あたたかさ。やわらかさ。おもさ。
そんなものを感じて……僕は目を覚ました。
見覚えのある天井。見覚えのある部屋。
暗くてよく分からないが……そこは間違いなく僕の部屋だった。
目覚し時計に目をやると「3:00 am」というのが見えた。
まだ熱帯夜が続く、夏の夜――の、僕の部屋。
……そこになんで……なんで二葉がいるんだ……?
そう。
夢でも幻でもなく。 僕のすぐ横に……パジャマを着た二葉がいた。
「う……へ……?」
あたたかさ。やわらかさ。おもさ。 二葉が女の子であるということ。 そういうことを急に意識してしまい……顔が赤くなるのが自分で分かった。 と……
「んあ……?」
二葉が目を覚まし……
「き、きゃああああああああ!」
百瀬家に、絶叫が響き渡った。
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飛び降り自殺未遂事件から早3日。
夏期講習がメチャクチャになったので次の日が補習日になったり(これには全校生徒が泣いた)、マスコミが来たり、二葉が病院に行ったり警察に話を聞かれたり、飛び降りた子の見舞いに行ったり……と平穏とは言えない日々が続いていたのだが、それでもやっと一息つけたとこだったのだ。
それが何で……って全然関係ない気もするが……とにかく、何でこーゆーことになってるんだ?
混乱と驚きで、まだ心臓がバクバクいっている。
どうやら……母さんたちは目を覚まさなかったみたいだな……。
とりあえずそのことに安心し、僕は改めて二葉の方を見た。
半袖の上着に七分丈のズボン。そんなデザインのパジャマを着た二葉が、きょとんとした目で同じようにこっちを見ている。
「あ……なんだ、カズちゃんか。……オバケかと思った」
「つーか……もっと他に驚くことあるだろ?」
「ここって……カズマの部屋……? ……なんで?」
「知るか」
「………………。……ねえ」
「うん?」
「これって……ヤバイ?」
「たぶんな」
「だよね。……一応、お年頃の高校生だもんね」
「いや、つーか…………やっぱ超能力か?」
「へ?」
「やっぱまた……超能力なのか?」
確認するまでもなく、こういう不可解なことが起こったときはまず間違いないだろう。
「てことは……『テレポーテーション』ってやつ? ……やったぁ!」
「……喜ぶなよ」
「だって、一番欲しかった『力』だもん。――便利だよ〜、きっと」
「――で、どうやってここに来たんだ?」
「さあ」
「さあ……って」
なんだか……気が抜けてしまった。
さっきまで感じていた、ちょっとエッチなドキドキもおさまってしまっていた。
つーかオレ……二葉のことそういう風に見てたってことか……? ……マジかよ。
「あはは……どうやって帰ろう……」
「どうやってって…………そーだな。1、今から歩いて帰る。2、何とか超能力を使って帰る。3、……夏休みだし、今夜は泊まっていく」
「3でいい。眠いし」
即答ですか。……いや、でもそーすると俺は……
「んじゃ、寝るね。……こっち来たら怒るからね。できれば別の部屋で寝てね。おやすみ〜!」
「ちょっとまて、おい! ……ってぇ」
横になってわずか数秒で――二葉はもう夢の中にいた。
「冗談じゃねーぞ……。ったく……」
ひょっとしたらそれはたぬき寝入りだったのかもしれないし、二葉なりの照れ隠しだったのかもしれない。
でも僕にはそんな風に考える余裕もなく……ゴチャゴチャでモヤモヤとした気分のまま、床に転がった。
案の定、なかなか睡魔は襲ってきてくれなかった。
とにかくこうして。二葉は7つめの――最後の超能力に目覚めた。
そして……1ヶ月が過ぎた。
9月の半ばになっても、まだ残暑は続いていた。
そんなある日のこと。
話があるという新崎とともに、僕と二葉は学校帰りにファミレスに寄った。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「チョコパフェを」
「宇治金時ください」
「イチゴミルク」
ちなみに新崎がチョコパフェで二葉が宇治金時、で、僕がイチゴミルクである。
「で、話ってなんだ?」
ウェイトレスが向こうにいくのを待って、僕は新崎に話をうながした。
「えとね……あれから1ヶ月ぐらい経ったでしょ? でね、二葉の能力の統計を取ってたんだけど……どうやら『力』が安定してきたみたいなの」
「安定?」
「ええ」
新崎はカバンからルーズリーフを取り出し、丸っこい字で何かを書き始めた。
「ニイザキって、結構字、ヘタなのな」
「……ほっといて。――これを見て」
紙に目をやる。どうやらそれは、二葉の超能力を書き出したものらしかった。
1.サイコキネシス(PK)
2.透視(クレアヴォヤンス) 3.物品引き寄せ(アポーツ) 4.遠隔視(リモート・ビューイング) 5.読心(マインド・リーディング) 6.空中浮揚(レヴィテーション) 7.遠隔移動(テレポーテーション) |
「この7つが、二葉の能力よ。最初は発動条件も発動期間もバラバラだったけど……さっき言ったように最近安定してきたみたいなの。しかも、法則があるみたい」
「そうなのか?」
僕の問いかけに、新崎はこっくりと首を縦に振った。
「『力』はほぼ24時間ごとに変わるようね。順番はランダムだけど。で、その7日間のうちは同じ『力』は発動しない」
「……どういうこと?」
当人である二葉は首をかしげている。
「お前、自分のことだろ……? つまり……例えば、最初の7日間――一週間はこの紙に書いてある順番に『力』が発動したとするよな。でも次の週は下から順に発動するかもしれない。でも、同じ『力』が2日続いたりすることはない」
「そう。だから週の後半になれば、どの『力』が発動するか予想しやすくなるの」
「えーとつまり……月月火火木金金って風にはならないってことね?」
「よくわかんない例えだけど……まあ、そういうことね。……と」
パフェが運ばれてくるのを見て、新崎はあわててルーズリーフを裏返した。
テーブルの上に置かれたパフェやらかき氷やらを、しばらく無言でつつく。
「で、さ……、ちなみに今日は何なんだ?」
「今日はね、『アポーツ』だよ」
「今日は金曜よね。じゃあ……明日は『マインド・リーディング』だわ。……日曜日がサイクルのはじまりみたいだから」
「読心かぁ……。明日は家にいよーっと」
そうすれば、他人の『心の声』を聞かなくてすむからだ。
なんか……うまくコントロールする手段があればいいんだけどなぁ……。
「あ、そだ」
暗くなりかけた二葉の表情が、ぱっと明るくなった。
「どした?」
「せっかくだから、この『力』に名前つけよーよ」
「はあ?」
「そうね、そうやって『認識』を高めていけば、コントロールしやすくなるかも」
「7つよね……7……なな……ナナ……」
「一週間だし、『DAY by DAY』とか?」
「7……七色……虹……あ、『ラルク』がいいな。で、赤とか青とか名前つけるの」
「日替わりだろ? 『日替わり定食』でいーじゃねーか」
「なにそれ、かわいくなーい! 『ラルク』の方がいい!」
「『日替わり』でいいって」
「私は『DAYバ』……やっぱいいです」
「『さんま定食』とか『うどん定食』とか」
「そんなの、絶対ヤダ〜!!!」
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