「百瀬……約束は、守ってもらうぞ」
約束……。涼との、約束……
僕は思い出していた。ついさっき交わした、『約束』のことを──
新崎が倒れ、激しく咳き込んでいたとき。 「保健委員! 涼! 早くきてくれ!」 「呼んだか?」
返事は、すぐ後ろからした。
「涼、新崎を保健室に運ぶ。手伝ってくれ」 「やなこった」 「は?」 「ここはA組、俺はC組。……そういうことだ」 「ならなぜお前はここにいる。朝もいただろ」 「百瀬を勧誘するためだ」 「まあいい、手伝え」 「入部するなら、手伝ってやろう」 「卑怯だぞ」 「その娘がどうなってもいいのか」
悪人か、お前は。
何もこんなヤツに頼む必要はない。僕はA組の保健委員を探して首をめぐらせた。
「……ちっ、いないか」
僕の言葉に、涼が勝ち誇った笑みを浮かべる。そして、言った。
「どうかその娘を運ばせてください。その代わりセ式茶道部には入部してもらうぞ!」
……どういうものの頼み方だ、それは。
新崎の咳はどんどんひどくなっていく。C組から来た二葉も心配そうにしている。
……しょーがない……
「分かったから手伝え、涼」
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……そうだった……
「カズマ、セ式茶道部に入るの?」
「そうだ、百瀬は我が部に骨をうずめることになった」
「そっかー……。じゃ、よろしくね涼くん。カズマ帰宅部だったからちょうどよかったわ」
「二葉、お前だって帰宅部だろーが」
「あたしは自転車通学部だもん」
「あるか、んなもん。それに元だろ、モト」
交通事故以来、二葉もバス通学になった(そして僕は、二葉のおやじさんとサブローさんに「二葉を命懸けで守ってくれ」と涙ながらに頼まれた)。
……つーかありゃホントに泣いてたよなー……。 「じゃ、バス通学部とゆーことで」 「だったら俺だってそーだろうが」 「なら、女子バス通学部」 「お前なぁ……」 「ま、それはおいといて──」
何かをどけるようなジェスチャーをしたあと、
「あたしはオルハのとこ行ってくるから、カズマのことよろしくお願いします」
二葉は、涼に向かって深々と頭を下げたのだった。 |
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「いい子だな、奥居は」
「そーか?」
……分かってるんだ、そんなことは。
そう思った自分にちょっと驚き……さっき、いつもどーりに二葉と話せたことがうれしい自分に──もうちょっと驚いた。
「部室は、その先だ」
「ふーん……」
僕たちは、セ式茶道部の部室とやらに向かっていた。
「涼は……二葉と同じクラスだよな?」
「ああ」
「あいつ……クラスではどんななんだ?」
「んー……水沢と仲がいいな」
「水沢……生徒会書記の水沢小鈴か?」
「ああ。生徒会室でいろいろ高いもん飲み食いして遊んでるみたいだぜ」
「お金は?」
「ガッコの金だろ」
……それは犯罪なんじゃないか?
「なあ。あいつ……最近変じゃないか?」
「変?」
「あ……ああ」
「そーいや……いつもより元気がない気はするな」
元気がない……か。
二葉のヤツ……やっぱ何か変だよな。
俺は……俺はただ……
知りたいだけだ……。それだけなのに……。
やがて、思っていたよりも立派な和風の建物が見えてきた。
二葉が元気なくてニイザキが倒れたってときに……俺はこんなとこで何をやってるんだろう……
自己嫌悪におちいりつつ……僕は、セ式茶道部の部室へ足を踏み入れた。
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