「大将をお城の外に、ですか?」
出水屋・堺本店、母屋の縁側。茶を運んできた少女が目を丸くする。
「今さら驚くことでもない。冬もやったでしょう」
「冬とは事情が違います」
確かに、冬にも同じように戦場から人を落とす仕事を請け負った。しかし冬に落としたのは名も無き侍大将、今回は……
「長宗我部盛親。大坂城五人衆のひとりです」
戦そのものの激しさも違う。
「人助けですよ。いつもの戦場漁りよりはるかにいいでしょう?」
少女の方に目を向ける。胸元の十字架が夕日を反射してきらきらと輝いている。
「その道のりが困難であればあるほど、『神の試練です』って喜ぶのがキリシタンなのではないのですか?」
「キリシタンは別に自分を苛めて喜んでるわけじゃないです」
少女が口を尖らせる。
「こんな話を持ってこられた以上、受けないのは人の道に反するとは思いませんか?」
「それは……そうですけど……」
「なに、幸いうちにはあなたも含めて腕の立つ若いモンが何人もいます。向こうも土佐の侍を二人、つけてくれるらしいですからね」
「…………………………」
「若い連中だけに命を張らせるわけには行かんでしょう。ワタシも行きますよ」
「え? 本気ですか?」
「もちろんです」
湯呑みのお茶をゆっくりと飲み干して立ち上がる。
「人数の選定をします。お雪さん、人別台帳を持ってきてください」
GM:というワケで、選ばれた若い連中ってのが君たちです。自己紹介よろしく。
プレイヤーP:まずは元締めであるワタシから。堺の商人の、出水屋茶次郎 煮鶴(いずみや さじろう にかく)です。詳しくは……プロローグを熟読してくだされ。
GM:では、次。
プレイヤーD:武家の娘でキリシタンの、竹閑雪(たけしず ゆき)です。私も、プロローグに出てますね。漁りはやってなくて、むしろみんなを止める立場です。彼らの行為が人の道を踏み外さぬよう、また戦死者の供養をするために戦場に足を運んでます。
プレイヤーB:巫女さんの絵夢(えむ)です。堺の街で、表向きは庶民として暮らしてます。で……裏の顔はアウトロー専門の闇医者(笑)。今回はみんなが戦場の真っ只中に行くようなので(PCたちは、普段は戦が終わった跡を漁っている)、回復役としてついていきます。
GM:んじゃ、次。ここからが漁りを本職にしてる連中だな。
プレイヤーA:ボクの名前はドットコム。イギリスから来たスパイで、虚無僧のかっこうしてるネ。
彼が戦場漁りをやってる理由は、現場の様子をレポートしたいが虚無僧なので直接戦闘に参加できないから。
このような仕事をしていれば自然と戦の情報も入ってくるという見込みがあると考えたのだ。
元は一人で細々と戦場を回っていたが、この集団と出会い、仲間になったほうが何かと便利だろうと思ったらしい。
プレイヤーC:人形師で腹話術使いの空雅堂(くうがどう)です。死体漁りで生計立ててます。詳細は、謎(笑)。
GM:では、最後。
プレイヤーH:烏丸唯樹(からすま ゆいき)です。この中では唯一の前衛かな? 我流の刀使いで、「好色」です。
GM:では始めよう。プロローグにあるように、一向宗西本願寺の者と名乗る男が書状をたずさえてきている。さる高名な坊さん──林豪──の弟子であるらしい。
プレイヤーA(以後、僧ドットコム):(書状を見て)「なにこれ、ワカラナイヨ〜! アナタボクをバカにしてるネ〜」
プレイヤーB(以後、絵夢):「黙ってろ(笑)」
GM:読んでみると、「あなたたちの噂は聞いている。頼みたいことがあるから伏見まで来てくれ」といった内容だ。
絵夢:つつしんでお断りいたします。
プレイヤーH(以後、唯樹):……受けないの?
プレイヤーP(以後出水屋):受けます受けます。
僧ドットコム:「よめないヨ〜! だれかよんでヨ〜!」
プレイヤーD(以後お雪):「静かにしてください」
唯樹:さるぐつわ、かましちゃうよ?
プレイヤーC(以後、空雅堂):虚無僧だから外からは見えないしね、さるぐつわ。
GM:伏見の方まで移動して、いいのかな?
お雪:いいですよ。
場面は、一気に林豪の屋敷の前まで飛ぶ。
絵夢:(屋敷を見上げて)「デッカイね〜!」
GM:確かに、デカイ。
絵夢:こんなとこにお坊さんが住んでるんだ……。
GM:大名とか来ることもあるしね。
唯樹:「たのも〜!」
絵夢:「書状を受け取った者ですがー!」
GM:そこらへんはあっさり通してくれる。奥に通されて、広い部屋に案内される。
僧ドットコム:正座できないヨ〜!
お雪:お庭にでも出ててください。
絵夢:庭の木に縛っておこう。
GM:……そういうことするんだ……。
絵夢:いつものことだから。(PCたちが住んでいる)長屋にひとつだけ、犬小屋ってのがあるの。
僧ドットコム:イスないの、イス〜! ぷりーす!
GM:こんなとこにはないよ。
待たされることしばし。奥からいかつい坊さんが姿を現した。
出水屋:アニキなかんじ?
GM:そうだね。この人が林豪だよ。
僧ドットコム:アナタ林豪ちがうネ〜! アップルはもっとあかくってまるくっておいしいヨ〜!
唯樹:……殴ろう。
GM:ついでにやっぱ縛っておけ。
林豪:「よく来てくれた」
絵夢:「いえいえ、お招きとあらば地の果てまでも」
林豪:「その方らの活躍は聞いておる」
お雪:どんな活躍なんでしょう……?
GM:俗に言う悪名だね。出水屋の知り合い経由で話を聞いていて、何となく思い出したってかんじ。
林豪:「依頼は受けてもらえるのだな?」
絵夢:「はい。詳しいお話をお聞かせください」
林豪:「そのへんのことは依頼人から直接聞いてもらうことにしよう」
その言葉とともにふすまの向こうから姿を現したのは、こぎれいな格好の侍だった。
侍(プレイヤーE):やっと出番か……。
GM:ついでに、コイツも出しておこう。NPCです。
絵夢:侍……っていうか、少年?
お雪:女の子みたいですね。
出水屋:『幕末純情伝』の牧瀬里穂のようだ。
一同:なつかしー……。
侍:「えーと単刀直入に言うと……」
唯樹:「どうでもいいけど、まず名を名乗れよ」
一同:(苦笑)
僧ドットコム:人にものをたずねるときはまずじぶんからなのるものなのネ〜!
お雪:てゆーか、誰も何も尋ねてないですから。
侍:「し、失礼した。──拙者は土佐藩の……」
GM:まだ土佐藩はないよ。
侍:「そ、そうか……。土佐の長曽我部家に仕えている……仕えていた……? 仕えていた、でいいんだっけか……」
絵夢:ひとりでなんかブツブツ言ってる……。コワーイ……。
侍:「土佐の長曽我部家に仕えていた、椎名一盛(しいな かずもり)と申す」
お雪:椎名……。だから林豪なのかな……?
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