二葉に避けられてるかもしんねー……
そう思ったのは、その日の放課後だった。
アレから約3ヶ月。
季節は夏真っ盛りで、夏期講習の真っ只中だったりする。
5時を過ぎても外はまだ明るくて、僕は屋上でぼぉーとしていた。
僕の横には、新崎織葉がいる。学校での彼女は相変わらず地味だ。
「ふふ」
新崎は、小さく笑った。
「たった一日で、避けられてると思ったの?」
「……露骨なんだよ、アイツは」 「そういうことすぐ気にするなんて……百瀬君、ちょっと意外だな」
新崎はまた小さく笑った。考え過ぎだと言いたいらしい。 アレから約3ヶ月。 僕と新崎は、こうやって普通にしゃべれるようになっていた。 二葉と3人でいることが多くなり、新崎は少し明るくなったような気がする。
「もし本当にそうなら、何か理由があるんじゃない?」 「理由、ねえ……」
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僕は、首をひねった。
そんな僕をバカにするように、セミの声が一際大きくなった……ような気がした。
超能力には大きく分けて2種類あるらしい。 一般にESPと呼ばれる感覚外知覚――透視、テレパシー、予知などの認知型の超能力――と、PKあるいはサイコキネシスと呼ばれる、いわゆる念動力だ。 二葉の力は、PKの方に属するらしい……たぶん。 なにせ情報源が、『超能力大百科』という子供向けの本だから何とも怪しい。
二葉が退院してからすぐの日曜日、僕は彼女を家に呼んだ。 二葉の『力』のことをじっくり調べるためだ。 そのとき彼女が持ってきた本が、この『大百科』だったワケで。
「兄貴の本なんだけどねー」 「サブローさんて、こういうの読んでたのか……ってこれ、新しいじゃん。今年の3月に出たヤツだ」 「そ。二十歳越えてるのにこういうの大好きなのよね……」
バーン!!
突然、部屋のドアが勢いよく開いた。『突撃』してきたのは母さんと……父さんもかッ!
「二葉ちゃーん! よく来たわねー。ゆっくりしていってねー。絶対晩御飯食べていってねー。おばさんフンパツするからねー!」
僕は、頭をかかえた。
……なぜにそこまでテンション高いか。
僕に突っ込む隙も与えず、ふたりはもう部屋の外へ飛び出していっている。
「……わりィ」 「ん〜ん、いつも仲がよくて、いいね」
でも考えてみれば確かに、二葉がうちに来るのはずいぶんと久し振りのことだ。
「それより話はサブローさんの趣味……じゃなくて、チョーノーリョクの方だ」 「そだね」 「物を持ち上げたりは、できないのか?」 「できない」 「じゃあ……スプーン曲げるだけ?」 「てゆーか…………スプーン、曲がらなくなっちゃった」 「……はあ?」
つまり……超能力が消えてしまったってことか?
「それじゃわざわざ今日――」 「でね!」
二葉が、僕の言葉をさえぎった。
「その代わり、透視なのッ!」 「……ト……?」 「だからッ! 例えば今日のカズマのパンツが青だったりするのが見えるのッ!」
僕は……いろんなイミで、血の気が引いた。
遠くの風景が見えたりする、いわゆる『遠隔視(リモート・ビューイング)』ではなく、二葉の場合はあくまで「透けて」見えるらしい。
「じゃあ……トランプとかも……」 「うん、丸見え。……集中して見ないと、分かんないけどね」 「ちょっと待て」 「ん?」 「てことは……俺のパンツを集中して見たのか! わざわざ!」 「えへへ」 「えへへじゃね〜!」
ちゃぶ台でもひっくり返したい気分だ。
「だからね、PKだけじゃなくって、ESPってヤツも使えるみたい」 「……そーだな」 「あのね……」 「……おう」 「あの…………怒った?」
怒ったというか……こっぱずかしいだけだ。
「じゃあ……」
二葉は立ち上がり……スカートの裾をつまんだ。
「あたしのも見せるから……それでおあいこにしよ?」
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新崎が、3歩ほど引いた。
「まさか百瀬君……それで無理矢理……」
「見るかーーーいッ!」
思わず、ツッコミを入れる。
もちろん二葉も冗談だったらしく、ニタリと笑った後ゲラゲラ大笑いしていたが。
……ちょっとドキドキしたなんて、ゼッテー言えねー……。
「つまり、百瀬君がパ……し、下着を見たから怒ってさけてるワケじゃないのね?」
「だから、見てないっつの。それにあれは、2ヶ月も前のことだぞ? なんで今更なんだよ」
「それもそうか……」
でもそれじゃあ……なんでなんだ?
「なあニイザキ……腹、減ってない? マックにでも行かないか?」
今更ながらふたりきりであることに緊張しつつ、僕は新崎に声をかけた。
彼女は、こっくりうなずいた。
新崎だって、ハンバーガーぐらいは食べる。
話の続きは……また明日だな。
僕たちは、夕日に背を向け歩き出した。
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