Brand-new Heaven2 #6

僕とアイツと彼女の話



 あたたかさ。やわらかさ。おもさ。

 そんなものを感じて……僕は目を覚ました。

 見覚えのある天井。見覚えのある部屋。

 暗くてよく分からないが……そこは間違いなく僕の部屋だった。

 目覚し時計に目をやると「3:00 am」というのが見えた。

 まだ熱帯夜が続く、夏の夜――の、僕の部屋。
 

 ……そこになんで……なんで二葉がいるんだ……?
 
 
 そう。

 夢でも幻でもなく。

 僕のすぐ横に……パジャマを着た二葉がいた。
 

「う……へ……?」
 

 あたたかさ。やわらかさ。おもさ。 

 二葉が女の子であるということ。

 そういうことを急に意識してしまい……顔が赤くなるのが自分で分かった。

 と……
 

「んあ……?」
 

 二葉が目を覚まし……
 

き、きゃああああああああ!
 

 百瀬家に、絶叫が響き渡った。

 


 飛び降り自殺未遂事件から早3日。

 夏期講習がメチャクチャになったので次の日が補習日になったり(これには全校生徒が泣いた)、マスコミが来たり、二葉が病院に行ったり警察に話を聞かれたり、飛び降りた子の見舞いに行ったり……と平穏とは言えない日々が続いていたのだが、それでもやっと一息つけたとこだったのだ。
 

 それが何で……って全然関係ない気もするが……とにかく、何でこーゆーことになってるんだ?
 

 混乱と驚きで、まだ心臓がバクバクいっている。
 

 どうやら……母さんたちは目を覚まさなかったみたいだな……。
 

 とりあえずそのことに安心し、僕は改めて二葉の方を見た。

 半袖の上着に七分丈のズボン。そんなデザインのパジャマを着た二葉が、きょとんとした目で同じようにこっちを見ている。
 

「あ……なんだ、カズちゃんか。……オバケかと思った」

「つーか……もっと他に驚くことあるだろ?」

「ここって……カズマの部屋……? ……なんで?」

「知るか」

「………………。……ねえ」

「うん?」

「これって……ヤバイ?」

「たぶんな」

「だよね。……一応、お年頃の高校生だもんね」

「いや、つーか…………やっぱ超能力か?」

「へ?」

「やっぱまた……超能力なのか?」
 

 確認するまでもなく、こういう不可解なことが起こったときはまず間違いないだろう。
 

「てことは……『テレポーテーション』ってやつ? ……やったぁ!」

「……喜ぶなよ」

「だって、一番欲しかった『力』だもん。――便利だよ〜、きっと」

「――で、どうやってここに来たんだ?」

「さあ」

「さあ……って」
 

 なんだか……気が抜けてしまった。

 さっきまで感じていた、ちょっとエッチなドキドキもおさまってしまっていた。
 

 つーかオレ……二葉のことそういう風に見てたってことか……? ……マジかよ。
 

「あはは……どうやって帰ろう……」

「どうやってって…………そーだな。1、今から歩いて帰る。2、何とか超能力を使って帰る。3、……夏休みだし、今夜は泊まっていく」

「3でいい。眠いし」
 

 即答ですか。……いや、でもそーすると俺は……
 

「んじゃ、寝るね。……こっち来たら怒るからね。できれば別の部屋で寝てね。おやすみ〜!」

「ちょっとまて、おい! ……ってぇ」
 

 横になってわずか数秒で――二葉はもう夢の中にいた。
 

「冗談じゃねーぞ……。ったく……」
 

 ひょっとしたらそれはたぬき寝入りだったのかもしれないし、二葉なりの照れ隠しだったのかもしれない。

 でも僕にはそんな風に考える余裕もなく……ゴチャゴチャでモヤモヤとした気分のまま、床に転がった。

 案の定、なかなか睡魔は襲ってきてくれなかった。


 とにかくこうして。二葉は7つめの――最後の超能力に目覚めた。
 

 そして……1ヶ月が過ぎた。


 9月の半ばになっても、まだ残暑は続いていた。

 そんなある日のこと。

 話があるという新崎とともに、僕と二葉は学校帰りにファミレスに寄った。
 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「チョコパフェを」

「宇治金時ください」

「イチゴミルク」
 

 ちなみに新崎がチョコパフェで二葉が宇治金時、で、僕がイチゴミルクである。
 

「で、話ってなんだ?」
 

 ウェイトレスが向こうにいくのを待って、僕は新崎に話をうながした。
 

「えとね……あれから1ヶ月ぐらい経ったでしょ? でね、二葉の能力の統計を取ってたんだけど……どうやら『力』が安定してきたみたいなの」

「安定?」

「ええ」
 

 新崎はカバンからルーズリーフを取り出し、丸っこい字で何かを書き始めた。
 

「ニイザキって、結構字、ヘタなのな」

「……ほっといて。――これを見て」
 

 紙に目をやる。どうやらそれは、二葉の超能力を書き出したものらしかった。
 
1.サイコキネシス(PK)
2.透視(クレアヴォヤンス)
3.物品引き寄せ(アポーツ)
4.遠隔視(リモート・ビューイング)
5.読心(マインド・リーディング)
6.空中浮揚(レヴィテーション)
7.遠隔移動(テレポーテーション)

「この7つが、二葉の能力よ。最初は発動条件も発動期間もバラバラだったけど……さっき言ったように最近安定してきたみたいなの。しかも、法則があるみたい」

「そうなのか?」
 

 僕の問いかけに、新崎はこっくりと首を縦に振った。
 

「『力』はほぼ24時間ごとに変わるようね。順番はランダムだけど。で、その7日間のうちは同じ『力』は発動しない」

「……どういうこと?」
 

 当人である二葉は首をかしげている。
 

「お前、自分のことだろ……? つまり……例えば、最初の7日間――一週間はこの紙に書いてある順番に『力』が発動したとするよな。でも次の週は下から順に発動するかもしれない。でも、同じ『力』が2日続いたりすることはない」

「そう。だから週の後半になれば、どの『力』が発動するか予想しやすくなるの」

「えーとつまり……月月火火木金金って風にはならないってことね?」

「よくわかんない例えだけど……まあ、そういうことね。……と」
 

 パフェが運ばれてくるのを見て、新崎はあわててルーズリーフを裏返した。

 テーブルの上に置かれたパフェやらかき氷やらを、しばらく無言でつつく。
 

「で、さ……、ちなみに今日は何なんだ?」

「今日はね、『アポーツ』だよ」

「今日は金曜よね。じゃあ……明日は『マインド・リーディング』だわ。……日曜日がサイクルのはじまりみたいだから」

「読心かぁ……。明日は家にいよーっと」
 

 そうすれば、他人の『心の声』を聞かなくてすむからだ。
 

 なんか……うまくコントロールする手段があればいいんだけどなぁ……。
 

「あ、そだ」
 

 暗くなりかけた二葉の表情が、ぱっと明るくなった。
 

「どした?」

「せっかくだから、この『力』に名前つけよーよ」

「はあ?」

「そうね、そうやって『認識』を高めていけば、コントロールしやすくなるかも」

「7つよね……7……なな……ナナ……」

「一週間だし、『DAY by DAY』とか?」

「7……七色……虹……あ、『ラルク』がいいな。で、赤とか青とか名前つけるの」

「日替わりだろ? 『日替わり定食』でいーじゃねーか」

「なにそれ、かわいくなーい! 『ラルク』の方がいい!」

「『日替わり』でいいって」

「私は『DAYバ』……やっぱいいです」

「『さんま定食』とか『うどん定食』とか」

「そんなの、絶対ヤダ〜!!!」

<SEASON 2:了>

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