GURPS・EDO―薩摩編―(拾弐)

 ――翌朝。

 宿の前で托鉢をしているトン和尚のもとに、ひとりの女が歩み寄ってきた。

 彩だ。

 すれ違いざま、互いに逆の方向を向いたまま何事かを呟く。

 二言三言交わした後、彩はトンの元を離れ町の人ごみへと消えていった。

ヤン:駕篭が出た?

彩:そうみたい。

桂川:なるほど、昨夜聞いたのはその音だったんだね。

彩:……あたしたちは何をやっていたんだろ……?

桂川:だぁってぇ、足音には気づいたけど何も見えなかったんだもん。

レモン:寝てたしね、あたしら(笑)。

桂川:とにかく、その駕篭の行き先調べようよ。

レモン:どうやって?

ヤン:夜中だよ? 誰も起きてるわけないじゃん。

トン:今の時代(20世紀末)だって三越(鹿児島三越。繁華街のど真ん中にある)に宝石泥棒が入ったって誰も見てなかったような町なんだぞ。

彩:客を連れ去ったわけじゃないんだよね?

GM:うん。客の間でもそんな噂は聞かない。

彩:そうだよね。別にあたしたちが何かされたわけじゃないし。

ヤン:こんなにかわいい女の子が四人もいるのに。

桂川:……それは自惚れの可能性が……(笑)。

大内:おそらくどっかに蓄えてた女を連れ出したんだろうなぁ。

彩:その駕篭がどこのかは分からない?

トン:暗かったので……。

桂川:夜まで待ってみる?

ヤン:何人か集まってから連れ出すんだろうから……。

トン:今夜来るとは限らないぞ。それよりも来たところを押さえたほうがいいんじゃないかな。

桂川:桜岳屋さんにお花ちゃん貸してもらおっか。

ヤン:それはまずいんじゃない?

大内:コトが事だけにかなり危ねーし。

彩:別にお花ちゃんである必要はないでしょ?

ヤン:変装する?

レモン:というより、磯の人になりきっちゃえばいいんじゃない?

トン:囮か。

大内:しかしよ、磯の人間なんてのは向こうもある程度把握してんじゃねぇか?

桂川:今さら桜岳屋の長女です、なんて言ってもねぇ。

彩:仙巌園があるじゃない。

レモン:そこで働いてる娘さんも被害にあってるって言ってたね、そういえば。

ヤン:……また磯に戻るの?

彩:何とか仙巌園で働けないかなぁ。

レモン:働くって言っても殿様の別邸でしょ?

トン:逆に働きやすいかも知れない。家老に聞いてみよう。

ヤン:「とまあ、これこれこういうわけで囮捜査したいんですが……」

有園:「誰が行くのだ?」

彩:「あたしですが」

有園:「分かった。しばし待っておれ」

GM:そう言うと有園は書類の束から何か一枚、とってきて、

有園:「これが紹介状だ。持っていくがよい。以上だ」

GM:――って渡してくれるよ。

彩:わぁい、簡単だぁ。

ヤン:じゃあ、行こうか。

GM:というワケで磯まで戻った一行、そして仙巌園に潜入することになった彩。

彩:武器とか鎧とか置いていった方がいいよね?

GM:そりゃそうだろう。

彩:んじゃ……破戒僧になぎなた預けておく。

大内:よしよし、任せておけ。

彩:服も、普通の町娘みたいなの着ておくから。

GM:分かった。では、綾は仙巌園に潜入した。他の者は外で待機ってことで――さぁて、どうするのかな?

トン:これ(彩)が駕篭に乗って出て行くまでずぅーっと待っておく、ってのは?(笑)

ヤン:何日かかると思ってんの?

GM:忍者使えよ、忍者。何のための技能だよ。

トン:おお、そういえば。

ヤン:自分が忍者だってこと、すっかり忘れてた(笑)。

桂川:じゃ、ヤンとレモンに仙巌園に忍び込んでもらおう。

ヤン:天井の板を丸々一枚はずして顔をのぞかせる。

大内:でもなぜか誰も気付かないのな(笑)。

彩:ということでよろしいでしょうか。

GM:はいな。では三日が経ったと思ってくれい。

ヤン:やったー、これでだいぶ傷が回復したぞー。

GM:で、分かったことを順にあげていくよ。

彩:うん。

GM:邸内には彩以外、若い女性の姿は見えない。みーんなさらわれちゃったか、あるいはさらわれるのを恐れてやめちゃったかだ。

大内:なるほどな。

彩:他には?

GM:そんだけ。んで――

トン:ちょっと待て(笑)。さっき、『順にあげる』って言わなかったかい?

GM:知らん。さて、三日経ったんだけどね。

彩:うん。

GM:ひとりの侍が君に目をつける。曰く、

GM/侍:「お城のほうで女手が足りなくてな。すまんがお主、鹿児島まで来てはもらえぬか?」

桂川:おいでなすったね。

彩:「分かりました。謹んでお受けいたしましょう」(といって天井裏に目くばせ)

ヤン:(小声で)「いよいよだね。みんなに伝えてもらえる?」

レモン:(同じく小声で)「はいはい。その間、見失ったらいかんよ」

レモン:と、いうことなんだけど。

大内:ついに来たか。出発はいつなんだ?

レモン:明日。昼過ぎだって。

桂川:よし、追跡しよう。

大内:みんなでぞろぞろと? 不自然じゃねぇか?

桂川:そっかぁ、そうだよねぇ。

トン:磯から錦江屋までの道筋は分かってるわけだし、道々要所要所に伏せておいた方がいいのでは?

レモン:んで、駕篭が通ったら順次ついていく、と。

桂川:なるほど、というとあれだね、道端で四股を踏んでいた力士が通りがかった駕篭を見て突然さりげなく汗を拭きながらついて来る、みたいな(笑)。

レモン:そうそう、それそれ。

大内:しかもみんな横一列に並んでな。

桂川:かえって不自然じゃない、それ。

トン:よし、それ全部採用しよう。

GM:……マジ?

GM:駕篭が進んでいく。今回のはちょっと豪華な駕篭だよ。

彩:いやー、楽でよいわ。

大内:そしてその後ろにゾロゾロと……。

桂川:(花冠など作りながら)「おほほほ、春はよいわねぇ」

GM/村人:「おんや〜、何やら駕篭が来たようじゃのぉ」(←何弁だ?)

桂川:「まあ、よく見たらもうこんな時間(←何を見たんだ?)。そろそろ帰らなくては」(そそくさ)

レモン:で、列に加わるのね。

トン:しかも横一列。

ヤン:ザッザッザッザッ、と。