。それから……朝になったら仕事探すぞ。護衛でも何でもな」

「うぃーす」
 

 カレンはベッドに潜り込みながら返事をした。まだグレンの温もりが残っている。
 

「それから……」

「……まだ何かあるのぅ?」

「そんな格好で寝てたら、腰を冷やすぞ」

「グレンのえっちぃー!!」
 

 薄紫色の空が、少しずつ赤く染まっていく──夜が明けようとしているのだ。
 

「ちっ、朝日まで血の色に見えやがる……」
 

 グレンは目を細めた。彼の本当の旅は、これから始まる……。
 

 時に、テーレ1121──

GM:ジョンブリアン王国にあるクローム砂漠の南。岩砂漠が広がる荒野にザムーム族の集落がある。

ラズリ:ザムーム族って砂漠の民だよね。

GM:そう。遺跡を発掘して生活しているのだ。

フローラ:で、そんな辺境の民がどうかしたの?

GM:今いるんだよ。君とクロヌシが。

フローラ・クロヌシ:は?

フローラ:確か前回のラストで月の船に向かった──よね?

GM:(大きくうなずく)で、転送に失敗して砂漠の果てに飛ばされたの。

フローラ:な、なんと……。

GM:そんなわけで君たちはガトーという人の家で世話になっている。この人は月の民だ。

クロヌシ:お、同郷の人だな。

GM:だから世話してくれてんだよ。そんなこんなで、あれから2年の月日が流れている。

フローラ:2年も? ここから他の場所に行く方法はないの?

GM:トレーガ族の砂航船があるよ。

クロヌシ:だったらさっさと別のところに──

GM:んっふっふ。実は君たちは転送された時にいろいろな物を壊してしまったのだよ。中には非常に高価な物もあった。

フローラ:つまり弁償する代わりに働かされてるワケね。

クロヌシ:情けないな。

GM:悪いことばかりじゃないよ。ガトーさんの家には、テーレ遺跡のマザーコンピューターとつながった端末機があって、いろんな情報を知ることができるのだ。

フローラ:恋人の行方とか?

GM:それはちょっと……。

フローラ:じゃあ役に立たないじゃない。

GM:そう言わずに働いておくれよ。
 

 そんなある日のこと。
 

GM:さて、クロヌシは倉庫の整理、フローラは発掘の手伝いをしてもらうよ。

フローラ:はいよ。

GM:ガトーさんは昔いろんな武器を集めていたらしく、倉庫は武器だらけだ。

クロヌシ:2、3本もらうかな(笑)。

GM:今、君の装備している『孤月』もコレクションのひとつだよ(笑)。それより知力で判定してみて。

クロヌシ:(コロコロ)成功してる。

GM:木の箱に入った奇妙な刀を見つけた。

クロヌシ:「なんだ……これは……」
 

 それは不思議な刀だった。白木のこしらえ。まるで封印のように巻きついている黒髪。両端に結ばれた血のように赤い布。

 そして──
 

GM/ガトー:「それに触るんじゃない!」

クロヌシ:「なんなんです、この刀」

ガトー:「……触るんじゃない」

クロヌシ:「……分かりました」

GM:場面変わってフローラの方ね。君はザムーム族の人たちと一緒に発掘現場で穴掘りをしている。

フローラ:(<火球>を撃ちながら)「何を発掘しているの?」

GM/ザムーム族の男:「空中要塞アラバスターだ。もっとも、こいつが本当にそんなたいそうな物か怪しいもんだし、本物だとしても、この大きさだと何年かかることか……」

フローラ:「空中要塞……。とんでもない物が埋まってんのね」
 

 それから数日後──

GM:君たちが昼飯を食べていると、外から爆発音と悲鳴が聞こえてくる。

クロヌシ:何事だ? 外に飛び出すぞ!

GM:血を流しているガトーやザムーム族の人たち、崩れた建物、そして血に濡れた爪を光らせる亀人。

クロヌシ:「て、敵……?」

GM:とまぁそんなワケでガトーさんや砂漠の民の人たちが襲われているんだが……(ヘクスの上にコマを並べる)。

クロヌシ:戦う準備をする。

GM:準備はしていいよ。ではイニシアティブを振ろう。

クロヌシ:(コロコロ)はぅわっ、1!

GM:さ〜ん。じゃ、こっちから攻撃。ザコ1が爪で斬りかかる。(コロコロ)一応当たってる。

クロヌシ:じゃ、「受け」な。(コロコロ)成功だ。

GM:ちっ、んじゃフローラにもザコ2が攻撃。(コロコロ)あ、こっちは外れた。亀人ふたりはガトーさんをザコにまかせて(ガトーの)家の中に入っていく。奥の方に行くぞ。んで、ザコ3が家の入口をふさぐ。

クロヌシ:よし、こっちの番だ。刀で普通にザコを攻撃な。あ、俺は2回攻撃できるから。(コロコロ)当たった。

GM:だめ。よけらんない。

クロヌシ:言っとくが、ダメージすごいぞ。(ゴロゴロゴロ〜)37点──の切り。

クレリア:すっごーい。

GM:ううむ、さすがザコと言うべきか……一撃だね(笑)。

クレリア:ザコでなくてもやばいと思いますけど。

グレン:それってオレがくらっても死ぬ(笑)。

フローラ:次アタシ? 魔法銃を撃つ。(コロコロ)当たってるわ。

GM:これってよけられるよね?(コロコロ)ああ、駄目だ。

フローラ:ダメージ3D6(コロコロ)──って5点。

一同:ごぉぉ?

GM:さすがにそれじゃ死なんな。
 

 この後、クロヌシは2回目の攻撃でもう1匹をほふった。残るザコは1匹。
 

クロヌシ:イニシアティブ、2。

GM:……こっちは6だけど。

クロヌシ:なんかサイコロの目悪りーな、俺。

GM:んじゃ、フローラに攻撃だ。

フローラ:ダメ。よけられない。

GM:(コロコロ)8点のダメージ。
 

 この攻撃でフローラが転倒&朦朧(生命力が6しかない)。
 

クロヌシ:フローラ、今いくぞ! でやぁぁっっ(コロコロ)……スカ(笑)。
 

 次のイニシアティブはクロヌシが取った。
 

クロヌシ:よっしゃ、もう一度攻撃! 龍翔閃だ!

GM:……それは違うと思うぞ(笑)。

クロヌシ:ダメージは──33点の切り。

GM:はいはいはい(ザコのコマを吹っ飛ばして)ずしゃぁぁぁ(笑)。

グレン:なんか戦闘系と非戦闘系の差がでかいな。

クレリア:ほーんと。

GM:これでザコは全滅か……。あ、それよりガトーさんが倒れてるんだけど。

クロヌシ:駆けよるぞ。「ガトーさん、大丈夫っスか?」

GM:見りゃ分かるけど傷だらけだぞ。

ガトー:「か……刀を……」

クロヌシ:「刀? 刀とは何のことですか?」

フローラ:「どこにあるんですか?」

ガトー:「(と、とぼけやがって)い、いけずぅ(笑)。 パタッ」

クロヌシ:「こらっ、起きろ!」 げしげしげし。

ラズリ:そのダメージの方が大きいんじゃ……。

クロヌシ:「くそぉ、よくもガトーさんを……」

GM:死んでない死んでない(笑)。 気絶しただけ。

クロヌシ:「フローラ、回復してやってくれ! 俺は中へ向かう!」

フローラ:「回復? <火球>で?」

クロヌシ:「ちがう!(笑)」
 

 で、ガトーの家の倉庫。
 

GM:亀人たちが倉庫をあさっている。

クロヌシ:「貴様ら、何をしている? 家宅捜査なら令状が必要だぞ……」

GM:亀人たちが君の方を向くよ。 ところでフローラ、君知力16だっけ?

フローラ:そうよ。

GM:(コロコロ)はるか砂漠の彼方から亀人たちの援軍が近づいてくるのが見える。かなりのスピードで。たっぷり(笑)。

クレリア:なるほど。つまりそれは──

ラズリ:逃げるしかないってこと?

クロヌシ:刀はどうするんだ?

GM:んーそうだな……。亀人たちは刀を入れた箱がどこにあるか知らないから。……君は知ってるよね?

クロヌシ:(うなずく)

フローラ:ひょっとして刀取られないと始まらないワケ?

GM:(逆だよ)

フローラ:とりあえずクロヌシに伝えよ。 「(倉庫まで走ってきて)クロヌシ殿! 援軍が来られたぞ!」

グレン:ちがうって(笑)。

クレリア:敵の増援ですってば!

GM:援軍は味方やん(笑)。

フローラ:(気を取り直して)「クロヌシ殿! 敵の援軍が現れた!(しゅたっと手をあげて)しからば!」

クロヌシ:「逃げるなあ!(笑)」

クレリア:あの〜フローラさんってオカマだったんじゃ……。口調が変ですよ。

フローラ:あ。

クロヌシ:「フローラ!  こいつらは俺が食い止めるから刀を持っていけぇ!」

フローラ:「何をおっしゃるんですかクロヌシさん。……それじゃアタシはお先に失礼するわ!」

一同:(爆笑)

クロヌシ:「逃げるなとゆっとろうが!」

フローラ:ところで刀ってクロヌシが持ち逃げできる状態にある?

GM:あるよ。

フローラ:アンタ、持ち逃げする?

GM:ただし、敏捷力判定は必要だぞ。

クロヌシ:うーん。ここは刀を取ってからひとまずひくか。(コロコロ)マイナス13成功。

GM:13んん?  それって──

グレン:それってクリティカルじゃねーか?

GM:じゃ、余裕だね。刀を箱からつかみ出していいよ。うーん、これはまさに神速!

クロヌシ:飛天御剣流かい! ま、いいや。きびすを返してフローラと逃げるぞ。

フローラ:ついでに家に火をかける余裕はある?

クロヌシ:かけるなあ!(笑)

GM:もちろん亀人たちは追いかけてくるよ。
 

 んで、外──
 

クロヌシ:ガトーさんにもう一度事情を聞こう。

GM:え〜と、そろそろ援軍に囲まれるころなんだけど。亀人たちも迫いついてくるし。

フローラ:突破しなくちゃいけない──ワケね。

ラズリ:ここで天の恵みがあるんじゃない?

GM:(ありますよ)ガトーは「詳しいことは後だ。……許せよ」と言って何かアイテムを取り出す。それが光ると同時に君たちはどこかへ転送される。

クロヌシ:また転送かぁ〜!



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