OP.3[夜毎、神話がたどりつくところ]-a tale for you- 01


もしかしたなら この森の彼方には
夢見た国が あるのだろうか
 

やがては ちいさな者にさえ
やすらぐ場所へと 照らすように
 

帰らない 大地開く
鍵が導く その先に
夜毎に 生まれかわる
神話が たどりつくところ

MNN Presents
【MOND REPLAY 完結篇】
 OP.3[夜毎、神話がたどりつくところ]
-a tale for you-

 

 記憶という名の夢を見た。

 それを夢というのか分からないし、ボクの知らないボクの記憶だったけれど。

 そこは『紫の中空』と呼ばれる場所で、そこはかなしみに満ちていた。




ガルフ:「こんなところで何をしている? ラズリを探しているのか? それとも……」

ラグランジェ:「あなたを殺すために……ここで待っていました」

ガルフ:「やはりそういうこと、か……。(フッと笑って) そこをどけ。オレにはやることがある」

ラグランジェ:「見殺しにするんですか……ラズリさんを」

ガルフ:「ああ……。オレはラズリを救いに来たんじゃない。世界を救いに来たんだ」

ラグランジェ:「このままでは、ラズリさんは『生け贄』として『紫の中空』に捕らわれ続けることになる……永遠に。永遠の束縛……そんなことは、絶対にさせない……」

ガルフ:「だが『儀式』を中断すれば、『扉』が完全に開いてしまう。……どういうことか分かるか?」

ラグランジェ:「世界の、融合……」

ガルフ:「そう……いわゆる『人間界』と『魔界』が一つになるんだ。だが一つの場所に二つのものは同時に存在することはできない。時間と空間は崩壊し……世界は消滅する」

ラグランジェ:「だから、彼女を犠牲にするんですか? あなたは……ラズリさんを愛してたんじゃなかったんですか?」

ガルフ:「…………。──世界を救うことが、オレの任務だ」

ラグランジェ:「世界なんかどうでもいい。ラズリさんが救われるなら……それでいいじゃないですか」

ガルフ:「世界が滅びればどのみちおしまいだ」

ラグランジェ:「ラズリさんが全てなんだ……。ラズリさんを守ることがボクが全てなんだ!」

ガルフ:「どうやら貴様とは話すだけ無駄のようだな。邪魔をするなら……容赦はしない!」
 

 刀を構えるガルフ。二本の剣を構えるラグランジェ。そして……闘いが始まった。

 刃が交差する。一撃、二撃、三撃!
 

ガルフ:「なかなかやるじゃないか」

ラグランジェ:「そいつはどうも」
 

 四撃、五撃──斬馬刀がうなり、魔法が炸裂する。
 

ガルフ:「ラズリを救うって言ってたな……。どうやって助けるつもりなんだ?」

ラグランジェ:「ボクには何もできない……。でもあの人がきっとラズリさんを罪の束縛から解き放ってくれる!」

ガルフ:「『鍵』の運命から逃れる方法は『死』しかない……。それも、分かってるのか……?」

ラグランジェ:「でもこのままじゃ……」

ガルフ:「ラズリは死ぬわけじゃない! 『紫の中空』で、生き続けるんだ!」

ラグランジェ:「肉体が滅びて……魂だけが永遠に暗闇の中を漂い続ける……。そんなの……そんなの生きてるって言わない! そんなの……死ぬよりむごい……」

ガルフ:「だからラズリに『死』の安息を与えるのか? 世界も滅びて、それで全ておしまいか? ふざけるな! 生きていれば……生きてさえいれば助けることだってできる! オレは……ラズリも世界も救ってみせる!」

ラグランジェ:「そんなことは不可能だ! 思いつきでいいかげんなことを言わないでください!」
 

 ラグランジェの剣が、ガルフの太ももを貫く。そして、魔力のこもったもう一本の剣での渾身の一撃!
 

ラグランジェ:「ぜえ………ぜえ………ぜえ………」

ガルフ:(口元の血をぬぐいながら) 「だいたいなぜ『紫の中空』はラズリを求めているんだ? ……お前の心が、ラズリを求めているからじゃないのか?」
 

 ラグランジェの、動きが止まる。
 

ラグランジェ:「ボクは……ラズリさんを守りたい……。苦しんでほしくない……。幸せになってもらいたい……」

ガルフ:「……違うな。お前はラズリに助けてもらいたいんだ。”ラズリを愛すること”で救われたいと願っているだけだ。そんなのは……愛じゃない」

ラグランジェ:「違う……。違う……」

ガルフ:「……お前は今まで、あいつの何を見てきたんだ? 世界が滅びて自分が救われるなんて結末……あいつは望んでなんかいない!」

ラグランジェ:「違う……。ボクは……。ボクは………!」
 

 それが夢の終わり。

 『紫の中空<ボク>』が覚えている、かけらのひとつ。

 それはまざり、弾け、浮かび上がる。

 命の場所。胎動し、うまれる。集い、消えゆく。

 何が見たいの? 何が聞きたいの? 何が欲しいの?

 <それ>は呑みこみながら吐き出し、全てに手をのばす。

 ボクはもう<それ>ではないのかもしれない。

 助けたいと思ったから。彼女を。世界を。

 今なおボクを包み、<それ>を包みこんでくれている彼女を。ここから連なるその世界を。
 

 『オレは……ラズリも世界も救ってみせる!』
 

 今なら、きっと。

 きっとできるはずだから。だからボクは──ボクらは、うまれた。<それ>の中から。

 ミナモト=フウゲツは走っていた。

 土砂降りの雨に目を細め、水溜りに足を取られないように視線を下に向けながら、頭では全然違うことを考えていた。

 シュリと共にアーケインに戻ってきてから数週間。

 今のところエミリーもおとなしくしており、他にそれといった事件も起きていない。

 ただ、2日前にシアから気になる報告を受けていた。
 

 『結界』の力が、強くなってきています……
 

 それは、昨冬のような暴走ではなく、例えるなら期待に胸を膨らませてワクワクしているような、そんな高揚であるらしい。

 フウゲツ自身は今ひとつピンとこなかったが、何かが起こりそうな予感はしていた。

 そしてそれを裏付けるように、昨日3人の少女の姿を見た。

 スノウと、ノエルと、銀髪に黒い翼を持った少女……

 彼女たちは何かを楽しそうに話しているようだった。
 

 そして今、フウゲツはノエルの声に従って走っている。

 自分の名を呼ぶその声を最初は空耳かと思った。夜の見張りが終わりぼんやりした頭で寮まで戻り、激しい雨が窓を打つ音に耳を傾けながらうとうとしていたが、しかしそれは間違いなくノエルの声だった。
 

 ……中央広場に急いで! 早く!

(なんだ……? 何が起ころうとしている……?)
 

 何かが近づいてくる。何かとんでもないことが起ころうとしている。そんな予感。

 くるぶしまで水に浸かってしまいそうな状態の大通りを駆け抜ける。

 中央広場ってこんなに遠かったっけと思いながら、見えてきた広場に向かって泳ぐように水を吸って重くなったズボンがからみつく足を前へ蹴り出す。

 中央広場の大穴はまだふさがれていない。突貫工事でとりつけた柵の隙間から、雨水が小さな滝となって地下へと流れ込んでいる。
 雨音。遠く、地下から響いてくる水音。木々のざわめき。通りを吹き抜ける風の音。看板が揺れ金属がこすれる音。いつもより鮮明に聞こえる気がする自分の息遣い。

 辺りに油断なく目を走らせる。何かが近づいてくる気配はますます強くなっている。

 レイチェルもユリアもいない。シュリはまだ戦える状態ではない。カーキたちは砦の方だ。

 ……今戦えるのは自分だけ。
 

 ──りぃぃ……ん……!!!
 

「!!?」
 

 鈴の音にも似た耳鳴り。音? 音ではない。では何だ。強いて言うならば……『空間』が震える『音』?
 

 なんだそれはと自分で自分の考えを否定したとき、今まで全身を打っていた強い雨が突然やんだ。

 まるで神の降臨を知らせるように、太陽の光が巨大な柱となって中央広場に降り注ぐ。

 見上げると、厚い雨雲にぽっかりと丸い穴が空いていた。吸い込まれそうな青い空がその向こうに見える。
 

「…………」
 

 呆然と光の柱を眺めていると、やがて穴は次第に小さくなり、再びフウゲツの顔を雨が打ち始めた。
 

「……なんだったんだ?」
 

 ……──ィィィィィン!!!
 

 フウゲツの問いかけに答えるかのように再びあの『音』が耳をつき、次の瞬間、

 地下から……地底湖の中心から巨大な光の柱が出現し、空を貫いた。



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