Brand-new Heaven2 #3

僕とアイツと彼女の話

「百瀬……約束は、守ってもらうぞ」
 

 約束……。涼との、約束……
 

 僕は思い出していた。ついさっき交わした、『約束』のことを──



 新崎が倒れ、激しく咳き込んでいたとき。
 

「保健委員!  涼!  早くきてくれ!」 

「呼んだか?」
 

 返事は、すぐ後ろからした。
 

「涼、新崎を保健室に運ぶ。手伝ってくれ」

「やなこった」

「は?」

「ここはA組、俺はC組。……そういうことだ」

「ならなぜお前はここにいる。朝もいただろ」

「百瀬を勧誘するためだ」

「まあいい、手伝え」

「入部するなら、手伝ってやろう」

「卑怯だぞ」

「その娘がどうなってもいいのか」
 

 悪人か、お前は。
 

 何もこんなヤツに頼む必要はない。僕はA組の保健委員を探して首をめぐらせた。
 

「……ちっ、いないか」
 

 僕の言葉に、涼が勝ち誇った笑みを浮かべる。そして、言った。
 

「どうかその娘を運ばせてください。その代わりセ式茶道部には入部してもらうぞ!」
 

 ……どういうものの頼み方だ、それは。
 

 新崎の咳はどんどんひどくなっていく。C組から来た二葉も心配そうにしている。
 

 ……しょーがない……
 

「分かったから手伝え、涼」

 


 ……そうだった……
 

「カズマ、セ式茶道部に入るの?」

「そうだ、百瀬は我が部に骨をうずめることになった」

「そっかー……。じゃ、よろしくね涼くん。カズマ帰宅部だったからちょうどよかったわ」

「二葉、お前だって帰宅部だろーが」

「あたしは自転車通学部だもん」

「あるか、んなもん。それに元だろ、モト」
 

 交通事故以来、二葉もバス通学になった(そして僕は、二葉のおやじさんとサブローさんに「二葉を命懸けで守ってくれ」と涙ながらに頼まれた)
 


 ……つーかありゃホントに泣いてたよなー……。
 

「じゃ、バス通学部とゆーことで」

「だったら俺だってそーだろうが」

「なら、女子バス通学部」

「お前なぁ……」

「ま、それはおいといて──」
 

 何かをどけるようなジェスチャーをしたあと、
 

「あたしはオルハのとこ行ってくるから、カズマのことよろしくお願いします」
 

 二葉は、涼に向かって深々と頭を下げたのだった。


「いい子だな、奥居は」

「そーか?」
 

 ……分かってるんだ、そんなことは。
 

 そう思った自分にちょっと驚き……さっき、いつもどーりに二葉と話せたことがうれしい自分に──もうちょっと驚いた。
 

「部室は、その先だ」

「ふーん……」
 

 僕たちは、セ式茶道部の部室とやらに向かっていた。
 

「涼は……二葉と同じクラスだよな?」

「ああ」

「あいつ……クラスではどんななんだ?」

「んー……水沢と仲がいいな」

「水沢……生徒会書記の水沢小鈴か?」

「ああ。生徒会室でいろいろ高いもん飲み食いして遊んでるみたいだぜ」

「お金は?」

「ガッコの金だろ」
 

 ……それは犯罪なんじゃないか?
 

「なあ。あいつ……最近変じゃないか?」

「変?」

「あ……ああ」

「そーいや……いつもより元気がない気はするな」
 

 元気がない……か。
 

 二葉のヤツ……やっぱ何か変だよな。
 

 俺は……俺はただ……

 知りたいだけだ……。それだけなのに……。
 

 やがて、思っていたよりも立派な和風の建物が見えてきた。
 

 二葉が元気なくてニイザキが倒れたってときに……俺はこんなとこで何をやってるんだろう……
 

 自己嫌悪におちいりつつ……僕は、セ式茶道部の部室へ足を踏み入れた。
 

<つづく>

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