くせ

LucA presents

 

 ――頭では忘れたつもりでも――

指が覚えてる

      (あなたへ続く番号(ナンバー)を)

体が覚えてる

      (あなたのぬくもりを)

指が覚えてる

      (あなたがくれたリングのあとを)
 
 
 

「それ、くせだね」

「……えっ?」

「それ、右手の薬指さわってんの」

「えっ.あ、ごめんなさい」

あわてて指をはなす。

「変なの。あやまることないじゃん」

「そ、そうだね……」

――忘れたつもりなのに――

くせがなおらない。

あの人にもらったリングはすてたのに……

リングだけじゃない……アルバムも、服も、イヤリングも……すべてすてたのに……

――忘れなきゃ、もう――

照れ屋なところが好きだった。

やさしいところが好きだった……しぐさやくせや……まだ覚えてる。

――でももう終わったんだ――

私が終わらせた。

私が信じなかった……勝手にうたがって……キズつけて……

――だからこれからは、目の前にいる彼のこと――

ずっと好きでいる。
 
 
 

「どしたの? ぼ〜っとして」

「ううん、なんでもない」

「今日何か変だよ。何かあったの?」

「ほんとに何でもないの、気にしないで」

本当に心配そうな顔されたからあわてて笑顔で答える。

「ならいいけど……」

それでも少し不思議そうにしながら彼が目を外に向ける。

冬の日差しがやさしく彼を照らしてる。

日に当たった彼の髪が茶色く透けてみえる。

くせのないさらさらの髪が彼の目に少しかかって……

――きれいだね――

目を細めて外で遊んでる男の子達をみてる。

「……ん……?!」

私の視線に彼が気づいてこっちをみる。

「……髪の毛、日に当たって茶色にみえるね」

「ん、僕もともと茶色っぽいからね……。それよりさ、あの子達元気だね」

「そうだね、寒いのに半ズボンで走ったりして……」

「だけどさ……あっ」

「だけどね……えっ」

2人の声が重なる。

思わず顔を見合わせてふきだす。

「今、昔僕達もそうだったって言おうとしたんだろ?」

「ん」

うなずく。

「……そろそろ出よっか」

「そうだね」

「今日は僕がおごるよ」

「えっ、悪いよ、それって」

「いいからいいから、おごらせてよ、ね?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

店を出て街を歩く。

「そうだ……。あ……ちょっと待ってて」

そう言って彼が人ごみの中に消えてく。
 
 
 

「はい」

小さな包みを手渡された。

「何? これ……」

包みを開くと……シルバーのリング……顔をあげると照れくさそうな彼の瞳と出会った。

「指が何か……つけたそうだったからさ……」

「……ありがと……大切にするね」
 

――あなたも、リングも――
 

<fin>


あとがき
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